ヒーロー【向日葵書店】
「俺さ、戦隊もののヒーロー大好きだったんだよね」
そう言ったのは、大学生の隼人くんだ。
今日は日曜日のため、大学はお休みなんだそう。
サークルが終わった後、バスケットボールを抱えたまま店に立ち寄ってくれた。
「ヒーローね。ヒーローを育成したり、ヒーローが活躍する物語も最近多いよね」
男の子のヒーロー、女の子のヒーロー。
子どもなら誰でも憧れたであろう、ヒーローたち。
普段は一般人なのに、悪者が来たら変身する。
その変身アイテム、変身バンク、ステッキなど、全てがきらきら輝いた特別なもの。いつか自分もなれるんじゃないかと、夢を見ながら釘付けになるのだ。
「そんな訳で、今日はこれを買います!」
隼人くんが持ってきたのは、悪役令嬢フェアの中に置いておいたライトノベル。
タイトルは、『ヒーローになるのが夢だったのに、転生したら悪役令嬢でした』。
なるほど、隼人くんが好きそうだ。
「おもしろかったら教えて。僕も追うから」
「任せろ! 課題よりもまずは読むからな!」
「いやいや、課題は優先的にやるべきだよ」
隼人くんが去ってから、店内は静かな空間が満ち始めた。
棚整理をし、売れている本などを見やすく平置きにするなど整える。
それが終わってから、パソコンでSNSを開いた。
この時代、本の需要というものが下がってきている。
売り上げも、昔と比べると少ない。
その理由として考えられるのは、情報化だ。
みんな、暇ができたらSNSを開くのは当たり前。
文字を読む媒体が、紙から端末の画面に変わりつつあるのだ。
でも、それを逆手に取る。
SNS上に、向日葵書店のアカウントを作っているのだ。
新刊が入ったという情報や、何が売れているのかなど。
みんなの需要が高いSNSで発信すれば、興味のある人が見てくれるかもしれない。
「お、この前の『魔法展』だ」
タイムラインで、『魔法展』の宣伝を見かけた。
添えられていたハッシュタグを追うと、さまざまな人が本の写真と共に投稿している。
『魔法展で気になった本を買っちゃいました!』
『この本読んでから、もう一回魔法展行きたくなった』
大反響だ。
こうやって、本を読むということに繋がる企画展は魅力的だ。
読みたいと思うし、買いたいと思う。
お客様の心をくすぐって、本の需要を高める。
とても良いアイデアを考えたものだ、カイリさんは。
*
「ヒーローかぁ。憧れでしたね」
看護師の木村さんが、スツールに腰かけて微笑んだ。
今日は、どうやら有給を取ったらしい。
貴重な有給をこうやって書店に使ってくれているのは、なんだか嬉しかった。
「どんなヒーローに憧れました?」
「そりゃあもちろん、女の子のヒーローですよ。あの時代は、テレビで観るものも性別で分かれさせられてたんですから」
時代は変わる。男の子は青、女の子は赤。そんな時代は、とうに過ぎ去った。
やがて現れたのは、性別によって分けられる事柄を批判するような時代。好きなものに性別なんて関係ないと、そう謳われるように。
「かっこよかったなぁ。まだ大人じゃないのに、みんなを守るために敵と戦うの。それがどこか異次元で、憧れても自分はなれないって思っちゃってた。だって、まずは自分が1番大切だからね」
自分もいつか、ヒーローになりたい。
そう思う子どもたちは多い。
大人になっても、きっとその心のどこかでヒーローは生きている。
だから、子ども番組のヒーローたちに魅入られる大人がいるのだ。
「『あの頃のヒーロー』みたいな企画やってみましょうか」
ふと、思いついた。
先日行った、『魔法展』みたいに。
お客様のヒーローたちを集めて、展示する。その対象の本や雑誌を、傍に添えて。
「いいと思います!」
木村さんが、ぱぁっと顔を輝かせて賛同してくれた。
「私、職業柄、子どもの好きなヒーローたちをよく観たり読んだりするんですよ。もし企画やってくださったら、たくさんの推しを紹介します!」
「『推し』ね。いいですね、その言い方にすればたくさん人が来てくれそうです」
カイリさんは、『魔法展』で本の需要を上げるイベントを行った。
ショッピングモールで、大型な企画展だからこそ実現したテーマだ。
しかし、向日葵書店ではそうはいかない。
街の小さな本屋だし、広い場所もない
だからこそ使えるのが、『お客様の声』というもの。
お客様の声を取り入れていくことで、展示品が増えていく。
オリジナルの展示をお客様と共に作っていくことができるのが、僕たちの強みだと思うんだ。
「今から楽しみです」
帰られるのか、木村さんはスツールが立ち上がりながら微笑んだ。
「隼人くんとか、すごい量のヒーローを教えてくれそうね」
「……彼は、課題がきちんと終わってから声をかけます」
「あら、もう無理っぽいよ」
木村さんが、自動ドアの方へ目を向ける。
その視線を辿った先には……。
「企画やるの!? 楽しみ! どの本にしよう!」
目を輝かせた隼人くんが、既に企画展に出す本について真剣に考えていた。
「課題やってる場合じゃない!」
「いや、課題は大事!」




