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魔法展

「うわぁ、すごい!」


 出かけ先の、ショッピングモール。

 そこで行われていた『魔法展』なるものに、僕たちは吸い込まれるように入った。


 入ってすぐ現れたのは、巨大な塔のオブジェ。

 てっぺんには大きな鐘があり、一定の時間ごとに鐘がゴーンと鳴る。

 オブジェの下には、説明書きのパネルが置かれていた。そこには、どんな作品で出てきたものなのかが詳しく書かれている。

 つまり、色々なファンタジー作品に登場するものたちが、実際に具現化されて展示してあるようだった。


「すごい。これ、当たってる」


 時間を知らせる鐘の塔を見て、葵が呟いた。

 塔を見上げて、ぱぁっと目を輝かせる。この塔が登場する本は、最近書かれたファンタジー小説だ。


「この本、欲しいかも」

「いいね。本の需要が高くなるイベントだ」


 どんな本に出てきたのか、どんなシーンなのか。

 その他詳しい情報が、本のタイトルと共に書かれてパネルとして置いてある。

 説明の内容は本当に秀逸で、「読みたい!」と思わせるようなもの。

 この企画を提案した人に、ぜひとも会ってみたい。

 

 塔を過ぎると、次は『魔術師の店』というものが現れた。

 杖や箒などが展示されている。

 それを見て、葵は少し笑った。


「やっぱり、人間の『魔法使いのイメージ』は箒なんだね」

「その起源ってあまり分からないけど、『魔法使いは箒』っていう概念は一般的だよね」

「実際は、高度だけど転位魔法とか使うからね。杖も使わない人もいるし、ここは人間界の概念との違いかも」


 なぜ『魔法使いは箒に乗って移動する』という考え方があるのか。

 人間の僕にも分からないし、本物の魔法使いの葵も分からない。

 それでも、ほとんどの人間にはこの考え方が根付いているものだから、不思議でたまらない。


「よし、もっと行こう!」


 僕がそんなことを考えていると、葵が腕を思いっきり引っ張った。




 そこから先は、『すごい』しか出てこないほど世界が作り込まれていた。

 ここが企画展だということを忘れて、別世界に来たかのような感覚。

 ただ、隣には本物の魔法使い。

 これは合ってる、これは見たことないかも、と評価を付けていた。


 そして、最後に見たショー。

 『本当に魔法を使っているかのように見えるマジシャン』と謳われた男性が、マジックを披露していた。

 それは本当に魔法を操っているように見えて、僕は拍手を繰り返す。

 その隣で、葵がふと呟いた。


「あの人、魔法界の者だよ」

「え?」


 人を浮かすマジックも、何もないところから薔薇を取り出すのも。

 全てが魔法だということに驚く。

 マジックにしか見えないのに、あれが魔法なんて。


「おもしろいね。人間が見ればマジック、魔法界の者がみれば魔法。2つの見方ができるわたしたちはお得かも」


 確かに。

 葵の言葉に納得していると、マジシャンが偶然こちらを見た。

 僕と目が合って、葵の方にも視線を向ける。

 魔法界に関わっていると分かったのか、彼はふっと微笑んでシルクハットを少し浮かせた。



 *



「おもしろかったね」

「うん」


 企画展を出れば、そこはあの本屋さんの目の前。

 渡されたパンフレットは、今回の展示に関わった書籍のタイトルがずらりと書かれていた。

 お客さんたちは、そのパンフレットを片手に本屋さんへ入っていく。

 なるほど、おもしろい戦略だ。


「これ、本屋さんとの合同企画展だったんだね」

「この企画展がきっかけで本を読んでくれるのなら、すごい上手な戦略かも」


 ここでも、やっぱり同業として感心してしまう。

 さすがとしか言えない。

 僕たちも、少し参考にさせてもらおうかな。


 僕も葵も、企画展で欲しくなった本があったため、本屋さんへ向かう。

 さっきは気付かなかったけれど、本屋さんの一角に『企画展コーナー』というものができていた。

 その前の棚には、たくさんの人だかり。

 こうやって、本との出会いが企画展を通してできる。

 なんだか素敵な戦略だと感じた。

 お目当ての文芸書を、人の間から手を伸ばしてなんとかゲットし、やった! と思ったそのとき。


