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地味に過ごしたかったのにヤンデレ王太子に囲われた  作者: 水瀬みずか


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第21話 危険な恋心

――まずい。

 第二王子は、自分でもはっきりそう思っていた。

 分かっている。

 兄が本気だということも。

 シャーロットが簡単に奪える相手ではないことも。

 それでも。


 ……たった一度のキス。

 拒まれたはずの、あの距離。

 思い出すたび、胸の奥が熱を持つ。



 今までの人生、欲しいものは努力せずとも手に入った。

 微笑めば寄ってくる。

 周りが察して御膳立てする。

 少し甘い言葉を落とせば、期待に満ちた瞳を向けられる。

 なのに。

(シャーロットは違う)

 怯えていた。

 拒絶していた。

 それでも、完全には逃げなかった。

 その事実が、頭から離れない。



「……俺の悪い癖だ。」

 相手の弱さを見つけた瞬間、踏み込んでしまう。

 それが遊びだった頃は、問題にならなかった。

 だが今回は違う。


 相手は、兄の――

 いや、まだ“婚約者候補”だ。

「まだ、だよな?」

 誰にともなく確認するように呟く。

 婚約は、まだ。

 正式な発表も、まだ。

 つまり――

(可能性は、ゼロじゃない)

 その考えが浮かんだ瞬間、胸が高鳴った。

 ――選ばれたい。

 ただの一人の男として。



「……ははっ。」

 自嘲が漏れる。

 プレイボーイで名を馳せた色男の第二王子が、

 たった一人の令嬢に、こんなにも振り回されるなんて。


 だが、もう引き返せない。

 図書館で、唇が触れた瞬間。

 彼女の肩が小さく震えたあの感触。

 あれは、忘れられない。

(次は……)

 最後まで行きたい、とは思わない。

 ――違う。

 選ばれるところまで、行きたい。


「兄上がどれだけ囲おうが。」

 第二王子は、静かに拳を握る。


「好きになってもらえればいい。」

 兄の完璧な囲い込みの“外側”で。



(……やばいな)

 自分でも、分かっている。

 これは、遊びじゃない。

 負ければ、すべてを失う賭けだ。

 兄のことだから容赦ないだろう。



 それでも。

「……楽しくなってきた。」

 第二王子は、窓の外を見た。

 夜の王宮は、静かで、冷たい。

 その奥で、確実に歯車が狂い始めている。

 ――選ばれないと分かっていても。

 手を伸ばすことは、やめられない。

 それが、

 第二王子が“軽薄”でいられなくなった証だった。

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