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双子の力

 王城には、いくつか塔がある。

 その中で、1番高くそびえ立つ塔。

 そこは、魔法界の女神が住むところに最も近い場所だ。


「ここに来るの、久しぶりかも」


 真っ白い塔のバルコニー。

 そこに立つと、この国全体を一望することができる。

 レンガを基調とした家々、城壁の向こうに見える青々とした森。

 女神が愛したこの国は、いつ見ても美しかった。


「何年ぶりかは忘れたけどね」


 お兄ちゃんがくすりと笑って、わたしの隣に立った。

 わたしたちの後ろには、王様と王妃様が並んでいる。

 今から行うことの責任と、お兄ちゃんの対応。

 そのために、2人は佇んでいた。


「始めよう」


 わたしは、お兄ちゃんへ手を伸ばした。

 お兄ちゃんは、その手をそっと取ってくれる。


 2人で手を重ね、指を組む。

 もう片方の手は、国へ向けて掲げる。

 


〈神の手に、この星の力を〉



 そう唱えれば、わたしとお兄ちゃんの手から金色の光が現れる。

 魔力の光は、白。

 この色は、わたしたちだけしか出せない特別な色。

 

 言葉と同時に、大きな金色の魔法陣が生まれる。

 大きな星が描かれた魔法陣。

 普通の者には見えないもので、国王夫妻にも見えないもの。


 それは、国全体を包み込むくらい大きくなっていく。

 大きくなればなるほど、わたしたちの中にある〈力〉は消耗していく。

 お兄ちゃんを見れば、金色の光の中で苦しそうな顔をしていた。

 早く終わらせないと、お兄ちゃんが限界を迎えてしまう。

 わたしは、魔力を大きく膨らませた。

 そして。



〈ジェミニ・ミネルヴァ・スターリンク〉



 声を揃えた。

 これは、特別な呪文。この〈力〉を魔法として見させるためのものだ。


 魔法陣が国へと降りていく。

 そして、シャルディア王国をゆっくりと包み込んでいった。


「これが、──の力……」


 王様が、呆然としながら呟く。

 その声は、魔法陣と共に吹く風によってどこかへ飛ばされていった。


 魔法陣は、ゆっくりと国に浸透していく。

 どこもかしこも、漏れがないように。

 やがて、役目を終えた魔法陣はすぅっと消えていった。


「終わった……」


 光が収まり、吹いていた風も止む。

 力を入れていた体から、ようやく肩を下ろしたとき。


 がくん。


 繋がれていた手から力が抜けた。

 それと同時に、わたしの体は右へ傾く。

 

「お兄ちゃん!」


 お兄ちゃんが倒れたのだ。

 わたしと手を繋いだまま、膝から崩れ落ちていった。


「おっと」


 受け止めてくれたのは、王様だった。

 ぐったりと気を失っているお兄ちゃんを、王様が抱え上げてくれた。


「ありがとう、2人とも」

「感謝いたしますわ」


 王様と王妃様が、笑みを浮かべて礼を言ってくれた。

 わたしは頷いたけれど、今はそれどころじゃない。

 早くお兄ちゃんを!


「王様、早く! 大好きなアリアを追いかけるのと同じくらいの速さで!」

「任せなさい!」



 *



 わたしたちの存在は、国の者なら誰でも知っている。

 秘密のようで、秘密ではない存在。

 国民は、物心ついた頃からなぜかわたしたちのことを知るようになる。

 きっと、わたしたちが不自由に生きなくてもいいようにと、女神が与えてくれた力なのだろう。


「様子はいかがです?」


 王宮の客室に、アリアが入ってきた。

 ここ、ロイヤルルームは隣国の王族などが泊まられる場所だ。

 そんなところを貸してくれたのは、王様の気遣いだろう。


「まだ起きないよ」


 あれから、五日。

 国民は、『転生物語』のことを忘れていた。

 転生に憧れて、転生の魔法を作ろうとしていた者の記憶まで。

 全てを消し去った。

 しかし、その代償はお兄ちゃんに降りかかった。


「大丈夫なんでしょうけど、ここまで眠っていると心配になりますわね」


 お兄ちゃんは、まだ目覚めない。

 客室のベッドの上で、静かに眠っている。

 黒くて艶のある髪をそっと払って、その頬を撫でた。


「魔力のない体なのに、いつもこうやって無理してくれるんだ。この世界を守るために」

「魔力を得ることはできないのです?」

「うん。お兄ちゃんの体は、人間そのものだからね。魔力を入れたら、体が壊れるんだ」


 それなのに、あの〈力〉は授けられている。

 残酷だけど、神が決めたんだから仕方ない。


 ただ静かに、作られた人形のように眠り続けるお兄ちゃん。

 いつも朗らかに笑っていて、わたしを見守ってくれるお兄ちゃんとは違う。

 わたしたちは、一心同体。

 離れるなんて考えたことがないくらい、生まれてからずっと一緒だった。


「大丈夫です。絶対、目覚めます」


 眠るお兄ちゃんには、長い睫毛が影を落としている。

 頭を撫でても、話しかけても反応がないことに恐怖を覚える。

 震えるわたしに、アリアは力強く言った。


「貴女を置いて死ぬような人じゃないでしょう? 貴女のことが大好きなんですから」


 そう言われて、ふと思い出す。

 この前出かけたときに買った、お揃いの服。

 わたしが「買おう」って言ったのに、お兄ちゃんはこの上ないくらい喜んでいた。

 その笑顔は、まるで。


「確かに、お兄ちゃんはわたしのこと大好きだよね」

「……認めるのですね」


 アリアは、おもしろそうに笑った。

 

「なら、大丈夫です。でも心配なら、お父様をお連れしますよ」

「王様を?」

「えぇ。わたくしがいれば大騒ぎしますから。ヒナタさん、『うるさい!』って起きてくるのではなくて?」

「あ、荒療治すぎない……?」


 良いのか悪いのか分からない作戦だけど。

 まぁ、最終手段で考えとくよ。





 その後。

 お兄ちゃんは、1週間くらいして目覚めてくれた。


「起きてくれてよかった!」

「なんか、夢の中で王様が『可愛いアリア~!』ってアリアを追いかけてて、うるさすぎて怒鳴ったら起きれた」

「……やばいね」


 どうやら、王様のおかげで起きられたらしい。

 王様、ありがとう?


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