第18話 苛立ち
第二王子は、苛立ちを隠さずに回廊を歩いていた。
――囲いが、強すぎる。
兄はいつだってそうだ。
気づけば、相手の逃げ道をすべて塞いでいる。
地位、名誉、未来。
そして今は――シャーロット。
控えめで、礼儀正しくて、ふとした瞬間に無防備な色を見せる。
兄のものになるには、惜しすぎる。
――夜
第二王子は、辺境伯家のタウンハウスを訪れていた。
応対に現れたのは、レオンハルト。
いつも通り穏やかな微笑みを浮かべているが、その奥は張り詰めている。
「珍しいですね、殿下がこの時間に。」
「静かに話したいだけだ。」
第二王子は、遠慮なく切り出した。
「兄上は、シャーロットを完全に囲い込むつもりだ。」 「学園も、王宮内も、偶然を装ってすべて管理下に置いている。」
レオンハルトは否定しない。
沈黙が、答えだった。
「君も……気づいているはずだ。彼女が、少しずつ息苦しくなっていることに。」
レオンハルトの声が低くなる。
「殿下、それ以上は、危険なお話になります。」
「はは……そうだろうな。」
第二王子は自嘲気味に笑った。
「だが俺は、もう兄のスペアで終わる気はない。」 「彼女を、ああやって扱われるのを黙って見ていられなくなった。」
一瞬、言葉を選ぶ。
「……正直に言おう。」
視線を逸らし、低く告げる。
「衝動的に、彼女を抱き寄せそうになったことがある。唇に、あと少しで触れる距離まで――。」
レオンハルトの表情が、わずかに強張った。
「だが、未遂だ。」
第二王子は、拳を握りしめる。
「……それでも忘れられない。」
*
王宮。
諜報部からの報告書に目を落とし、王太子は静かに息を吐いた。
「未遂、か。」
淡々とした声で怒気はない。
だが、側近は理解していた。
これは、最も危険な兆候だと。
「弟は焦っているね。理性よりも、欲が先に立ち始めた。器が小さい。」
王太子は指先で机を軽く叩く。
「そして――辺境伯家のレオンハルト。」
名を呼ぶ声が、わずかに冷える。
「守る顔をして、欲を隠す者ほど厄介だ。」
柔らかな微笑みの奥で、決意が固まる。
「私の大切な薔薇を摘ませはしない。触れさせることなど決して許さない。」




