第49話 ヤンデレの片鱗
放課後、校門を出たところでシャーロットは呼び止められた。
「シャーロット・エヴァンス嬢。」
振り返ると、王太子の側近が立っていた。
「殿下が、お帰りを馬車でお送りしたいと。」
断れる空気ではなかった。
王太子専用馬車
向かいに座る王太子は顔色も戻り、いつもの穏やかな微笑を浮かべている。
「学園生活も、ようやく日常が戻りつつあるね。」
「……はい。」
そう答えながらも、
シャーロットは、視線を逸らせなかった。
王太子の瞳が異様に鋭く、こちらを見ていることに気づいてしまったからだ。
理由は分からないのに、背中に冷たい汗がにじむ。
馬車は、伯爵邸の前を――通り過ぎた。
「あの……?」
「少しだけ、話したい。」
王太子の声は、柔らかい。
「王城の私室で。」
断れば、何かが壊れる。
そう直感してしまうほど、
その声には選択肢のない優しさがあった。
王城に着くと人払いされた回廊を通され、王太子の私室へと案内される。
扉が閉まった瞬間、外の音がすべて消えた。
「座って。」
シャーロットは、言われるまま椅子に腰を下ろす。
王太子は窓辺に立ち、外を見たまま言った。
「前に話した薔薇がね、もうすぐ咲きそうなんだ。」
振り返るその瞳は、穏やか――だが、底が見えない。
「清らかで、美しい花になる。本当は……あれと一緒に、国の慶事になるはずだった。」
シャーロットの胸が、ざわつく。
「だが、計画は少し狂った。君は、自分の意思じゃなかったのかもしれない。だが……弟と、深い口付けをしたね。」
その言葉に、体が強張る。
王太子は、そっと顎に触れ顔を上げさせた。
「薔薇には、接ぎ木という方法がある。」
唇が、触れるほど近い。
「なら、君も……君のまま、誰にも汚されていない形に、戻せないだろうか。」
次の瞬間、
王太子の歯がシャーロットの唇に、かすかに触れ――軽く、噛んだ。
「……っ」
痛みよりも、所有される感覚の方が恐ろしい。
「穢れてしまった、と言っただろう。」
低く、静かな声。
「だから私の手で、元に戻したくなる。」
「やめてください……!」
シャーロットが身を引くと、王太子の動きが止まった。
理性と執着が、彼の中でせめぎ合っているのが分かる。
やがて、ゆっくりと手を離した。
「……まだだ。」
そう言いながらも、その声はわずかに震えていた。
シャーロットは悟る。
この人の中で、“愛すること”と“縛ること”は、
もう、ほとんど同じ意味になりかけている。




