第13話 第二王子の胸の内
正直に言えば、最初はただの興味本位だった。
――兄上が、あそこまで執着する令嬢。
それだけで十分、面白い。
何でも持っている異母兄。
母親は正妃で周りからの期待も大きく、地位も、名声も、才能も、民の支持も。
その兄が珍しく、露骨に囲い込み、逃がさぬよう動いている。
(そりゃあ、気にもなるだろ)
だから、声をかけた。
笑いかけた。
軽い冗談を投げた。
いつも通りの、遊び。
そう、思っていたはずだった。
――伯爵令嬢シャーロット・エヴァンス。
控えめで、距離を保ち、
なのに不思議と目を離せない。
(……困るな)
第二王子は、内心で舌打ちする。
女性に不自由したことなど無かった。
眉目秀麗、王族でありながら、王太子のような重責もない。
微笑めば、女たちが勝手に縋ってくる。
求めれば、拒まれたことなどほとんどない。
――なのに。
(彼女は、簡単に手を伸ばさせてくれない)
課外授業のあの日。
人目の少ない場所。
風に揺れる髪。
少しだけ、無防備な距離。
(あれは……)
キスできたはずだった。
ほんの一歩。
あと、ほんの少し。
だが――
「さすがに、まずいのでは。」
警護の声が割って入り、
その瞬間、現実に引き戻された。
(……くそ)
そのとき初めて知った。
胸が、やけにうるさい。
高鳴り。
焦燥。
そして、名残惜しさ。
(今まで、こんなの感じたことなかったぞ)
もし、止められていなかったら。
キスだけで済んだのか理性が持ったかどうか――
正直、自信がない。
第二王子は、唇に指を当て、小さく笑った。
「冗談のつもりだったんだけどね。」
強がって口ではそう言えた。
だが、心は違った。
(冗談で、あんな気分になるかよ)
兄上が婚約するまでに。
それまでに、どうにかしたい。
だが、無理強いはしない。
拒絶されるのは、性に合わない。
彼女の意思を尊重しつつ
優しく、甘く
気づけば隣にいる存在として。
……何とかして既成事実くらいは、欲しい。
それが、兄上の逆鱗に触れると分かっていても。
むしろ――
(だからこそ、燃える)
第二王子は、楽しげに目を細めた。
兄上が本気なら。
自分も、少しくらい本気になってみてもいいだろう。
この気持ちが、恋なのか。
ただの執着なのか。
そんなことは、どうでもいい。
シャーロットを欲しいと思った。
それだけで、十分だった。
(さて……次は、どう口説こうか)
軽薄な笑みの裏で、
第二王子の胸中は、静かに危険な色に染まり始めていた。




