第48話 クッキー
拙いとっ散らかっている作品をご拝読いただきありがとうございます。
もう暫しお付き合いお願い申し上げます。
伯爵邸の居間に、甘い香りがふわりと広がった。
「……ん?」
エドモンドの鼻が、犬みたいに動く。
「おい。それ、まさか――」
テーブルの上に運ばれてきたのはミルクチョコレートとホワイトチョコレートが挟まれたクッキー。
「……来た!」
エドモンドの目が、露骨に輝いた。
クッキー生地がサクッとしたパイ生地で包まれ、その間に艶のあるチョコレートが挟まれている。
――転生前。
関西に住んでいた頃に足繁く通ったレモンパイが名物の人気洋菓子店のクッキーを、エヴァンス家のパティシエに再現してもらって以来、我が家の定番となったものだ。
「……いただきます。」
エドモンドは、遠慮という概念を置き忘れたように一枚掴んでかじった。
「……っはぁ……」
深いため息。
「何その顔。」
「これはな……菓子の皮をかぶった凶器だ。」
「褒めてるの、それ。」
「最高級に褒めてる。」
二枚目。
三枚目。
「ちょ、エドモンド、食べすぎ!」
「止まると思うな。人はな、理性で生きてるんじゃない。うまいもので生きてるんだ。」
「名言っぽく言わないで。」
シャーロットは、
彼の様子を見ながら、小さく笑った。
(……前と同じだ。)
不安な時も重たい話の後も、こうやって、どうでもいいことで笑わせてくれた。
「シャーロット。」
「なに?」
口の端にチョコをつけたまま、真面目な目で言う。
「これをこの世界に持ってきたお前は、たぶん天才だ。」
「大げさ。」
「いや、違う。」
もう一枚、手に取りながら。
「世界がきな臭くなっても、こういう“うまいもの”がある限り人はまだ壊れきってない。」
エドモンドがにやっと笑う。
「だから安心しろ。」
「何が?」
「俺が、このクッキーを食べられる世界を、ちゃんと守る。」
「……動機が軽すぎない?」
「いいんだよ。正義なんて、だいたい“好きなもの”から始まる。」
シャーロットは一枚だけ取って、そっとかじった。
懐かしくて、甘くて少しだけ胸が熱くなる味。
(……大丈夫。この世界でも、私はちゃんと“好き”を持ってる。)
そして隣では、エドモンドが七枚目のクッキーに突入していた。
「……エドモンド。」
「ん?」
「それ、私の分も残してね。」
「……最大限の努力はする。」
それ、行けたら行く!並みに絶対に無理なやつ。




