第47話 忍び寄る影
王都の空気が、目に見えないほどの速さで変わっていく。
噂は小さく、だが確実に人の足を止め、金の流れを曲げて言葉の重さを変えていた。
シャーロットも、その変化を肌で感じていた。
「……王都の雰囲気がなんか変だよね。」
そう漏らしたのは、伯爵邸の居間だった。
向かいで、
エドモンドは、
いつものように紅茶を飲んでいる。
「変じゃない。騒がしくなる前の静けさだ。」
「怖い言い方しないで。」
「怖い時期だからな。」
何でもない顔で言うが、その目だけが外を警戒するように細められていた。
◆
その夜。
伯爵邸の裏門に、見知らぬ影が一つ、
近づいた。
忍ぶような足取りだが、完全ではない。
影が、塀を越えようとした、その瞬間。
影は地面に叩き伏せられていた。
「……っ!」
剣の柄で鳩尾を打たれ、息が詰まる。
「悪いが、ここは“見学コース”じゃない。」
剣を向けたのは、エドモンドだった。
いつもの軽口も、笑みもない。
ただ、冷たい目。
「誰に頼まれた。」
影は、黙る。
エドモンドはため息をついた。
「黙秘はいいが、選択肢は二つだ。」
剣先を、ほんの少しだけ近づける。
「自分で帰るか、二度と歩けないか。」
影は、震えながら口を割った。
「……金で雇われた。伯爵邸の様子を見てこいって。名前は知らない。」
エドモンドは、一瞬だけ考え影を突き飛ばした。
「二度と来るな。」
影は、転げるように去っていった。
◆
その一部始終を二階の窓からシャーロットは見ていた。
翌日の午後、居間で向かい合う。
「……ねぇ昨夜の、何だったの?」
「猫。」
「嘘でしょ。」
「でかい猫。」
呆れた目で見ると、エドモンドは肩をすくめた。
「お前が知らなくていいことだ。」
「……でも、危ないことしてる。」
「逆だ。」
真面目な声になる。
「お前が危ない目に遭わないように、俺が前に出てるだけだ。いいか、夜は窓を開けるな。知らない手紙は俺に見せろ。誰かに呼ばれても、一人で行くなよ。」
少し間を置いて、
いつもの調子に戻る。
「あと、変な男に優しくするな。」
「それ、いつも言うじゃない。」
「状況が“変”だから、もう一回言っとく。」
カップを持ち上げ、軽く鳴らす。
「今の王都はな、何よりも人が怖い。」
その視線は、窓の外ではなく、
シャーロットの“未来”を見ているようだった。




