第38話 君は私のもの
囲いは、もう自然ではなくなっていた。
王太子の存在は、影のようにシャーロットの背後に張り付く。
授業が終われば必ず廊下のどこかで待っている。
「偶然だよ。」
そう言って微笑むが、
その偶然が、三日も四日も続く。
断る言葉は、最初から想定されていない。
友人たちはだんだん近づかなくなった。
近づこうとした者は、何かしらの理由で呼び出され、いつの間にか遠ざけられていく。
ある日の放課後
シャーロットは、とうとう逃げるように歩いた。
人気のない渡り廊下。
そこなら、さすがに――
「シャーロット。」
背後から、いつもの声に心臓が跳ねる。
「どうして、逃げる?」
ゆっくりと近づいてくる足音。
怒っているわけではない。
責める声でもない。
それが、逆に恐ろしい。
「……逃げておりません。」
「嘘だ。」
王太子は、すぐそばまで来て静かに彼女の顎に指をかけた。
「君は、私から視線を外すようになった。」
「それは……。」
「誰を見ている?」
低く、静かな問い。
だが、答えを間違えれば、何かが壊れると、肌で分かる。
「いえ誰も……。」
「違う。」
指先が、少しだけ強くなる。
「君の誰もには、必ず誰かが隠れているね。」
シャーロットの喉が、ひくりと鳴った。
「君は、私のものだ。」
囁きは、愛の言葉のようでいて、
支配の宣告だった。
「君が見るのは、私だけでいい。」
「君が笑うのも、怯えるのも、泣くのも――私の前だけでいい。」
その言葉に、
シャーロットの中で、何かがはっきりと折れた。
「逃げようとするたびに、私は君をもっと縛る。」
王太子は、微笑んだ。
「君が、諦めるまでね。」
その笑顔は、
もう優しさの形をしていなかった。
それでも、彼は言う。
「シャーロット、君を愛しているからだ。」
愛という言葉を使いながら、
その実、与えているのは――
檻と鎖だけだった。




