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地味に過ごしたかったのにヤンデレ王太子に囲われた  作者: 水瀬みずか


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45/54

第45話 辺境伯家の反撃

 王城では、王太子の政策が「安定」として称えられていた。

隣国との交易は順調。

国境の緊張は和らいだと報告され、貴族たちは胸を撫で下ろす。

だが――

辺境では、空気が少しずつ変わっていた。


辺境伯家の執務室。

地図の上には、赤と青の小さな印が打たれている。

「青は王太子派の流通路。赤は、我らの裏の道です。」

老臣が指し示す。


「最近、王太子派の道で“偶然の事故”が増えています。馬車の故障、橋の補修、検問の遅れ……。」

「誰も責められぬ形ばかりだな。」

辺境伯は、口角をわずかに上げた。


「人は、遅れると別の道を探し始める。そして、その別の道がいつの間にか慣れた道になる。」


 王都

 商人たちが、酒場でこう漏らすようになった。

「王太子派の道は安全だが、遅い。」

「辺境の流れは少し荒いが、早い。」

「結局、金は早い方に流れる。」


誰が言い出したわけでもない。

だが、その言葉は、不思議なほど自然に広がった。


学園。

レオンハルトは相変わらず目立たぬように過ごしていた。

剣を振る時も勝ちすぎず、負けすぎず。

だが、負けた者だけが小さくこう囁く。

「……あれは本気じゃなかったな。」

その言葉もまた静かに、しかし確実に広がっていく。


王太子の側近の一人が報告書を持って入ってきた。

「最近、商人たちが、辺境経由の流通を好む傾向があります。」

「好む?」

王太子は、微笑んだままその紙を受け取る。

「不満ではなく、選択として動いているようです。」

「……そうか。」

王太子は、紙を畳んだ。

(剣ではなく、流れで縛る――そう教えたのは、私だ。だが、流れは、誰のものでもない。)


彼の目が、

ほんの一瞬だけ、細くなる。


その夜。

辺境伯は一通の密書を読んでいた。

“王太子、動き始める気配あり。”

辺境伯は、静かに笑った。


「ようやく、こちらを見たか。」

そして、レオンハルトに言った。


「剣を磨け。だが、抜くな。」

「……承知しました、父上。」


剣は、見せるためにある。

振るうのは、最後の最後でいい。

辺境伯家の反撃はまだ音を立てない。


だが、王太子の盤面には確かにズレが生まれ始めていた。

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