第14話 光の貴公子と軽薄王子
辺境伯家嫡男レオンハルト
周りから自分が「光の貴公子」と呼ばれていることを、どこか他人事のように受け止めている。
礼儀正しい、節度がある、剣術の腕、恵まれた容姿
――ただ、それだけだ。
(別に、自分は聖人なわけじゃない)
彼は自覚していた。
シャーロット・エヴァンスを見るたび、
視線が意志とは別に引き寄せられてしまうことを。
華奢に見えて、美しいメリハリのある曲線を描く身体。
とくに、慎ましやかな令嬢の装いでは隠しきれないほどの豊かな膨らみ。
しかし彼女は、王太子の手中にある。
自分が軽々しく欲を出していい相手ではない。
だが、息苦しそうに笑う彼女を見ると、
胸の奥がざわつくのも事実だった。
そんな折だった。
「――やあ、レオンハルト。」
気軽な声に呼び止められ、足を止める。
振り返った先にいたのは第二王子。
いつも通り、余裕と遊び心を纏った笑み。
「少し、いいかな?」
「……用件は?」
「つれないね。学園じゃ同級生だろ?」
距離を詰めてくる第二王子に、レオンハルトは無言で視線を向けた。
王族特有の圧はあるが、王太子ほどの重みはない。
代わりにあるのは、軽さと――油断ならなさ。
ピエロを演じ案外、頭はキレる。
「単刀直入に言うよ。」
第二王子は声を潜め、楽しげに言った。
「兄上とシャーロット嬢の婚約、このままだと決まりそうだ。」
レオンハルトの表情は動かない。
「それが?」
「困るだろ?」
第二王子は、じっと彼の顔を覗き込んだ。
「一見、硬派そうに見えるけどさ――よくシャーロット嬢を目で追ってるよね。」
空気が、わずかに張り詰める。
第二王子は肩をすくめ、悪戯っぽく笑った。
「特に……あの大きな胸。目がいかないほうが若い健全な男なら不自然だけどさ。」
レオンハルトは、眉一つ動かさなかった。
(……やはり厄介な男だ)
気づかれていないと思っていたわけではない。
それでも、王族にそう切り込まれるのは予想外だった。
「誤解だ。」
「へえ?」
「無礼な視線を向けるほど、軽くはない。」
「ふうん。」
第二王子は、さらに距離を詰める。
「欲がないわけじゃないだろ?」
囁く声は、挑発に近い。
「君も、兄上の独占には思うところがある。違う?」
レオンハルトは、静かに息を吐いた。
「殿下。」
「なに?」
「俺は、誰かの婚約を妨害する趣味はない。」
「おや、即答だね。」
第二王子は、くすりと笑った。
「でもさ、完全に決まってから後悔するより、
今、少し足掻いてみるのも悪くないと思わない?」
その言葉に、レオンハルトの胸の奥が、わずかに疼いた。
(足掻く、か)
光の貴公子と呼ばれる立場。
慎重であることが、美徳とされる立場。
だが――
今動かねば何かが決まってしまう予感が、頭を離れない。
「……俺は。」
レオンハルトは、第二王子を真っ直ぐに見た。
「彼女の意思を無視することだけは、しない」
第二王子は満足そうに笑った。
「それでいい。
兄上とは違うやり方だ。」
その笑みは、どこか危険だった。
「さて、辺境伯家の光の貴公子殿。どこまで清廉でいられる?」
そう言い残し、第二王子は去っていく。
残されたレオンハルトは、拳を握りしめた。
(……試されているな)
自分の理性と欲も。
そして――
シャーロットへの想いも。




