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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

雷光枝によせて

掲載日:2026/07/26

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 む、こーちゃん、どうした?


 ――映画とかで、なんで高圧電線に引っかかって感電するシーンとか、さっさと手を離さないのか?


 うん、それはおそらく人間の身体が電気で動いていることの再現だろうね。

 電気信号は精密なもの。その指示によって我々は身体を動かすことができるのだけど、その指示を狂わせる存在が注入されているわけだ。

 そうなりゃ正常な動きなど望むべくもなくなり、本来離せば安全なところをつかみ続けてしまう……ということも、起こりえるだろう。


 怖いものだな。自分の知らないうちに、害毒となり得ることを行い続けてしまっているかもしれないとは。健康もまた、日々の積み重ねによって生まれるものであり、不調もまたしかりだろう。

 しかし、健康を追い求めたとて、それで心が病んでは本末転倒。どこまで節制し、どこから自由にするか。本人の判断も大事になってくる。

 私たちもいろいろと気を付けたほうがいいかもね。身の回りのことなども。

 私の昔の話なのだけど、聞いてみないか?


 私たちが子供のころ、雷が鳴る夜には注意することがあった。


 ――おへそをとられることでも、心配していたのか?


 まあ、一度は聞かされる話だよねえ。雷さまがおへそをとってくるというもの。

 科学的には雷が鳴るほど、天気が悪くなると気温が下がりがちになり、身体も冷えてしまってお腹をくだしてしまう……といったところが、根拠だろうか?

 しかし、私たちの場合はもっと具体的な心配があったんだよ。


 雷光枝らいこうしを、こーちゃんは聞いたことがあるか?

 雷が空を走るとき、まれにその力を身に宿してしまう木があらわれる。その木の枝が、雷光枝と呼ばれるんだ。

 実際に雷が落ちたものとは限らない。その地域に存在しているだけで、枝は生まれ得るわけだ。

 そしてこの枝。ときには命にかかわるだけに、雷のあった翌朝は気を配らないといけなくなるんだ。


 うちの地元だと、朝にはこぞって小鳥たちが姿を見せる。

 彼らは穀物をじかに食べてしまうこともあるが、野菜を育てるうえで害となる虫たちを食べる役割も持っている。ときと場合によって、うっとおしがられたり、ありがたがられたりと大変なものだ。

 そして彼らの別の役割が、この雷光枝の見分けなわけ。

 雷光枝は肉眼だとまず判別が不可能。そこで木々の枝に留まる、彼ら小鳥の挙動を判断材料にするのがメインなんだ。

 いっちゃあ悪いけれど、枝へ触れたとたんに真っ黒こげになって墜落してくれる……とかなら、判別がすぐしやすくていい。実際にそのようなケースもあるらしいけど、レアもレアだ。

 たいていは、じっくりと子供たちの身体の端々へ異常があらわれていく。足、羽、頭……必ずしも枝に接している部分から、影響が出るとも限らない。

 そこのどこかしらが異様に黒ずんでいくのが見られる。複数羽が留まっていて、いずれも同じ箇所が同じような早さで汚れていくのならば、より確実。

 備えがあるならば、その枝をすぐに切り落とす。これもじかに感電をするようなものではないが、長く触れるのは望ましくなく、相当に細いものでないなら折りにかかるのはすすめられない。

 備えがなければ、すぐにその場を離れて先を急ぐ。雷光枝が雷へじかに触れていなくとも影響を持つように、人体もまた離れていても影響を受けかねないからね。


 その雷光枝が付近にある日は、学校などですでに聴診器を持ったお医者さんが待ち受けていてね。登校と同時に臓器の調子を診られる。問題がなければ、そのまま授業を受けられるわけだ。

 私は学校生活で、一度だけ雷光枝のために保健室へ寝かされたことがある。

 ひとまず安静にするのだが、自分の手で心臓の鼓動を探れば、すぐにおかしいと分かるよ。

 単なる不整脈のレベルを越えている。あたかもモールス信号らしき、長短を組み合わせた拍動のリズム。とても血液循環のために必要な動きとは思えなかった。

 ズ、ドウ、ズ、ズ、ドウ、ズ、ズ、ズ……。

 これでいながら、身体にはあからさまな不調などが見られないから、かえって気味悪いものさ。しびれなり、痛みなりがどこかに走ってくれたほうがまだ安心できる。


 そこからに数秒は、いまだ忘れることができない。

 はだけた状態を保っていた、私の左乳首の十センチほど横だ。

 にわかに、ぷつりと血の玉が肌に浮かんだかと思うと、それがどんどんと大きくなっていく。やはり痛みを感じないままにだ。

 私の胸はその針先のような小さい点から、切り開かれようとしていたんだよ……!

 すぐに待機している先生を呼んだ。駆けつけた先生は、血と傷の処置をする前に、手にしたスプレーを虚空へ向けて吹きかける。

 目に見えて黄色い粉末。匂いなどはなかったものだけど、しばらくして私の傷の広がりはぴたりと止まって、その間に先生が処置を済ませてくれたという運びだ。


 いまだ解明はされていないが、私などが体験した不可解な動悸。やはりあれは、何かしらへことを伝えるサインのように考えられているらしい。

 雷光枝はそのさきがけともいえる立場と見られるが、その先へ至るにはまだまだ動物の身ではかなわず、命を落としてしまうのだとか。

 たとえ遠い未来に薬や救いになるかもしれないが、今は将来を閉ざす害毒としかみなせないものなのだと。

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