第61話 最終回
シャーロットは、その言葉を胸に抱いたまましばらく何も言えなかった。
比重は、たぶん――シャーロットの方が、重い。
その一言が、胸の奥で何度も反響する。
「……エドモンド。」
呼ぶと、彼は少しだけ照れたように視線を逸らした。
「そういう顔で見るの、反則。」
「反則なのは、そっちでしょう。」
「私ね……。」
言葉を探すように、ゆっくり続ける。
「殿下のことも、恋ではあったのだと思う。でも、エドモンドといるときだけは、選ばなくていい私でいられたの。」
エドモンドの目が、わずかに見開かれる。
「それって――」
「うん。私は、エドモンドと一緒に未来を選びたい。」
沈黙。
それから彼は困ったように、でもとても嬉しそうに笑った。
「俺、シャーロットが言う攻略対象ってのになるつもりなかったんだけどな。」
「ずるい人が、今さら何を言うの。」
「じゃあ、ずるいなりに責任は取ります。」
その場にいた大人たちは、互いに顔を見合わせ、やがて静かにうなずいた。
グラーフ伯が、低く言う。
「王太子殿下も、隣国も、すでに次の道を歩き始めている。エヴァンス嬢の未来は、誰の盤でもない。自分で決めるといい。」
エヴァンス伯爵は、娘を見て穏やかに微笑んだ。
「シャーロット。お前が笑って選ぶ相手なら、父は何も言わない。」
シャーロットは、涙をこらえながらエドモンドの方を見た。
「影でもいい。表じゃなくてもいいわ。一緒に、歩いてくれる?」
エドモンドは、少しだけ真面目な顔になって、答えた。
「影だろうが、表だろうが、シャーロットの隣が俺の居場所だ。」
――数年後。
王国と隣国は、戦争も属国化もせず、“対等ではないが、敵でもない”という、不思議な距離を保っていた。
それを保ち続けているのは、表に名の出ない調整役
――グレイフォード家のエドモンド。
そして、その傍らにはいつも、シャーロットがいる。
「また裏の仕事なの?せっかく一緒にオペラを観に行く予定だったのに。」
「半分は、国のため。もう半分は、早く帰って一緒にシャーロットと過ごすため。」
「比重、おかしくない?」
「最初から言ってるだろ。シャーロットの方が重いって。」
夕暮れの庭で、二人は並んで歩く。
王太子の執着も、隣国の策略も、すべて“選ばれなかった未来”として、遠くに溶けていった。
選ばれたのは――縛られない愛と、逃げ道のある未来。
そして、影と光の境目で二人は今日も笑っている。
――完。
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心より感謝申し上げます。




