第二話 学校
ゆらゆらと。片道四十分の通学路をバスが走る。乗員は二人だけ。目的地に到着するまで滅多な事では他の人物は乗ってこない。よく廃線にならないものだと感心する。
あれほど走って疲れたのか、それとも単純に寝足り無いのか。野々香はトウマの肩に頭を預けて眠っている。と、なじみの運転手が声をかけてきた。
「あいかわらず仲が良いね。うらやましいよ。」
「はは。いつも無理やり起こしてますからね。枕代わりに位なってやらないと。」
「妹さん、ほんとに朝に弱いんだねぇ。・・・普段からは想像もできないけどなぁ。」
「まぁ・・・人間欠点の一つや二つ、どっかにあるってことですよ。」
彼の妹である野々香は、人当たりも良く、学校の成績も上の部類に入り、兄のひいき目を除いてもなかなかに可愛らしい。トウマの悪友の話では、「北高における上半期妹にしたいベストテン」に、常に上位でランクインしているらしい。そのため学校では「兄貴」「兄さん」「いやむしろお義兄様」と言い寄る男子学生が後を絶たず、頭痛のタネになっていたりする。・・・無論全て突っぱねてはいるが。
運転手とたわいない世間話をするうちに、目的地に到着した。
「着いたか。ほれ野々香。起きろ。」
つんつん、と頬をつつく。
「う〜?・・・・・・あ。おはよう。お兄ちゃん。」
「・・・はぁ。ほれ、もう学校だぞ。スイッチ入れなさい。」
「うん。・・・ふぁぁぁ・・・。あ、おはようございます。運転手さん。」
「はい、おはよう。気をつけてね。」
くっくっ、と笑いを噛み殺しながら答える。一応乗るときにも挨拶はしたのだが、覚えていなかったのだろう。
県立豊北高等学校。通称「北高」。二人が通う学校の名である。偏差値は中の中。彼らのバス停から徒歩十分の場所にあるいたって普通の高校である。
「いよぉう。日野兄妹。今日も元気か?」
・・・朝から無駄に元気な男に会ってしまった。
「・・・葉山。珍しいな。お前が遅刻しないとは。」
「なぁに言ってんだよ!野々香ちゃんに会うためなら例え火の中スカートの中!!」
「ネタが古いんだよ。ていうか実際にやったら殴るぞ。」
「あ、葉山先輩。おはようございます。」
この男は葉山巧。トウマとは中学からの腐れ縁である。学校一のお調子者で、よく「○半期○○○ベストテン!」などを企画していたりする。が、その集計方法は不明。独断と偏見で決めていると思われるが、一説によれば学校中に情報のネットワークを持っていて、先生でも迂闊に干渉できないとかなんとか。
「で?なんか得ダネでもあるのか?じゃなきゃ来ないだろ。こんな時間に。」
「お。勘がいいな。結構なネタがあんのさ。どうもな、学校の生徒が一人行方不明になったらしいんだわ。」
「「行方不明?」」
「ああ。まだ細かいことまで分かってないんだが、突然音信不通になっちまったらしい。」
「・・・怖いですね・・・。」
「安心しろ野々香ちゃん!いざとなったらこの俺が・・・」
「ねえお兄ちゃん。今日一緒に帰ってもいいかな?」
「ん?まあ別に構わないけど・・・心配性なやつだな。」
「だって・・・。」
「いいよ。じゃあ今日は校門の前で待ってるからな。」
「うん!ありがとう。お兄ちゃん。」
「・・・・・・・ボソッ(このシスコン)」
「なんか言ったか?」
「い〜やなんにも。それよりさっさと行こうぜ。」
葉山に急かされ学校に向かう。今日は家庭訪問があるとかで、四時間授業だったはずだ。
午前中の授業が終わり、昼休み。購買で買った焼きそばパンをもそもそと食べていた。と、
ドダダダダダダァーーーーーーーーーー
何かがすごい勢いで教室前を通過していった。何事かと廊下に顔をだしてみると。
「俺の昼飯をパンの耳に代えやがってぇぇぇーーーーー!!!!」
「二十枚分なんてそうそうお目にかかれないんだからいいじゃないかーーー!!」
「そういう問題かぁぁーーーーーーっ!!!!」
何事なのだろうか。そう叫びながら生徒が生徒を追いかけていた。不思議なこともあるものだ。
「ん?ありゃ社長じゃねえか。」
今の騒ぎを聞きつけたのか、葉山も廊下を爆走する生徒を眺めていた。
「社長?息子とか?」
「いんや。いつも重役出勤で現れるから社長。ちなみに本名は野村勇二・・・だったかな?」
「へぇ・・・。変わったやつもいるもんだ。」
「ま、な。それより大貧民やらねぇ?」
「いいぞ。ただし賭けはなしだ。」
「えー。一回百円でいいから。」
「嫌だ。」
結果八連勝。これなら賭けにしてもよかったかもしれないが、まぁ触らぬ神に祟りなし、だ。
そして放課後。帰りのホームルームではこれといって変わった報告はなかったが、変質者が出たので注意するように、とのことだった。
校門で野々香を待つ。十分ほどで下駄箱付近に出てきたのが見えた。向こうもきがついたのか、小走りにやってくる。
「ごめんね。ホームルームが長引いちゃって。」
「別にいいよ。で、まっすぐ帰るのか?」
「あ、ちょっと買い物と・・・寄りたいところがあるんだけど、いいかな?」
「?・・・ああ、いつもの骨董屋か。」
「うん。なにか新しいものが入ったって、おじいさんが言ってたんだ。」
おじいさん、とは骨董屋の店主のことだ。こうみえて野々香は古い物を見るのが趣味なのである。市街地に古い骨董屋を見つけてからというもの、ちょくちょく顔を出しているらしい。
「よし。んじゃ、ちゃっちゃと行くとするか。」
「うんっ!」
骨董屋「卍屋」。店内では老店主がうれしそうに笑っていた。
「いやぁ大漁大漁。よい品が入ったもんじゃ。」
ご満悦である。自分の気に入った品を数多く仕入れることができたのだ。新しく仕入れた品を一つずつ眺めている。
・・・・・・・その中に一つだけ。ほかとは違う雰囲気の品があった。
「ありゃあ?こんなもん仕入れたかのぅ??」
老店主は不思議には思ったが、さして気にしなかった。業者が間違えて運んだのだろう。このぐらいなら役得という物である。
「うむ。運のいいこともあるもんじゃ。」
店主はさらに上機嫌で商品を棚に並べていった。たまたま手に入った、その絵というか、模様というか。が描かれたレリーフのような物も一緒に・・・・・・・。
どうも、こめです。さて、お気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、今回、作家さんのご厚意で別の作品から少しだけキャラクターをお借りしました。このサイトに掲載されているSOULEATERと言う小説なのですが、もし未読の方がいらしたら、是非そちらの方も読んでみてくださいねー!