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支えてくれる者

「なるほど。じゃあ、その先生には真実を伝えたのね」


 アレク先生のことがあってから、数日後。

 向日葵書店が定休日の日に、光本さんと風見さんを家に招いた。

 葵が淹れてくれた紅茶を飲んで、僕は「はい」と頷く。


「知りたいという気持ちが、けっこう奥まで根付いていたので。これ以上隠し通すのは無理でした」

「記憶は消したのかね?」

「消したというか、口外しないようにしました」


 僕の座っているソファの隣に、葵は腰かける。

 そして、紅茶のカップにそっと手を添えた。


「アレク先生は察してくれました。女神の子について、詳しく話さなくても納得してくれて」

「だから、楽でした」


 葵が、僕の方を見てにこりと笑う。

 僕も、葵に微笑み返した。


「二人がそれでいいなら、私たちから言うことはないわ」

「あぁ、そうだな」


 女神の子であること。名前が二つあること。

 それ以外にも、僕たちには秘密がある。

 誰にも言えない、秘密の秘密。

 それをなぜ、光本さんと風見さんが知っているのか。


「私たちも、初めて聞いたときは驚いたな。聞かなければ、深く知ることはなかっただろう」

「えぇ。女神様がくださった大事な縁だもの。大切にしなきゃね」


 僕たちが抱える秘密は、葵と二人だけでは背負うのが大変だった。

 それを助けてくれたのが、光本さんと風見さん。

 偉大な魔術師である二人だからこそ、母さんは信頼しているのだ。


「いつもありがとうございます」


 ふと、僕の口から言葉が零れた。

 いつも助けてくれて、守ってくれる二人。

 その二人の存在が、僕たちにとってどれくらい大きなものなのか。

 きっと、当人たちは分からないだろう。


「わたしからも」

「いいのよ、二人とも」

「そうだそうだ、遠慮なんてするな」


 その優しさは、まるで親のようみたいで。

 もういい歳なのに、涙が出てきそうになる。

 隣を見れば、葵も泣きそうになっていた。



 *



 女神・シャルディーネ。

 彼女は魔法世界の創造主であり、シャルディア王国を愛した者。

 自分の名が付いた王国を、ずっと愛し続けていた。

 だから、僕と葵はシャルディアに住んでいる。


「『魔法世界誕生物語』と『シャルディア王国建国記』は有名なものだ。人間界には、このような書物はあるのかね?」


 二杯目の紅茶を飲んでいた風見さんが、ふとそんなことを言った。

 それを聞いた光本さんも、「確かに」と目を輝かせる。


「改めて考えてみると、読んだことがないわね」

「ありますよ」


 僕は立ち上がって、リビングの隅に置かれている本棚へ向かう。

 そこには、お気に入りの本を葵とそれぞれしまっている。

 お互いのおすすめの本を読んだり、プレゼンし合ったり、そんなことに役立つ大切な本棚だ。


「今あるので言うと、『古事記』ですかね」


 少し古びた本を、テーブルの上に置く。

 瞬間、本好きな光本さんと風見さんが一気に食いついた。


「この国『日本』の、一番古いと言われている歴史書です。神話などが載っていておもしろいですよ」

「わたし、『古事記』大好き。神話も好きだし、お母さんみたいな女神がいるのも好き」


 葵も身を乗り出して、本を一緒に覗き込む。

 その後ろ姿が、どこか母さんに似ていた。

 父さんが読んでいる本を横から覗き込んで、一緒に読もうとする姿。

 理由を聞けば、恥ずかしそうにはにかんでいたっけ。


『本は、違う世界に行けるでしょ? 私はお父さんとどこまでも一緒にいたいんだ』


 母さんの考え方が綺麗で、僕もいつしか本が好きになった。

 違う世界に行けること。

 現実を紛らわせてくれること。


 ──この世界での『悲しみ』を、忘れさせてくれる場所。


 唯一無二の居場所。

 葵の隣の次に安らぐ、特別な場所だった。


「お兄ちゃん?」


 そんな声で、はっと現実に引き戻される。

 見れば、葵が心配そうに僕を見ていた。


「大丈夫?」

「うん。なんでもない」


 この苦しさと悲しみは、誰にも分かってもらえない。

 本の中、あるジャンルでの登場人物のみ。

 僕の心を埋めてくれる存在がいる。


「変なこと考えないでね。わたしはお兄ちゃんの味方だから」


 双子の妹には、お見通しだったけれど。



 *



「すみません」


 事件は、自分で歩いてやってくる。

 唐突に。


「いらっしゃいませ」


 来店されたのは、作家の青木先生。

 そして、先生のおばあさまであるサキさん。


「やっぱり、どこかでお会いしていませんか?」


 


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