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地味に過ごしたかったのにヤンデレ王太子に囲われた  作者: 水瀬みずか


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第39話 ヤンデレの気配

 王太子は、窓辺に立ったまま、庭を眺めていた。

 夕暮れの光を受けて、校庭の花壇が淡く揺れている。



「そうだ。前に話していた薔薇なのだが――どうやら、開花が近づいているらしい。」

 穏やかな声だった。

 まるで、ただの世間話のように。

「品種改良に成功した新種でね。きっと、清らかで美しい花をつける。」


 シャーロットは、ほっとしたように微笑んだ。

「それは……素敵ですね。」

 その反応に、王太子はゆっくりと振り返る。

 微笑みは崩さない。

 だが、その瞳だけが、どこか冷たく澄んでいた。



 「薔薇というのは、不思議な花だ。育て方や手入れ次第でまったく違う姿になる。」


 シャーロットは、言葉の意味を測りかねて、黙って聞いていた。

「傷ついた枝があれば、切り落とすこともできる。

別の枝を接いで、“本来あるべき姿”に近づけることも出来る。」



 風が吹き、カーテンが静かに揺れた。

 王太子は、シャーロットの方へ一歩だけ近づく。

「君は、どんな薔薇でありたい?」

 問いは穏やかだった。

だが、その裏に、答えの正解が決められていることを、シャーロットは本能的に悟った。



「……まだ、分かりません。」

王太子は、少しだけ目を細めた。

「分からなくてもいい。だが、君が君のまま咲くことだけは、許されないこともある。」



 その言葉は、説明ではなく、宣告に近かった。



 王太子は再び庭へ視線を戻す。

(本当は、薔薇の開花と婚約とで、この国は祝福に包まれるはずだった。

 だが――

 薔薇の花は誰かの手に手荒に扱われ本来、私だけが触れる場所を、汚された。)



もちろん、そんなことは口に出さない。

ただ、静かに言う。


「薔薇には、接ぎ木という方法がある。」

それは、園芸の話のはずだった。

けれど、シャーロットの背筋は、ひやりと冷えた。

「元の枝を生かしたまま、望む別の性質を与えることができる。“理想の姿”に、近づけるためにね。」

王太子は、彼女を見た。



「シャーロット。」

「君も――あるべき姿に戻れると、思わないか。」


この方の戻るという言葉が何を指しているのか、シャーロットには聞き返す勇気がなかった。


王太子は微笑む。

「誰にも汚されていない、私だけの花として。」

それは、優しい口調だった。

けれど、その優しさの奥にあるものを、

シャーロットは、もう直感で理解してしまっていた。


壊して、作り直して自分の望む形に。

薔薇の話をしているのに、

そこには、もう花の匂いなど、どこにもなかった。

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