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名無しの物語  作者: こめ
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第十六話 狼



「えへへへ〜。」


「・・・・・・。」



・・・痛い。突き刺さるような視線が痛い。



あの後。野々香によってムイは強制連行され、入れ違いで入ってきたユイと風呂に入り、あ〜すっきりしたと風呂場から出たとたん、彗星のごとき勢いでムイが飛びついてきた。その速度、たぶん通常の三倍。

邪険に扱う訳にも行かず、ベッドに腰掛けてさっきから適当にいなしてはいるものの。


「・・・・・・。」


野々香の非難めいた視線の集中砲火をあびている、と言うわけだ。


「ご主人様ぁ〜♪。」


更に高まる視線のエネルギー。うう・・・居心地が悪い・・・。が、実際ムイは可愛いし、背丈も丁度いい。干したての布団のような匂いもするので抱き心地は非常に良かったりする。ご主人様なんて甘えられた日には頭をなでてやりたい衝動に猛烈に駆られるのだが、


「・・・・・・・。」


横から発せられている無言のプレッシャーにとてもではないがそんなことをする余裕はない。

そんな中、トウマは二人に聞かなければならないことがあった。



「あ〜、その、なんだ?一応、もう一度二人に聞いときたいことがあるんだが。」


「?何何??」


「・・・何でしょう。」



こほん、といったん間をおく。



「俺達は明日ここを発とうと思う。二人は、それに付いて来る。本当に、それでいいんだな?」



「・・・はい。」


「ボクも、ご主人様と一緒に行く!」



意思確認。しつこいようかもしれないが、どうしてもしておかなければならなかった。更に続ける。



「旅先では何が起こるか分からん。最悪、もうここには戻ってはこれんかも知れん。それでもか?」


「・・・それは・・・。」


「・・・大丈夫。ボク達・・・ここに戻るつもり、ないもん。」


「え・・・?」



抱きついたまま、ムイがそう言う。



「戻るつもりが無いって、ここはムイたちの故郷だろ?」


「・・・そうだけど・・・ボク達、きっとここに生まれてきちゃ、いけなかったんだよ。」


「・・・ムイ・・・。」


「周りの皆はいつもボク達のこと、忌み子だ、忌み子だって言うし、何かあると必ずボク達が

いけないんだって事になるし、大人も子供も皆ボク達のこといじめるし・・・。」


「ムイ・・・!」



ユイが止めようとするが、それでも。



「今日だって、今日だってご主人様が来てくれなきゃ、きっと・・・!」


ぽふ、と、やさしく抱きしめて黙らせる。ムイは、ぽろぽろと泣いていた。



「わぅ・・・。」


「・・・ごめんな。泣かせるつもりじゃなかったんだが。」



ふるふると、ちいさく首を振る。服をつかむ手に、少しだけ力がこもっていた。



「・・・わかった、もう何も言わん。一緒に行こう。・・・野々香も、それでいいよな?」


「・・・うん。お兄ちゃんがいいなら、私は何も言わないよ。」


「すまん。・・・二人とも、改めてよろしくな。」


「はい。よろしくお願いします。」


「ぐしゅ・・・ご主人様〜!」


「ああもう泣くなってば。さ、明日は早いんだし、さっさと寝ちまおう。」



・・・が、そこで問題が起こった。ベッドが一つしかないのだ。いつもはムイとユイで一緒に寝てるらしいが、さすがに四人は入らない。



「あ〜、いいや。俺床で寝るよ。たいして寒くもないし。」


「じゃあ、ボクも一緒に床で寝る!」


「わ、私も!」


「僕だけベッドで寝るわけには・・・。」



結局、全員床で寝ることになった。公平なる協議(じゃんけんとも言う)の結果、野々香→ムイ→俺→ユイ、という並びになった。



「じゃ、消しますよ。」


そう言ってユイが明かりを消す。必要以上にトウマに抱きつくムイと、再び襲ってくるプレッシャーをいなしつつ、四人の忙しい一日は終わりを告げた・・・。

















・・・のならば、良かったのだが。



明かりを消して、小一時間ほど経っただろうか。



トウマは、周りを起こさないようにゆっくりと起き上がり、抜き足差し足で家の出入り口に向かった。



扉を静かに開け、外に出る。閉めるときも極力音を出さず。



よし。次は、裏手に回り、風呂焚き用の薪持ってきて、窓ににはさみ、内側から窓を開けられないようにする。



最後に、風呂がまの横にある大きな水がめを・・・出入り口の前に。



「ふ〜。これでよし、と。」



これで、この家は内側からは簡単には出られなくなった。



「よっ・・・と。」



家から少し離れ、伸脚、屈伸。体を捻ったり、上体をそらしたり。いわゆる、準備運動を始める。



「ふんぬっ・・・。・・・おおい。いい加減でてこいよ。」



そう、呼びかける。と、白く、朝見た狼よりも一回り大きい狼が、すっ、と森から出てきた。・・・一匹や二匹ではない出てきただけでも数十匹、森の奥にもまだまだたくさんいるだろう。下手をすれば三桁軽く超えるんではなかろうか。



「・・・まいったな。思ってたよりだいぶ多い・・・。」



そう小さくつぶやく。が、引くわけには行かない。



と、白い狼の群れが、二つに分かれた。



「・・・?」



怪訝に思って見ていると、狼達の奥から、



「なっ・・・!!」



ありえない物が、現れた。



形は、確かに周りの狼と変わらない。が、



「デカい・・・。」



象ほどはあろうかと言うとてつもなく巨大な狼が、こちらへ悠然と歩いてきていた・・・。





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