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名無しの物語  作者: こめ
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第十一話 青い犬





「いや、しかしすごいよなぁ〜。」


なぁ〜    なぁ〜   ぁ〜・・・・・・・


「うん。ホントにね〜。」


   ねぇ〜    ねぇ〜   ぇ〜・・・・・・・




声が反響する。俺達はグランベルドの王宮に向かうため、竜神の山の唯一の出入り口である洞窟を歩いていた。今朝早くライルさんの所を出発し、結構な時間歩いてはいるのだが、まだまだ先は長そうだ。竜神の山は、周りを小高い山々に囲まれている為、通常出入りにはこの洞窟を通るしか無いそうだ。山を越えても入れる事は入れるそうだが、凶暴な獣が出る上に、その先に待っているのは馬鹿みたいな戦闘能力を持った怪物ばかり。まずそんな事をする輩はいないらしい。



「それにしても、やっぱファンタジーだよなぁ。」

「?どうしたの?急に。」

「いや、この眼といい、ドラゴンといい、さっきからチョコチョコ見かける変なせいぶつといい、俺達がいた世界とは違うんだな、と思ってよ。」



魔物、とでも言えばいいのだろうか。どうも向こうとこちらでは生態系が違うらしい。人を襲う生物もざらにいるそうだ。中には人語を解する生物もいるとか。う〜む。やっぱり耳の長くて長寿な弓とか魔法が似合いそうな奴とか、人間に尻尾と犬猫の耳が生えた奴とか、いたりするんだろうか?



「会ってみたいような、みたくないような。」

「え?誰に?」

「む。・・・怪生物、かな。」

「いくらお守りのおかげで襲われないからって、変に刺激しちゃだめだよ?」

「解ってる。もう懲りたからな。」



順調に進んでいるが、魔物の類が出ていないわけではない。が、俺達はライルさんがくれたお守り(なんでも竜石というものらしい)のおかげでほとんど突っかかられる事はなかった。コレは竜の力が結晶化したものだかなんだかで、並みの魔物は怖がって近寄ってこない電波だか波動だかが出ているんだそうだ。



「もう。さっきはホントにびっくりしたんだから・・・。」

「悪かったって。まさかあんなに厄介な奴だとは思わなかったんだよ。」



そう。洞窟に入る前、偶然見つけてしまったのだ。拳二つ分くらいの大きさの、青くてプルプルしている、ゼリーみたいな生物を。で、つい、こう、物珍しかったというか、触ってみたくなってしまい、近づいたら・・・。



「すごかったよね、こう、どばーって。」

「ああ、ライルさんが助けてくれなかったら、やばかったかもな。」



基本的に、この手の生物は群れていることが多いらしく、草陰からでるわでるわ。あっという間にとりかこまれ、こちらも応戦したものの殴っても蹴ってもききゃしない。それどころか顔に張り付いて危うく窒息するところだった。野々香とライルさんが火を持って駆けつけてくれたから良かったものの、あのままでは本当に死にかねなかった