「あの」


 誰かに声をかけられた。

 振り向くと、そこには1人の青年。

 あれ、見たことある。えっと、確か……。


「マジシャンのお兄さんだ」


 葵が発した言葉で、ようやく男性の正体に気が付いた。

 なるほど、よく見ればさっきのマジシャンの人だ。


「どうも。僕、カイリって言います。もしかしておふたりは、魔法界の者ですか?」


 マジシャンのお兄さん──カイリさんは、柔らかく微笑んで聞いてきた。

 葵は、僕を見上げてくる。

 周りに人がいないことを確認してから、僕は葵に頷いてみせた。


「わたしは魔法界の者です。こっちはわたしのお兄ちゃん。人間界の人ですよ」

「え? そうなんですか? てっきり、お二人ともが魔法界の者かと」

「お兄ちゃんは半分『そう』なんですよ」


 葵が説明してくれる。

 その間、僕はカイリさんを観察していた。

 ソレイユ書房がある国──シャルディア国──は、小さな国という特性のせいか、僕たちの存在は知れ渡っている。

 人間界の血を引く者と、魔法界の血を引く者の双子。

 これだけで、僕たちの存在はすぐに認知される。

 しかし、カイリさんはあまりピンと来ていないようだった。

 もしかして。


「カイリさんって、お隣のクラル国の方ですか?」


 試しに聞いてみれば、カイリさんは「え!」と目を丸くした。

 どうやら、正解だったっぽい。


「なんで?」

「僕たちは、シャルディアでは有名になっちゃってるんで。それを知らないのは、他国の者なんです」

「……なるほど。まぁ、僕はただ聞きたいことがあっただけなんですが」


 カイリさんはびっくりしていたけれど、急に笑顔になって言った。


「今回の企画、どうでした? 魔法界とは違うところが多くあったから、魔法界の者が来たらどうしようってドキドキしていたんです」


 どうやら、この企画はカイリさんが提案したらしい。

 人間界にも、魔法界の姿というものを作りたかったのだそう。でも、人間界と魔法界の考え方は違うから、『魔法使いの箒』のようなことが起きてくるという。


「おもしろかったですよ。人間界らしさがたくさん出ていて」

「まるで魔法界に行った気分になりました。人間界のいい観光地になりそうですね」

「わぁ! 嬉しいお言葉ありがとうございます!」


 カイリさんは、満面の笑みでお辞儀をした。


「実は本当に不安で。本物の方にそう言っていただいたのは大きいです」 

「それならよかったです」


 葵は、カイリさんに向かって微笑んだ。

 

「本屋さんと関連させたのがおもしろいなって思いました」

「お兄ちゃん、さっそく1冊買っちゃったもんね」


 値段を見ないで買った本。

 本当に惹かれて、本に呼ばれて買ったもの。

 これはきっと、一生の宝物になる。


「また来てください。いつでも待ってます」


 どうやら、この企画展は常設展へと移行するらしい。

 なら、いつでも見に来ることができる。

 モールの中に新しい場所が誕生するのは、本当に嬉しいのだ。





「おもしろい人だったね」


 帰り際、葵はくすくすと笑った。


「魔法使いで、マジシャン。わたしたちが考え付かないような戦略で、お客さんを魅了してるんだね」


 確かにかっこよかった。

 僕の頭の中は、本屋のことでいっぱいだ。


「参考にしていかないとだな。僕たちならではの企画を考えてさ、それに関連した本棚作るの、今からワクワクする」

「お兄ちゃん。やっぱりそれ、職業病かも」


 葵が、おもしろそうに笑った。


「お兄ちゃんの場合、未来の扉はたくさんありそうだね。色々な扉がたくさんある感じ」

「なんの話だ?」

「ほら、この前、向日葵書店に移動かけたじゃん。『未来を開ける扉が、自動ドアだったら?』っていう本」

「あぁ、あれ。表現がすごいと思ったけど、実際に自動ドアだったらびっくりだよ」

「未来が簡単になっちゃう」


 勝手に開く未来の扉は、簡単だけど少しめんどくさそう。

 そんなことを考えながら、2人で帰路につくのだった。


「もし回転ドアだったらどうなるんだろ」

「未来がぐるぐる回ってて、ずっと悩み続ける未来になりそう」


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