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時代

 時代は変わる。

 それに対して、特に反論はない。

 ただ、少し寂しさを感じるだけ。


「変わったねぇ」


 今日は、向日葵書店もソレイユ書房も定休日。

 定休日はいつも、どちらかの世界に行ってゆっくりしたり買い物をしたりする。

 今回は、葵の要望で人間界で休みを取ることにした。


「人間はすぐに変わるものだよ」

「命が短いから、その分だけ楽しく生きていくんだよね」


 街中は、魔法界にはないもので溢れ返っている。

 駅の大型モニター、スマートフォン片手に歩く人々、信号機。

 当たり前のような光景だけど、魔法界の者が見ればあっと驚くようなものばかりだ。


「ね、お兄ちゃん。本屋さん行こう」


 隣を歩いていた葵が、思いついたように言った。





 向かった本屋さんは、大型ショッピングモールの中にある大手書店だ。

 通路のところから棚があって、『○○大賞受賞作コーナー』や『今月の人気ランキング』など、思わず足を止めてしまいそうな企画がたくさん行われていた。

 同業だから、本屋に来たときには一種の偵察だ。どこに何が置いてあるのか、棚は整っているのかなどをいちいち確認してしまう。


「え、お兄ちゃん。これ、すごい」


 葵が目を付けたのは、とある棚の一角だった。

 一際大きな棚に掲げられた、目立つ看板。

 そこには、『電子書籍フェア』と書かれていた。

 棚では、小説やコミックがサイトごとに分類されて差してある。

 サイト内で一番読まれている作品、サイト発信で書籍化したもの。

 加えて、『サイトでしか読めないおすすめ作品を、みんなに紹介しよう!』というコーナーまで作られていた。置いてある紙とペンは、おすすめの作品を書いてコルクボードに貼るためにあるらしい。


「電子書籍って、なに?」


 葵が首を傾げて、僕を見上げてきた。

 僕は、ポケットからスマートフォンを取り出して、とあるアプリを立ち上げる。開かれたアプリには、たくさんの書影が画面にずらりと並んだ。


「書籍がデータ化されているものだ。電子で買えば、書籍を置くスペースとかいらずに、このスマートフォンだけで完結するから便利なんだ」

「へぇ」

「賛否両論はあるけどね」


 従来の紙の本がいいのか、今をときめく電子書籍か。

 どちらにもメリットがあるし、デメリットがある。

 だから、優劣をつけることが難しいんだ。


「すごいね。人間の考えることっていつも飛びぬけてる」

「時代に合わせて、どんどん進化していってるよ」


 情報化が進む社会に、求められている本の在り方。

 電子書籍は、きっと現代人のためにあるもの。

 ただ、紙の本が好きだからといって昔の人だと決めつけることはできない。

 好きなものは人ぞれぞれなんだから、人の考え方にあれこれ言うのは違う。

 好きな方で、好きな作品を読めばいい。


「その考え方、本屋さんにしては珍しいよ」


 僕がなにを考えていたのか当ててきた葵は、くすくすと微笑んだ。


「人間界は、本を読む人が少なくなってきてるんだから。もっと読んでもらえるように工夫しないと」

「本屋さんはどんどん消えていっちゃうからね」


 街の本屋さんは、気付くとその姿を消していたりする。

 本の需要が下がってきている今は、本屋さんが生きていけなくなってしまうのだ。

 だから、本屋さんは文房具などの雑貨も置いていく。

 そうすれば、少しは売上に繋がるから。


「何か買う?」

「いいや。それより、ちょっと待ってて」


 僕は、葵の傍の本棚に手を伸ばした。

 平置きされている本たちを見て、乱れている本たちを正していく。


「少しズレてると気になっちゃうんだよね」

「お兄ちゃん。それ、職業病だよ」



 *



 このショッピングモールは、この街のシンボル的存在。

 学生が遊びにくる場所は大体ここだし、映画を観るにもここ。

 ショッピングモールの存在がなければ、この辺に住む人々の生活は困ってしまう。

 そのため、休日の日は人でごった返すのだ。


「けっこういるね。魔法使いとか、貴族とか」


 人が集まるということは、必ずどこかに知り合いがいるようなもの。

 ついさっき、向日葵書店の常連さんに会って軽く会釈をした。

 その間、3階の吹き抜けから1階を見下ろしていた葵が、小さな声で言った。


「ほら、あの人。隠してるけど、歩き方とか所作が全部貴族だよ」


 葵の目線の先には、恰幅の良いおじさん。普通の人に見えるけれど、どこか歩き方が堂々としている。それに、襟を正す所作。見れば見るほど、貴族としての振る舞いが溢れているように感じた。

 目を凝らせば、他にも魔法界の者が紛れ込んでいる。

 魔力などで何か分かるのか、すれ違うと葵に会釈する者が複数いた。


「僕は違うけど、こうやって何気なく来てるショッピングモールに異世界の者が交じってるって考えると不思議だよね」

「魔法界では味わえない感覚だから、こういうのちょっと楽しい」


 人間は魔法界へ行かないし、その存在すら知られていない。

 だから、この感覚は魔法界の者の独自なものだった。


「時代は変わっても、この感覚は変わらないね。なんか嬉しい」

「変わるものがあるなら、変わらないものがあるからね。それを楽しむのがいいよね」


 変わるものがあるから、変わらないものの価値が高くなる。

 魔法界は時間がゆっくりと流れているから、その変化があまり目に見えない。

 その部分では、人間界の方が楽しいように感じる。


 ぷらぷらと歩いて、ウィンドウショッピングを楽しむ。

 葵と似た雰囲気の服を買って、ほくほくしていたとき。 

 ふと、葵が足を止めた。


「なにこれ」

「おぉ、企画展だ。『物語世界の魔法を集めました』だって。行ってみる?」


 出ている看板には、シルエットの魔女がスティックを空に掲げているイラストが描かれている。

 きっと、人間が想像する『魔法使い』のスタイルなんだろう。

 実際はそんなじゃなくて、葵みたいに人間に紛れ込んでも分からないような服装や姿をしているのだ。


「行く! 行きたい!」


 葵は目を輝かせて、大きく頷いた。

 今まで見てきた店の中で、今日1番の笑顔。

 服を買ったときに見た、『お兄ちゃんとお揃いの服~!』と喜んでいたときの笑顔よりも煌めいて見える。

 ……複雑だけどね。大切な妹が幸せに笑ってくれてたら嬉しいから。



 さぁ、本物の魔法使いが『魔法展』にお邪魔しますよ!


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