第32話 伯爵邸
王城から戻ると、エドモンドが客間に通されていた。
「王太子殿下の様子は?泣かれたか?」
「……泣いてない。」
「じゃあ、泣きそうな顔は?」
「……してた。」
「はい、重症。殿下は兄と王太子の切り替えがうまくできてないんじゃないか。」
「それ、すごく苦しいやつよね。」
「だからお前が呼ばれた。」
「癒やし枠?」
「癒やし兼、逃げ道兼、現実確認装置。」
「多くない?」
エドモンドは腕を組む。
「で、何を見せられた?」
「……薔薇の苗。」
「出た。」
「出たってなに?」
「王太子殿下が“説明しないで見せる”時のやつ。」
「どういう意味?」
少しだけ声を落とす。
「俺の持論では、言葉にしない誓いは、だいたい重い。しかも王族の誓いは、人が死ぬ。」
シャーロットは息をのむ。
「……私、そばにいてよかったのかな?」
「よかったよ。」
即答だった。
「今の殿下には泣かない人間と、慰めない人間が必要だ。」
「慰めない?」
「そう。かわいそうって言われると、王族は一番孤独になる。だからお前の黙って隣にいたは、満点。」
「……ほんと?」
「点数つけるなら百点。でもな。」
急に真面目な目になる。
「これからが本番だ。」
「何が……」
「殿下は失った弟の代わりに、失いたくないものを一つに絞る。」
シャーロットの指先が、きゅっと握られた。
「それがお前だと、十中八九もう決まってる。」
「……。」
少しだけ笑う。
「だから、癒やすだけの女になるな。守られるだけの女にもなるな。ちゃんと、“選ぶ側”でいろ。」
「選ぶ……。」
「殿下を選ぶか、選ばないか。ただし、“流されて選ばされる”な。」
窓の外に目を向けながら言う。
「流される女はな、
いつか“守られる理由”を失う。」
「……怖いこと言うのね。」
「優しい嘘は、後で必ず刺さる。」
立ち上がって、肩をすくめる。
「ま、今日はちゃんと役目果たした。弟を失った男の“何も言わなくていい時間”になってきた。」
「でも次はきっと、“王太子の隣に立つ覚悟があるか”を問われるだろう。その時、答えられるか?」
シャーロットは、胸に残る静かな午後を思い出した。
「……まだ、分からない。」
「それでいい。」
エドモンドは笑った。
「分からないって言える奴だけが、ちゃんと選べるんだ。分かったふりする奴から大体、死ぬ。」
「縁起悪い!」
「王宮だぞ?」
ひらりと手を振る。
「生き残れ、癒やし係!!」




