第11話 課外授業
課外授業は、王宮近郊の自然保護区で行われていた。
貴族が集う学園らしく、内容は上品で健全――のはずだった。
(……どうして、こうなるの)
シャーロットは半歩下がりながら、目の前の人物を見る。
「そんなに警戒しなくてもいいんだよ。」
第二王子殿下は、いつも通り軽い笑みを浮かべていた。
「授業の一環だ。ほら、植物観察。近い方がよく見えるだろ?」
「……十分見えています。」
距離が近い、いや近過ぎる。
明らかに、学園内で許される範囲を越えていた。
(まずい……)
そう思った瞬間だった。
第二王子の手が顎にかかり
一瞬、思考が止まった。
「っ――」
「いいよね?」
その声と同時に、左右から伸びた手が第二王子の腕を制した。
「殿下!」
「さすがに、それはまずいのでは。」
控えめながらもはっきりした声。
王族警護の護衛たちだった。
「課外授業中です。衆目もございます。何卒。」
あと一歩でも遅ければ、確実に唇が触れていた距離。
第二王子は一瞬きょとんとしたあと、くすりと笑った。
「あれっ?本気にした?冗談だよ。」
あまりにも軽い声音だか
名残惜しそうに、シャーロットを見下ろす。
「次は、分からないけどね。」
冗談の形をした予告。
護衛たちの視線が鋭くなる中、第二王子は両手を上げて後退した。
「今日はここまでか。
またね、シャーロット嬢。」
その去り際の視線が、ぞっとするほど楽しげだった。
(……冗談、なの?)
(それとも――)
その日の夕方。
伯爵邸の一室で、シャーロットは机に突っ伏していた。
「このままだと……やっぱりまずいわよね。」
向かいに座る幼馴染、エドモンドは渋い顔で頷いた。
「まずいな。」
「でしょう?」
「第二王子は軽いが、軽いまま一線を越えるタイプだ。伊達にプレイボーイとして名を馳せていない。」
「最悪だわ。」
シャーロットは顔を上げる。
「ねえ、やっぱりいないの?
王太子殿下たちの手が及ばない結婚相手。」
「いるわけがないだろ。大体、そんな人間と俺が知り合いになれると思うか?」
即答だった。
「ですよね……。」
「諦めろ。」
エドモンドはきっぱり言った。
「それより、ヤンデレとの上手い付き合い方を考えた方が現実的だ。」
「……。」
「刺激しない。逃げない。適度に安心させる!」
「それ、効果あるの?」
「分からん。」
シャーロットは絶望した。
「……私の未来、軟禁生活一直線だわ。」
「軟禁なら軟禁で、軟禁生活に楽しみを見つけろ。」
「例えば?」
「読書。刺繍。庭園散策。妄想。食い気。」
シャーロットは青ざめる。
「王太子殿下の前で庭園散策なんてしたら、
私の名前が付いた植物が増えそうだわ。」
エドモンドは目を逸らした。
「……ああ。」
「そこは否定して欲しい。」
「いや、あの方ならやりかねないだろ。」
――その頃、王宮では。
「殿下。」
側近が一礼する。
「ご命令の新種の薔薇ですが、改良に成功し蕾を付け始めました。」
王太子の表情が、目に見えて和らいだ。
「そうか。」
満足そうに頷く。
「いいね。美しく、大輪の花を咲かせそうだ。」
窓の向こうに広がるロイヤルガーデンを見つめながら、静かに告げる。
「――ロイヤルハイネス・シャーロットの薔薇が。」
その声は、甘く。
そして、逃げ場のない確信に満ちていた。




