表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/32

ヒーロー【向日葵書店】

「俺さ、戦隊もののヒーロー大好きだったんだよね」


 そう言ったのは、大学生の隼人くんだ。

 今日は日曜日のため、大学はお休みなんだそう。

 サークルが終わった後、バスケットボールを抱えたまま店に立ち寄ってくれた。


「ヒーローね。ヒーローを育成したり、ヒーローが活躍する物語も最近多いよね」


 男の子のヒーロー、女の子のヒーロー。

 子どもなら誰でも憧れたであろう、ヒーローたち。

 普段は一般人なのに、悪者が来たら変身する。

 その変身アイテム、変身バンク、ステッキなど、全てがきらきら輝いた特別なもの。いつか自分もなれるんじゃないかと、夢を見ながら釘付けになるのだ。


「そんな訳で、今日はこれを買います!」


 隼人くんが持ってきたのは、悪役令嬢フェアの中に置いておいたライトノベル。

 タイトルは、『ヒーローになるのが夢だったのに、転生したら悪役令嬢でした』。

 なるほど、隼人くんが好きそうだ。


「おもしろかったら教えて。僕も追うから」

「任せろ! 課題よりもまずは読むからな!」

「いやいや、課題は優先的にやるべきだよ」





 隼人くんが去ってから、店内は静かな空間が満ち始めた。

 棚整理をし、売れている本などを見やすく平置きにするなど整える。

 それが終わってから、パソコンでSNSを開いた。


 この時代、本の需要というものが下がってきている。

 売り上げも、昔と比べると少ない。

 その理由として考えられるのは、情報化だ。

 みんな、暇ができたらSNSを開くのは当たり前。

 文字を読む媒体が、紙から端末の画面に変わりつつあるのだ。


 でも、それを逆手に取る。

 SNS上に、向日葵書店のアカウントを作っているのだ。

 新刊が入ったという情報や、何が売れているのかなど。

 みんなの需要が高いSNSで発信すれば、興味のある人が見てくれるかもしれない。


「お、この前の『魔法展』だ」


 タイムラインで、『魔法展』の宣伝を見かけた。

 添えられていたハッシュタグを追うと、さまざまな人が本の写真と共に投稿している。


『魔法展で気になった本を買っちゃいました!』

『この本読んでから、もう一回魔法展行きたくなった』


 大反響だ。

 こうやって、本を読むということに繋がる企画展は魅力的だ。

 読みたいと思うし、買いたいと思う。

 お客様の心をくすぐって、本の需要を高める。

 とても良いアイデアを考えたものだ、カイリさんは。



 *



「ヒーローかぁ。憧れでしたね」


 看護師の木村さんが、スツールに腰かけて微笑んだ。

 今日は、どうやら有給を取ったらしい。

 貴重な有給をこうやって書店に使ってくれているのは、なんだか嬉しかった。


「どんなヒーローに憧れました?」

「そりゃあもちろん、女の子のヒーローですよ。あの時代は、テレビで観るものも性別で分かれさせられてたんですから」


 時代は変わる。男の子は青、女の子は赤。そんな時代は、とうに過ぎ去った。

 やがて現れたのは、性別によって分けられる事柄を批判するような時代。好きなものに性別なんて関係ないと、そう謳われるように。


「かっこよかったなぁ。まだ大人じゃないのに、みんなを守るために敵と戦うの。それがどこか異次元で、憧れても自分はなれないって思っちゃってた。だって、まずは自分が1番大切だからね」


 自分もいつか、ヒーローになりたい。

 そう思う子どもたちは多い。

 大人になっても、きっとその心のどこかでヒーローは生きている。

 だから、子ども番組のヒーローたちに魅入られる大人がいるのだ。


「『あの頃のヒーロー』みたいな企画やってみましょうか」


 ふと、思いついた。

 先日行った、『魔法展』みたいに。

 お客様のヒーローたちを集めて、展示する。その対象の本や雑誌を、傍に添えて。

 

「いいと思います!」


 木村さんが、ぱぁっと顔を輝かせて賛同してくれた。

 

「私、職業柄、子どもの好きなヒーローたちをよく観たり読んだりするんですよ。もし企画やってくださったら、たくさんの推しを紹介します!」

「『推し』ね。いいですね、その言い方にすればたくさん人が来てくれそうです」


 カイリさんは、『魔法展』で本の需要を上げるイベントを行った。

 ショッピングモールで、大型な企画展だからこそ実現したテーマだ。


 しかし、向日葵書店ではそうはいかない。

 街の小さな本屋だし、広い場所もない

 だからこそ使えるのが、『お客様の声』というもの。

 お客様の声を取り入れていくことで、展示品が増えていく。

 オリジナルの展示をお客様と共に作っていくことができるのが、僕たちの強みだと思うんだ。


「今から楽しみです」


 帰られるのか、木村さんはスツールが立ち上がりながら微笑んだ。


「隼人くんとか、すごい量のヒーローを教えてくれそうね」

「……彼は、課題がきちんと終わってから声をかけます」

「あら、もう無理っぽいよ」


 木村さんが、自動ドアの方へ目を向ける。

 その視線を辿った先には……。


「企画やるの!? 楽しみ! どの本にしよう!」


 目を輝かせた隼人くんが、既に企画展に出す本について真剣に考えていた。


「課題やってる場合じゃない!」

「いや、課題は大事!」


 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