第8話 詰みかけ令嬢の悪あがき
シャーロットは紅茶の湯気を見つめながら、小さく息を吐いた。
(……逃げ道が見えない)
王太子の手紙は毎朝届く。
文面は甘く、丁寧で、隙がない。
愛を囁いているようで、同時に包囲網の進捗報告でもあった。
(これってもう、ほぼエンディングじゃない?)
そんな中、伯爵邸を訪れたのが――
「久しぶりだな、シャーロット。」
幼馴染のエドモンドだった。
爵位は伯爵家の次男。
女遊びも賭博もしない。
恋愛関係では面白みがないかもしれないが
将来は堅実な官僚コースが約束されている、極めて“安全な存在”。
転生前であれば絵に描いたような結婚したい男性像ではある。
だからこそ、シャーロットは本音を吐き出せた。
「ねえ、エドモンド……。私、このままだと一番避けたい未来を迎える気がするの。」
「王太子殿下との婚約か。」
「早い。察しが良すぎる。」
「察しない方が怖い。」
シャーロットは声を潜める。
「ねぇ、私と白い結婚してくれない?」
「無理だ。」
即答だった。
「そんなことしたら殿下の逆鱗に触れて、俺は処刑。家は爵位返上で没落。一族まとめて終わるだろ。」
「やっぱり?」
「むしろ、なぜいけると思ったんだ。」
それでも、窮地のシャーロットは諦めない。
「ほら、よくあるじゃない。
しがない田舎貴族かと思いきや実は身分を隠していて、殿下でも手が出せない大帝国の皇族だった、とか!エドモンドそういう大どんでん返しできる設定持っていたりしないの?」
「あるわけないだろ。」
「……無いの?」
「無い。しかも今、俺を“しがない田舎貴族”扱いしただろ。」
「そこは否定するのね。」
「当たり前だ!」
エドモンドは深く息を吐いた。
「いいか。殿下は本気だぞ。」
「知ってるわ。」
「本気すぎて、逃げ場を潰してる。」
「それも、知ってるわ。」
シャーロットは紅茶を見つめた。
(だから、怖い)




