第7話 辺境伯家の嫡男
その日、学園の訓練場がざわついていた。
「ねえ、ご覧になりまして?」
「ついに入っていらっしゃったみたいね。辺境伯家の光の貴公子……。」
その視線の先。
陽光の下に立つ青年は、
剣を持つだけで絵になる男だった。
引き締まった体躯。
無駄のない動き。
整った顔立ちに、鋭い眼差し。
――国防の要である辺境伯家嫡男
レオンハルト・フォン・グラーフ。
王国最強クラスの剣の担い手。
そして、乙女ゲーム屈指の
「見た目は硬派・中身は隙あらばR18シーンに持ち込もうとするとんだムッツリ枠」。
(ああああぁぁ……やっぱり来ちゃった)
思わず、胃が痛くなる。
原作ではこの男、
大の巨乳好きで独占欲も強めで、
ルートによっては歩く修羅場製造機だ。
「シャーロット?」
不意に、手を取られた。
王太子殿下だった。
「顔色が悪いな。」
そう言って、
私の指を包むように握る。
……近い、近い、近い、近い。
声が低くて、落ち着いてて、
やたら安心感があるのが逆に怖い。
「大丈夫です。」
「無理はしなくていい。」
殿下は、
甘やかす時の声で言った。
「今日は、私のそばにいればいい。」
――拒否権は、私にはやっぱりない。
*
その頃、訓練場。
レオンハルトは、
周囲の視線など気にも留めず剣を振るっていた。
だが、ふと。
観覧席の一角に、
王太子殿下と並んで座る私を見つけてしまったようだ。
レオンハルトの視線が止まる。
(……でかい)
胸元しか見ていない。
(噂通り、いや噂以上だな)
その視線に気づいた瞬間、王太子殿下が一歩前に出た。
私を、自然に背に隠す。
そして、微笑む。
「グラーフ辺境伯家のレオンハルト殿。」
穏やかな声
「学園へようこそ。」
「……これはこれは、王太子殿下。」
レオンハルトは、
一瞬だけ眉を動かした。
「こちらのご令嬢は?」
わざとらしくない問い。
「私の、大切な人だ。」
即答
曖昧さは一切ない。
レオンハルトの視線が、一瞬だけ鋭くなる。
「……そうですか。」
それ以上、踏み込まない。
――踏み込ませない。
それが、王太子殿下のやり方だった。




