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名無しの物語  作者: こめ
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第十五話 仲間





「・・・すいません。」


「ん〜?いいって。気にしなさんな。ご飯までご馳走になっちゃ、手伝わない訳にゃいかないよ。」




トウマとユイの二人は、家の外で風呂焚き作業を行っていた。あの後色々と話し込んでしまい、結局泊めてもらう事になったのだ。夕飯をご馳走になり、女の子は後片付け、男は風呂焚きと作業分担し、それぞれ持ち場に移った、訳なのだが・・・



「しかし、すごい夕食だったなぁ・・・。」


「・・・?」



薪をくべながらトウマがぼやく。それを?という様子で聞いていたユイが、



「あ・・・お口に合いませんでしたか?夕ご飯。」



すこし不安げな様子で聞いてきた。



「ん?あ、いやいや。おいしかったよ?」



今日出された夕食。それは、一言で言えば・・・肉、だった。それも巨大な。なんと言えばいいのか、直径三十センチ程の骨付きの丸焼き肉を想像してもらえばいいのだろうか。それが一人一つずつ。味付けは塩コショウのみ。もちろんナイフとかフォークは無い。なんともHPが増えそうな料理だった。またそれに顔が汚れるのをお構いナシでかぶりつくムイが印象的だった。



「・・・そうですか。・・・良かった。」


そう言って風呂焚き作業に戻る。・・・まだ会って少しだが、このユイという男の子は結構無口な子だった。普段も割合ぼぉっとしている様だし、少し眠そうな眼からは、感情を上手く読み取れなかった。が、話していて解ったのは、ムイは感情の制御が苦手だということ。嬉しいときは喜ぶ、悲しいときは泣く、といった具合だ。対してこのユイは感情の表現が苦手なようだ。ムイのように体当たりで表現できるわけでもない。しかし感情が無いわけでも無いので、どうしていいかわからない、といった感じだ。まあ二人とも尻尾は嘘をつけないようなのでわかりやすいと言えばわかりやすいのだが。



「ん・・・?」


そうして作業を続ける内、ふ、と。何か違和感を感じた。違和感?いや、これは・・・


「お〜い。ユイ。」


「・・・?」


「ここはもう俺一人でいいから。先に中入ってて。」


「え?・・・いいんですか?」


「おう。まかしとけ。」


「・・・はい。わかりました。」



そうして、ユイは素直に家の中に入って行った。


「・・・さて、と。」


後ろの森を見据える。手には、薪が一本。


「・・・・・・・・・うおりゃぁっ!!」


何の前触れもなく、薪を思いっきり森の一部へと投げつけた。すると、ガサササッ、と、薪が森に突き刺さるのとは全く別の音が聞こえたかと思うと、何か白い物体が森の奥へと走り去っていった。


