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地味に過ごしたかったのにヤンデレ王太子に囲われた  作者: 水瀬みずか


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第6話 婚約の影

 昼下がりの回廊。

「ねえシャーロット、最近はほんと殿下と一緒よね?」

 くすっと笑いながら腕を組んできたのは、

同じクラスの友人マリアンヌだった。

「毎日見ている気がするわ。」

「……そ、そんなことないわよ。」

 否定しつつも、声が弱い。

 反対側から、落ち着いた雰囲気のリディアが微笑む。

「でも、殿下が一緒にいる時の空気、嫌な感じじゃないわ。」

「うん。周りはピリピリしてるけど、殿下ご本人はご機嫌なのよね。」

 ――この二人は、数少ない“まともなご令嬢”だ。

 無意味に噂を広げない。

 嫉妬で絡んでこない。

「シャーロットが困ってないなら、それでいいと思うわ。」

 その一言に、胸が少し軽くなる。

「ありがとう……。」

 ほんのひととき。

 普通の学園生活。



 ――しかし、その“普通”は長く続かない。

 昼食の席。

 ここ最近いつものように王太子殿下の側近が静かに席を整え、

殿下が当然のように私の隣に座る。

「ご友人と一緒でも構わないよ。」

 殿下がそう言った瞬間、

マリアンヌとリディアが一瞬だけ目を見合わせた。


(……察した)

「いえ、私たちは向こうで。」

「え、でも――」

「いいのよ!」

 リディアは小声で囁く。

「殿下の隣にいる方が、学園内が安全そうだもの。」

 冗談めかして言いながらも、

その判断は正しかった。

 王太子殿下は、満足そうに微笑む。

「君には、無理をさせたくない。」

 その言葉は、優しい。

 ――けれど。

 その裏にある決定事項を、私はまだ知らない。



 その日の夕方 王宮

「エヴァンス伯爵。」

 国王陛下は、低く穏やかな声で呼びかけた。

「最近は、息子が随分と世話になっているようだな。」

「恐れ入ります。」

 伯爵は深く頭を下げる。

 王太子殿下は父の少し後ろに立ち、何も言わない。

 だが、その沈黙こそが圧だった。



 国王は、書類から目を離さず言う。

「学園での評判も、良いと聞いている。

  慎ましく、礼儀正しい娘だとか。」

 伯爵の喉が、かすかに鳴る。

「……光栄でございます。」



「王太子妃として

 ――ふさわしい、という声もある。」

 伯爵は、息を忘れた。

 王太子殿下は、そこで初めて口を開く。

「父上。」

 制するような声。

 だが、それは否定ではない。

「まだ“検討”の段階です。」

 国王は、わずかに口角を上げた。

「そうだな。」

 そして、伯爵に向き直る。

「だが、覚えておくといい。王家は、エヴァンス家を高く評価している」

 それは、

 選択肢ではなく、方向性の提示だった。


 その夜

 私は父に呼ばれた。

「シャーロット。」

 珍しく、真剣な表情。


「王宮でな……陛下から殿下とのお話があった。」

 胸が、嫌な音を立てる。

「まだ決まったわけではないのだが」

 父はそう前置きしながら、

「だが、殿下は――真剣だ。」

 私は、黙って聞くしかなかった。


 翌日。

 王太子殿下は、いつもより近い距離で囁いた。

「君を急かすつもりはないよ。」

 指先が、そっと私の手袋に触れる。

「だが、周りは動き始めている。」

 逃げ場は、

 もう私の気持ちだけ。

「安心して。君が拒めない状況は、すべて整えてある。」

 ――優しく、

 ――静かに、

 ――確実に。

 王太子のヤンデレは、

 恋から、政へと姿を変え始めていた。

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