「はぁ。旅の序盤で出てくるプルプルした輩は弱いってのは世の理だと思ってたんだけどなぁ・・・。」

「あ、あははははは・・・。」



実際、スライムはけっこう強力な生物らしく、物理的な攻撃はほとんど効かないそうだ。が、弱点は炎だから火の元さえあればまず襲われる事はないらしい。





ドドドドドドドドドド・・・・・・・





「ん〜。音がでかくなってきたな。」

「うん。たぶんもうすぐだね。」



この洞窟の中間地点には大きな滝があるって話だ。朝からずっと歩き通しだし、そこで休憩を取るのもいいだろう。



「うし。んじゃ滝に着いたら休憩しよう。」

「そうだね。一応食べ物も作っておいたんだけど、食べる?」

「お。いいな。じゃさっさと行こうか。」







「うわぁぁぁぁぁぁ・・・・。」



野々香が感嘆の声をもらす。それもそうだ。こんな大きな滝、俺だって見たことが無い。

いったいどれだけ吐き出しているのか。大きな穴からは凄まじい量の水が止まる事無く噴き出している。



「すごいすごい!私、滝って始めて見たけど・・・こんなに凄いんだ!」

「ん〜、ここが特別凄いって気もするけどな。ま、いいや。休憩にしようぜ。」



適当なところに腰を下ろす。野々香が荷物の中から食べ物を出してくれた。



「はい。特製サンドイッチ。あんまり時間が無かったからみてくれは良くないかもしれないかもしれないけど・・・。」

「なに、十分だよ。・・・ん。うまい。」

「ホント!良かった。まだあるから、たくさん食べてね!」



ぱくぱくとサンドイッチを食べる。そういえば、兄妹水入らずで出かけた事なんかほとんどなかったなぁ。まぁ、こんなトンデモ世界にやって来てしまった訳だが、これはこれでいいもんかもなぁ、なんて思ったりもする。・・・そういえばウチの世界では俺達はやっぱり行方不明扱いになっているのだろうか?あくまでこっちと向こうの時間軸が同じなら、の話だが、俺達はもう3〜4日は学校に行っていない事になる。兄妹そろっての失踪、か。・・・葉山あたりが食いついてきそうなネタだなぁ・・・。案外警察よりも先に調べ始めているかもしれない。アイツの情報収集能力は洒落にならない物があった。さらにそれを的確に操る能力もある。生まれてくる世代がもう少し早ければ、優秀な軍師になっていただろう。いや、そんなことよりどうにか帰る方法を、




くぅー・・・      ぅーん・・・    くぅーん・・・




考え・・・ん?



「野々香。何か言ったか?」

「え?なにも。どうかしたの?」

「いや、今何か聞こえたような・・・。」




くぅー・・・    くぅーん・・・   くぅーん・・・




「やっぱり。こりゃ、犬・・・か?」

「あ、ホントだ。う〜ん、でも、犬なんてどこにもいないよ?」



周りを見渡す。・・・見当たらない。が、確かに泣き声が聞こえる。



「ん・・・こっちか・・・?」

「あ、お兄ちゃん!」



滝の方へと向かう。断崖絶壁になっているが、こちらの方から聞こえるような・・・。



「あ・・・。」

「いた。あれだ。」



滝のある崖の一部につきだしているポイントがあり、そう大きくは無いが段になっている所がある。そこに青い子犬がうずくまっていた。



「崖から足を踏み外しちゃったんだね・・・。どうしよう?」

「・・・うし。助けよう。」

「でも、どうやって?」

「たしか・・・ライルさんが用意してくれた荷物に、ロープがあったはず・・・。」



荷物をまさぐる・・・あった。・・・強度も十分。後は近場に結び付けて・・・。



「ちょ、ちょっと!どうするつもりなの!?」

「ロープで直接犬っコロの所まで降りる。」

「あ、あぶないよ!もし落ちちゃったらどうするの!?」

「とはいえ、ほっとく訳にもいかないだろ。大ぁ〜い丈夫だよ。俺を信用しろって。」

「・・・お兄ちゃんの大丈夫は信用できないんだもん・・・。」

「野々香・・・。」

「ドラゴンの時だって、大丈夫だ、無理はしない。って言ったのに。憶えてないかもしれないけど、お兄ちゃん、本当に酷い状態だったんだよ!こうやって普通に歩いてるのが不思議なくらい。・・・お願いだから、危ない事はしないでよぉ・・。」