「ふむ・・・。」


すこし腕組みをして考えるしぐさをした後、もう2〜3本薪をくべてから、トウマも家の中へと入っていった。



「あ、トウマ!おかえり〜!」


ムイが元気良く迎える。


「おかえりって。別に出かけてたわけじゃないんだし。」


「う?ん〜。でも、おかえりなさい!」


尻尾をふりふり、そう言ってくれる。なんだか無性に嬉しかった。


「あ、お兄ちゃん。お風呂、いい具合だよ。」


燗を見てきたのか、野々香が奥の部屋から出てくる。


「ねね、トウマ、トウマ!一緒に入ろ!」


「え。」


「えええっ!」


「・・・。」


なぜかトウマ本人より野々香の反応の方が大きかった。


「だ、だめだよムイちゃん!そんな、いっしょに・・・なんて・・・。」


「ふえ?なんで??」


ごにょごにょと尻すぼみになる野々香に対し頭に?マークが浮かぶムイ。


「あ、そっか。皆で一緒に入った方がいいよね。」


「へっ!?」


思わぬ提案に固まる野々香。・・・ここは一つからかってみるか。


「お、いいな。皆で入るか。」


「ええ!?」


「・・・そうですね。そうしましょう。」


「・・・・・・お、お兄ちゃんと一緒に・・・お風呂・・・!?」



三対一。野々香は向こうを向いて何かつぶやきながら林檎みたいに赤くなっている。・・・相変わらず可愛い奴だ。よし、ホントに入るわけにもいかんし、助け舟を出すか。



「あ・・・う・・・。じ、じゃあ・・・。」


「と、思ったんだけど、やっぱり女の子組と男組に分かれてくれるか?」


「・・・え?」


「え〜!!なんでなんで〜!」


「俺達の世界じゃそれが普通なんだ。たのむよ。」


「む〜。一緒に入った方が楽しいのに〜!」


「・・・・・・。」


「また今度、な?」


「う〜。絶対だよ?」



しぶしぶ、ではあったが了解してくれた。・・・ん?なんか野々香が複雑そうな顔をしているような。



「?どした?」


「う、ううん。なんでもない・・・。」



どうしたんだろう。なんだか勇気を振り絞ったのにそれが空振りに終わったかのような、そんな感じだった。



「んじゃ、先に入ってきてくれるか?」


「うん!野々香ちゃん、行こ!」


「じゃあ、先に入ってくるね。」










「・・・・・・。」


「あ、すまんかったな、勝手に決めちゃって。やっぱ皆で入った方がよかったかな?」



割と広めのリビングに二人だけ取り残される。元気星のムイがいなくなると火が消えたように静かになった。



「・・・いえ。それはそれで楽しかったと思いますけど、・・・むしろ丁度良かったかもしれません。」


「丁度いい?・・・どうゆうことだい?」


「トウマさん。会って一日も経っていないあなたにこんな事を言うのは何なのですが・・・折り入ってお願いがあるんです。」


「・・・お願い?」



真剣なユイの表情に、少しだけ身を硬くする。



「はい・・・。僕達の一族は、見て分かると思いますがアニマルハーフ、獣と人が半々の特殊な生物です。と言ってもこの世界では割とあったりするんですが・・・とにかく、そのおかげかこの周辺の生き物の中では長のような地位にありました。」


「ふむ。なるほど。」


「ですが・・・ある時、二つの異変が起こりました。」


「・・・異変?」


「はい。ひとつは、獣達の中で、僕達に代わり別の獣が長を務めるべきだという主張が高まりつつあった事。もう一つは・・・僕達が生まれたことです。」



少しだけ。・・・ほんの少しだけユイは悲しげな表情になる。



「ユイ達が・・・生まれたこと?」


「・・・僕達の一族の中では、理由は知りませんが双子を不吉とする慣習があるんです。そのため、双子が生まれた場合、どちらかを間引かねばなりませんでした。でも・・・僕達の両親は、それを拒みました。」


「・・・・・・。」


「結果、獣達から反感を買い、長の座から引き摺り下ろされ・・・最後には嵐の夜に土砂崩れに巻きこまれ亡くなってしまいました。」


「・・・そっか。色々大変だったんだな・・・。」



言って、こんな月並みなことしか言えない自分に腹が立った。だが、他にどう言えば良いのかも分からない。



「正直な話、僕達は長の座になんて興味は無かったし、たとえ二人になっても静かに過ごせるならそれで良いと思っていました。でも・・・周りはそれを許してはくれませんでした。日照りが続けば、大雨が降れば、大地震や雷が落ちれば。何かあるたび、僕達は非難され、責められてきました。最近では少し外を歩くだけでも、昼間のような状態になるんです。」



ユイの声が震えている。本当に、悔しいのだろう。



「お願いです。・・・僕達を契約獣として、旅に同行させていただけませんか・・・?」


「は?契約・・・獣?」



聞きなれない単語に、少しだけ戸惑う。



「はい。獣や魔物に限らず、主従を結び契約を交わした関係であればそう呼びます。」


「ち、ちょっと待った。俺らの旅に連いててくってのはまだしも、別に契約なんて交わさなくても・・・。」


「いえ、これからトウマさんは王宮に向かうんですよね?そうなると身元のよく分からない僕達を連れては王都に入る事すら難しくなるでしょう。契約獣になっておいたほうが何かと都合がいいんです。幸い契約の儀も左程難しい物ではありませんし。」


「しかしなぁ・・・。そういえば、このことはムイちゃんには?」


「まだです。ですが、きっと了承してくれると思います。・・・正直、ムイが初対面の人間に

ここまで懐くのは初めてなんです。結構、人見知りしますから。」


「そう・・・なのか?そうは見えんがなぁ・・・?」



意外だった。あの子なら誰とでも仲良くなれそうなんだが。



「それに・・・僕も。でも、トウマさんといると、不思議と落ち着くんです。まるで、ずっと昔から一緒にいるみたいな、そんな感じが。」


「う、ううん・・・。あ〜、俺達はこの世界に来て短い。何が起こるか分からんし、どんな危険が付きまとうかわからん。いざと言うときお前さん達を守れるって自信も保証も無い。それでも、いいのか?」


