第17話 お茶
翌日、シャーロットは王宮からの「穏やかな招待 状」を受け取った。
形式はあくまで非公式。
茶会という名目だが、差出人が王太子殿下である時点で、伯爵家の娘が断れるはずもない。
……間違いなく囲われているわよね。
そう自覚しながらも、胸の奥に小さく灯る感情を、 彼女自身が否定できずにいた。
王太子の私室に通された瞬間、ふわりと甘い香りに包まれる。
薔薇と紅茶、それに彼自身の気配。
「来てくれて嬉しいよ。」
振り返った王太子は、いつも以上に柔らかな笑みを浮かべていた。
だが、その瞳の奥は鋭く深い。
「お忙しいところを……。」
「君のためなら、時間はいくらでも作る。」
さらりと言い切られ、シャーロットは一瞬言葉を失う。
彼はシャーロットの手を取ると、指先にそっと口づけた。
触れるか触れないかの距離だが、そこに込められた執着は、はっきりと伝わる。
「最近、少し疲れているように見えた。学園で、余計な視線も増えているみたいだね。」
――見られているの ?全部。
「私が君を守ると言ったはずだ。」
王太子は、シャーロットを椅子に座らせ、王太子自ら紅茶を注いだ。それだけで異例だ。
「殿下……。」
「シャーロット、君は私の心を乱す唯一の存在だ。」
彼は微笑むけれど、その笑みは逃がさないと告げていた。
「誰かに困らされていないか?不安になる必要はない。」
カップを差し出しながら、そっと囁く。
「すべて、私が片付けるからね。」
その瞬間、シャーロットの胸に罪悪感が広がった。 ――レオンハルトの横顔。
――第二王子の落ち着かない視線。
(この人が片付けると言う時、それはもしや……)
ぞっと背中が寒くなる。
王太子は、シャーロットの頬にそっと触れた。
まるで宝物に触れるように、丁寧に。
「怖がらなくていい。君は、ただ私のそばで笑っていればいい。」
甘く、深く、包み込む声。
その腕の中は、あまりにも心地いい。
「……殿下。」
名前を呼ぶ声が、震えた。
「愛しいシャーロット。」
王太子は、彼女の額にキスを落とす。
まだ、口づけではないが、それは予告だった。
――君は、もう私のものだと。
その頃、静かに諜報部は動き始めていた。
狂い始めた歯車は、もう止まらない。




