第41話 対レオンハルト
王太子は、レオンハルトの名を何度も諜報報告の中で見ていた。
学園内での立ち位置、軍事演習での成績、貴族子弟の間での影響力。
そして――シャーロット・エヴァンス嬢との距離。
「……辺境伯家の嫡男。」
静かな声で呟きながら、王太子は書類を閉じた。
表向き、レオンハルトは慎重で礼儀正しく、
王家に逆らう素振りなど一切ない。
だが、王太子の目には、それが危険な沈黙に見えた。
――剣の才。
――国境防衛を担う家の血。
――貴族社会での信頼。
そして何より、
シャーロットを追う目が狙っている者の目であること。
王太子は、微笑んだまま諜報部に静かに命じた。
「辺境伯家の動きを、洗い直せ。過去十年分。資金、婚姻、密約、すべてだ。」
「証拠がなければ?」
と問われると、
王太子は、ためらいなく答えた。
「作ればいい。」
数週間後。
辺境伯家に関わる噂が貴族社会に、少しずつ流れ始めた。
――隣国との裏取引。
――軍需品の横流し。
――辺境伯の派閥が、王権に不満を持っている、という話。
どれも、決定打にはならない。
だが、疑われるには十分な材料だった。
王太子は表では一切、辺境伯家を責めない。
むしろ、
「辺境伯家には、国を守る重責がある」と持ち上げ、
信用しているふりを続けた。
レオンハルト本人は、まだ気づいていない。
だが、彼の未来の道筋は確実に、細く、遠回りに書き換えられていた。
王太子は、その進捗報告を聞きながら、穏やかに紅茶を飲む。
「……恋敵に、剣は不要だ。」
誰にも聞かせない声で、そう呟いた。
「奪えなくすればいい。
力も、立場も、選択肢も――すべて。」