「トウマさん・・・!」


「あ、それから。ちゃんとムイちゃんに話して、良いって言ったら、な?野々香は・・・まぁ、どうにか説得してみる。」


「ありがとうございます・・・!」



律儀に頭を下げ、尻尾が千切れんばかりの勢いで振れている。なんとなく頭を撫でたげたくなってしまったので、わしゃわしゃと撫でる。



「わ・・・ぅ・・・。」


「ま、あれだ。・・・俺達も、子供二人で暮らす事の大変さは分かるつもりだから、よ。」


(俺達にはじいちゃんがいたし、ずっとマシだったとは思うんだけど、な。)



そんな事を考える。ユイの頭から手を離し、少しだけ、昔を思いだした。



「あ・・・もうおしまい、ですか?」


「へ?・・・なにが?」


「い、いえ!何でも、ありません。」



ユイが慌てて向こうを向く。・・・どうしたのやら。






しばらくして、奥から元気な声が聞こえてきた。二人が上がって来たのだろう。



「さて、どうする?一緒に入るか?」


「・・・いえ、先に入って下さい。ムイに、話をしておきたいですから。終わり次第僕も入ります。」


「そうか。んじゃ、お先に入らせてもらうよ。」









「だあ〜〜〜。い〜いお湯だぁ〜〜〜〜〜〜〜。」


思わずそう声を上げてしまった。風呂場の大きさは四畳半程度だが、一人で浸かるには十二分に広い。それにこんな風に風呂に浸かったのはずいぶん久しぶりな気がする。


「しっかし、風呂の文化まであるとは、どんな異世界だよ〜〜〜。」


所々変わった所はあるものの、ずいぶんと似通った世界だ。まあ、そのおかげでこうして風呂に浸かれているわけだが。



「それにしても、大丈夫かな。話するって言ってたけど。確かに懐いてはくれてたみたいだけど、旅となると話は」



      ・・・・・・・・ずどどどどどどどどどどどど!!!



「べつ・・・ん?なんだぁ?」


なんだろう。まるで何かが猛スピードでこちらにやってきているかのような。



「ごーーーーーしゅーーーーーーーじーーーーーーーーんーーーーーーーさまぁーーーーーーーっ!!!!」


「・・・・・・は?」



ご主人様?あ、アレか。今流行のメイドさんか。いやいやいや、今の声は多分ムイだ。てことは、・・・・・・どういうことだ???何て考えてる内に。



             バァン!!!!!



突き破らんばかりの勢いで風呂場のドアが開け放たれた。そのまま突進してこようとする赤い影。が、風呂場で走ったりすると。



「ご・・・うわ?うわわわわわわわ!!!!」



案の定、滑った。そして、勢いに任せてそのままダーーーーイブ!!!!



「ってうおーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!?????」




どっぱああああああああああああああああああんんん!!!!!!!




「げほっげほっ!ちょっ、大丈夫か!?」


「う゛〜。鼻に水が入った〜。」



けほけほとむせ返るムイの背中を叩く。・・・服着たままだなぁ。



「で、どうしたの?そんなに慌てて。」


「あ、うん。とう・・・ご主人様!」


「・・・・・・。」


「?どうしたの?ご主人様。」


「いや・・・その、ご主人様って、ナニ?」


「ふぇ?僕たちのご主人様になってくれるんじゃないの?」



・・・もしかして。契約の話だろうか。



「あ〜、うん。そうなる・・・のかな?」


「やっぱり!わーいわーい!」


「え、いや、ちょっと。その・・・いやだったり、しないの?」


「なんで?」


「いや、なんでって。今日はじめて会ったばっかりなんだよ?なのに、ご主人様〜、だなんて。」


「ん〜〜〜。わかんない。けど、トウマだったら大丈夫!!」



大丈夫って言われても。・・・何が大丈夫なんだろう?と、不意にムイが抱きついてきた。



「ご主人様ご主人様〜!」


「ええ!?」



別に他意は無いと思うが、一応こっちは素っ裸なのでさあ大変。もしここに野々香が来たりしたら・・・!



「ムイちゃん待って!今お兄ちゃんが入って・・・る・・・。」


「「あ。」」






その後。顔を真っ赤にした野々香にさんざん怒られたのは言うまでも無い・・・。






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