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地味に過ごしたかったのにヤンデレ王太子に囲われた  作者: 水瀬みずか


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第25話 引っ掛かり

 杯の音と談笑が幾重にも重なり、広間はやわらかな熱気に包まれていた。


 音楽は控えめに流れ、料理の香りとワインの気配が混ざり合う。

 誰もが笑顔を作りながらも、それぞれに思惑を胸に秘めている――そんな空気だった。

 隣国大使は、王太子と言葉を交わしながら、さりげなく視線を広間に巡らせている。

 装飾、警備、配置、貴族たちの距離感、

 その一つ一つを、まるで景色を楽しむように眺めている。



「今宵は、実に見事な宴ですな。」

「ありがとうございます。準備にあたった者たちも、報われるでしょう。」

 王太子の応答は穏やかで、しかしどこか計算された間を持っていた。


 大使は、グラスを持ったまま、ふと視線を一点に止める。

「おや、あちらにおられるのはグラーフ家のご子息、レオンハルト殿でしたかな。」

その声は、ただの確認のように軽い。

王太子も、特に意識する様子もなく頷いた。

「ええ。グラーフ家は貴国と接しておりますね。剣の腕前では、彼の右に出る者は我が国におりません。」

「それは心強い。」

それだけで会話は終わり、

 大使は隣の重臣に向き直って料理の話を始めた。



 誰も、その一言を気に留めない。

 誰も、それを記憶に刻もうともしない。

 レオンハルトは、自分の名が呼ばれたことに気づき、一瞬だけ顔を上げたが、すぐに視線を皿へ戻した。

 彼の表情は穏やかで、いつもと変わらない。

 シャーロットは、王太子の隣で静かに座っていた。

緊張はまだ残っているが、王太子の存在が、彼女をこの場に繋ぎ止めている。


「料理は口に合うだろうか?」

小さく囁かれて、シャーロットははっとする。

「……はい、とても。」

「それならよかった。」

王太子は満足そうに微笑み、

まるでそれだけが気がかりだったかのような顔をした。



一方、第二王子は楽しげに笑いながら、

時折、ちらりとシャーロットに視線を向けている。

目が合いそうになるたび、シャーロットは視線を落とした。

レオンハルトもまた、

何気ないふりをしながら、

時折シャーロットの方を見ている。

 だがそれは、誰にも気づかれないほど、控えめなものだった。

会話は音楽、狩り、最近の流行、

そして若い貴族たちの将来の話へと移り変わっていく。



 笑い声も、杯の音も、途切れることはない。

この夜は、何事もなく、

ただ華やかで、穏やかで、

よくある国賓晩餐会の一夜として、

人々の記憶に残っていくはずだった。

少なくとも――

その場にいる誰一人として、

今交わされた何気ない言葉の中に、

未来の形がすでに紛れ込んでいるなどとは、

思いもしなかったのだから。


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