星の栞
昔むかし、子どもの頃の話。
「2人はいつまでも、仲良しでいてね」
母親がそう言った。
あたたかな手だった。優しくて、柔らかくて、大好きな母の手。
その手で、ぎゅっと抱きしめてくれた。
「双子で生まれてきてくれて、ありがとう」
父親がそう言った。
頼もしい声だった。優しくて、慈悲深くて、大好きな父の声。
その声で、しっかりと包み込んでくれた。
「ありがとう」
何度も、ありがとうと繰り返される。
当時、その意味が分からなかった。
だから、2人で「うん!」と笑ってみせたのを覚えている。
「大好き!」
ずっと変わらない、その想い。
どんな運命でも、どんな使命でも。
両親に対する想いは、時空を超えて変わらないと断言できる。
*
わたしたちの誕生日は、いつも2人で祝う。
ケーキは1つ。プレゼントはそれぞれ。
「おめでとう、葵」
「お兄ちゃんもおめでとう!」
向日葵書店の2階。お兄ちゃんの家のリビング。
そこのテーブルにケーキを置き、グラスに注いだワインで乾杯。
そして、プレゼントを渡し合う。
「お、ブックカバーか。魔法陣書かれてるじゃん」
「魔法書でも魔導書でも、そのブックカバーを付ければ普通の本に見えるっていう魔法かけといた」
わたしからのプレゼントは、魔法陣付きのブックカバー。
読書家のお兄ちゃんに合わせて作った、オリジナルのものだ。
「わ! キャンドルだ!」
「葵は本を読むときキャンドル灯すでしょ。だから新しいの買ってみた」
お兄ちゃんからのプレゼントは、きらきらとした金箔が入った青いキャンドル。
いい香りもして、大興奮だ。
「ありがとう、お兄ちゃん」
「こちらこそありがとう」
誕生日は、二人で必ず祝う。
どちらかが欠けたら、わたしたちじゃなくなる。
そんな未来は来て欲しくない。
ずっと一緒にいたいから。
「またアイリスが本を出すみたいだよ」
ケーキの苺を頬張りながら、お兄ちゃんに言う。
お兄ちゃんは、ワインをくるくると眺めながらわたしをちらりと見た。
「変な本じゃないよな?」
「魔法を使えるようになったヒーローの『逆バージョン』を書くらしいよ」
「……これまた、発想が豊かなもので」
伯爵令嬢らしかぬ、その発想。
アイリスの発想はお兄ちゃんも尊敬しているけど、その行動力については少し呆れている。
お嬢様が本を書くと、必ず人間界にも置いてと言ってくる。置くのはいいのだけど、その素晴らしい発想のおかげで、『本に呼ばれる』人間が多くなるのだ。
そうなると、お兄ちゃんがその説明に追われる。『シャイニー社』という出版社があることなど、架空の話をでっちあげて説明しなければならない。
だから、お兄ちゃんはアイリスの本に困っているのだ。
「アイリスも飽きないな。本を持って生まれたんじゃないか?」
「それはなかったけど、そう考えざるを得ないよね」
昔馴染みのアイリス。
よく本を買ってくれることに留まらず、わたしたち双子と仲良くしてくれるのだから反対はできない。
アイリスが幸せなら、その分こっちも嬉しいから。
「今度、言っといてよ」
ふと、お兄ちゃんが言った。
ケーキの上の苺をつまんで、口に放り込みながら。
「魔法界の者ならではの『逆転生』が読みたいって」
「……なんだかんだ言って、お兄ちゃんってアイリスのファンだよね」
「あの発想は天性なるものだよ」
お兄ちゃんはわたしを見て微笑んだ。
「葵の支えにもなってくれてるしね」
その笑顔は優しい。
お母さんみたいな笑みで、お父さんみたいな声。
このままずっと一緒にいたい、わたしの片割れ。
「幸せな1年になりますように」
何度言ったか分からない、この言葉。
それでも言い続ける。
お兄ちゃんとわたしが、この世界に存在し続けるまで。
「幸せな1年になりますように」
お兄ちゃんもまた、そう言った。
2人で両手を合わせて、指を組み合す。
そして、額と額をそっとくっつけた。
「いつまでもずっと。平和と安寧を、星に」
願いの言葉。
星へ向けて。
今年もまた、素敵な1年になりますようにと。