目尻に涙がたまっている。・・・そのぐらい、本気だってことだろう。そっと、野々香の頭に手をやった。



「だけど、大丈夫、だったろ?」

「お兄ちゃん!」

「約束は、守る。心配すんな。お前を置いてったりしないよ。お前が俺を必要としなくなるまで、な。」

「・・・・・・・・・。」

「野々香?」

「・・・ずるい。」

「へ?」

「もう、いいよ。だけど、注意してね?」

「・・・おう。まかせろ。」



体にロープを巻きつけ、ゆっくり降りていく。



「よっ、とっ・・・。」



眼の力で身体が強化されてるおかげか、比較楽に降りて行けた。段になっている所に足をつける。・・・よし。大丈夫。崩れたりはしない。



「お〜い。犬〜。」



子犬に手を差し伸べる。が、とびずさって離れてしまう。人間になれていないのか、グルルル、とうなり、威嚇している。



「ん?・・・ん〜。」



こうなれば向こうが警戒を解いてくれるように待つしかない。あ、そうだ。さっきのサンドイッチの残りで気を引いてみよう。手のひらの上にサンドイッチをのせ、近付けてみる。

と、ぴく、と反応したかと思うと恐る恐る近づいて来た。・・・ふんふん、と匂いをかいでいる。


ぱく。ささー!


あ。あっというまに食いついて離れた。はくはく、とサンドイッチを食べている。一通りたいらげると、物欲しげな目線をこちらに向けた。・・・気がする。



「まだあるぞ。食うか?」



再びサンドイッチを差し出すと、今度は走りよってきた。逃げもしない。



「お前、腹へってたんだなぁ。」



もくもくと食べている。ふと、右前足が赤くなっていることに気がついた。



「ん?怪我してるじゃないか。」



小物入れから包帯を取り出す。そして、ひょい、持ち上げた。と、急にじたばたと暴れだした。



「あ、こら。じっとしてろって。この・・・あだっ!」



するどい痛み。子犬に噛み付かれたのだ。が、今離すと落っこちてしまうかもしれないので、必死に痛みに耐える。



「っ〜〜〜!」

「・・・!・・・。」



不意に、痛みが和らぐ。子犬が歯を離してくれたようだ。親指に少しばかり血が滲んでいる。なぜか、子犬はもう暴れようとはしなかった。そればかりか、傷口を舐めてくれている。



「あ、すまんな。それと、急に掴んで悪かった。」



なんとなく子犬に謝ると、あん!と返してきた。中々に可愛い奴だ。お返しといっては何だが、前足に包帯を巻いてやった。



「うし。これで何もせんよりは良い筈だ。」

「お兄ちゃ〜ん!ずいぶん時間掛かってるけど大丈夫なの〜?」



上を見ると、野々香が身を乗り出してこちらを見ている。と、



あん! あん! ああん! あん!



突然子犬が吠え出した。



「お、おい。どうした?アイツは怪しい奴じゃないぞ?」



そう言っても鳴き止まない。犬に言葉が通じるのかどうかはわからないが、どうも上に向かって吠えてはいるが、野々香に対して吠えているのでは無いような気がした。



「・・・?」



野々香は不思議そうな顔でこちらを見ている。と、




                  ピシィ




なんて音がした。・・・まさか。



「まずい!!野々香、下がれ!!!」

「え?」



直後。ビキビキビキ、と崖に亀裂が走った。そして。



「きゃあああああ!!!」



崖が、崩れた。俺はロープをしっかりと握り、子犬を抱えて横っ飛びに飛んだ。何とか落石をかわし、反動をつけて岩とともにすべり落ちそうになっている野々香を助け出す。



「お、お兄ちゃん!」

「大丈夫だ!しっかり掴まってろ!!」



右手に二人分の重さが掛かる。が、何とかなりそうだ。

「くっ・・・ぬっ・・・!」

「お兄ちゃん、大丈夫!?」

「ああ。なんとかっ・・・?」



ふいに、右手に掛かっていた重さが消えた。



「なっ・・・!」

「あ・・・。」



落石で、ロープが切れた。



「嘘だろ・・・!!」

「きゃああああああああああ!!!!!」



二人の姿は、滝壺へと消えていった・・・・・・・。





どうも。あけましておめでとうございます。(遅すぎ?)こめです。え〜しばらくさぼってましたが、再び書き始めました。これから旅の仲間たちが徐々に集まってくる・・・予定です。長〜〜〜〜い目で見守っていただけると幸いです。でわでわ。

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