第24話 晩餐会
長いテーブルに、王族、国賓、重臣たちが着席していく。
配置は、はっきりと意図的だった。
国王陛下と王太子殿下の間に隣国大使。
隣国の要人たちを挟むように王族が配置され王妃陛下、
――シャーロット。
伯爵令嬢としては、ありえないほどの位置。
けれど誰一人、異を唱える者はいない。
それほどまでに、王太子の意志はこの場を支配していた。
「緊張している?」
低く、優しい声が耳元に落ちる。
「……少しだけ。」
正直に答えると、王太子は満足そうに微笑んだ。
「君がここにいるのは、私の望みだ。誰の許可もいらない。」
それは甘い言葉であると同時に、
この場の全員に向けた、静かな宣言でもあった。
料理が運ばれ、宴は穏やかに進む。
隣国大使は終始、王太子の言葉に興味深そうに耳を傾けていた。
「殿下のお言葉には、未来への含みを感じますな。」
「未来とは、常に準備するものです。」
王太子は、ワイングラスを軽く傾けた。
「国境とは、本来、人が引いた線に過ぎません。
その線が意味を失う日が来るなら、それは争いではなく、選択の結果であるべきでしょう。」
大使は、ほんの一瞬だけ目を細めた。
そして、ゆっくりとうなずく。
「……貴国が、その“選択”を導く立場になることを、我が国は否定いたしません。」
その会話の裏で、
シャーロットは、ただ微笑みを保ちながらも、胸の奥がざわついていた。
(私、今……何の席に座っているの?)
政治の話題は、彼女には遠すぎる。
けれど、自分がその中心に引き寄せられている感覚だけは、はっきりと分かった。
ふと、視線を感じて顔を上げる。
第二王子がいた。
ワイングラスを手に、楽しげな笑みを浮かべているが、
その目だけが、鋭くシャーロットを捉えている。
(……見てる。)
それだけで、背中に冷たいものが走った。
さらにその向こう、
辺境伯家のレオンハルトも、静かにこちらを見ていた。
表情は穏やか。
だが、その視線は、王太子ではなく――シャーロットに向いている。
三つの視線が、知らぬ間に交差する。
そしてその中心にいることを、
シャーロットだけが、まだ受け入れきれていなかった。
その時、王太子が、何気ない仕草でシャーロットの手に触れた。
「大丈夫だ。今夜は、私がすべて守る。」
その言葉は、優しい囁きでありながら、
同時に、誰にも奪わせないという、冷たい決意でもあった。
宴は、まだ始まったばかり。
けれどこの夜が、
多くの歯車を大きく狂わせる夜になることを、
誰も、まだ知らなかった。




