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国境界紀行  作者: 桜色々
4/6

4話 毒は薬になると言うが

 アノニマス南部、元は合衆国として機能していた土地。廃れた看板には『オキシド』と銘打たれた街の道を二人は歩いていた。

 

 現代社会としては遅れてる街並み。戦争の影響で瓦礫と化した敷地が撤去されないまま残っていたり、コンクリート道路もヒビ割れていたり、例えるなら発展途上国もかくやといった風。


「来たくなかったぜ……」


 といっても、この街はたまに寄る場所だ。自分が住んでいるところより幾分か人が多く、施設の揃い方もマシ。

 乱立した傾いてる電柱だろうと電気は通ってるし、ネットも通じてるところは通じてる。治安の方も表と裏でクッキリしていて、色んな目的も果たし易いところなのだが。


「(やっぱ見られるよなぁ)」


 道行くクアンタムの視線はツクエを、というより。その少し後ろに向かっていた。

 気まずくぎこちない動きにならないよう、なんとか何てことない素振りで歩いた。早鐘打つ鼓動が外に漏れて聞こえないことを祈る。


「人間……?」

 

「あ、ああ。俺の奴隷っす。ども」


「はぁ。…………?」

 

「へへ、へ(怖ぇーーー!!!)」


 勿論というかそれ以外にないのだが。

 つかず離れずの距離でツクエの後ろを歩く一人の人間が、この視線の理由なのは明白だった。


 通り行く犬のクアンタムはまるで怪物でも見たみたいに凝視するものの。人間の首に点滅するチップの明かりを見つけると、釈然としない様子のまま通りすぎる。

 この繰り返しである。心労がとてつもない。


「(でも、ギリッギリ。騒ぎにはなってない、みたいだな……)」


 注目が集まることはこの際仕方ないとして、街に入ってからここまで呼び止めてくる輩はいない。

 服を着替えさせた効果はちゃんとあったみたいだ。


 件のレイチェルはというとその無表情っぷりを遺憾なく発揮し、我関せずとした顔でツクエに着いてきている。本当にツクエの奴隷となったようで沈黙したまま。

 といっても、コートの中には奪った拳銃を隠し持っているのだが。

 誰も分からないだろうな。従順に後ろを着いていく人間から命を握られていることなど。


「(地形データ、だったかね)」


 さっさとおさらばするにはレイチェルの要望を応えないといけない。ツクエの脳内にはそれを手に入れられるにはどうするか、一応の目処は着いていた。

 だから、こうして歩みを進めているわけで。尚更気を重たくしている要因でもある。


 記憶にある表通りの道を進んで行くと、街に入ってから早々にスプレーアートで政府の批判やら下品なスラングの書かれた路地に入っていく。

 薄暗い路地裏には浮浪者の寝床が転がっていたりと、近寄る気も失せる有り様だったが。肉球の足で踏まないよう注意を払いながら、そこを抜けると。

 

「…………ガラが悪いな」


「なに期待してたんすか。表通りですらあの有り様なのに」


 辿り着いた途端、黒髪の人間が小さく苦言を溢した。

 沈黙を破るぐらいには凄惨な様子らしい。

 

 そんな何て事ない口振りで呟いてみたものの、前来た時より一層治安が悪くなったようにも思う。

 狼の鼻に届くのは吐瀉物と鉄錆の臭い。深く吸い込むと吐き気を催してくる。それは人間も同様なのか、あからさまに顔には出ていないが不快そうではあった。


「俺としてもあんま長居はしたくないっすね」


 耳を澄ませると誰かの口論が響く裏通り。

 所謂、スラムと呼ばれる場所。

 表通りより幾分か狭く、立ち並ぶ建物の入り口にはみな格子型の柵が設けられている。道脇の水路には洗剤の泡が浮かび、きっと近くの川を汚染しているだろう。

 

 晒した毛皮から焼鏝の痕が見えるカタギじゃないクアンタムの集団もたむろっている。口にジョイントを蒸す者まで。

 あらゆる犯罪の温床でありつつ、無法地帯。そこが現在の目的地。


「誰とも目を合わせないで下さいよ。それだけで因縁付けられるんで」


 ツクエはレイチェルと歩く距離を詰めて、小声で助言する。レイチェルの様子からしてツクエの方が歩き慣れている、そう察したからだ。


 スラムに入ってきたクアンタムと人間のコンビに視線は集まっている。下手なことをして目を付けられてはたまったものじゃない。


「……ツクエ、本当にここでデータが揃えられるのか」


「トランスポーター(運搬役)でもないクアンタムにわざわざ地形データを売ってくれるところなんざ表にはないっすよ。俺たちみたいなのはここを頼るしかないっす」


「私を騙す気ではないだろうな」


 また全身が逆立つ冷たい気配――殺気を当ててくるレイチェルへ尻尾をそぞろ立たせつつ、まぁまぁと宥める。

 ここは歩くだけでも危険だが。正直、表を歩けない者同士お似合いの場所ではあった。


 何より奴隷の証であるチップが都合いい。所有者以外の命令は基本受け付けず、端末の情報は行政が管理している。わざわざ奴隷を盗もうとする輩が居ないのだ。

 ツクエの見てくれも、お世辞でも金を持ってる風に見えないからか。スラムのクアンタム達も遠巻きで見るばかりで関わろうとしてこない。


 ホッと胸を撫で下ろす。大丈夫、歩けそうだ。

 

「何でも屋を知ってるんで、そこ行ってみるつもりっす」


「頼むぞ“ご主人様”。もし私を売るつもりならその眉間だけでも撃ち抜くからな」


「……少しは信用してくれると嬉しいんですがね。俺、なんか下準備する素振りでも見せました?」


「…………」


 そう聞いてみてもレイチェルからの返答はなかった。

 何か考え込む素振りを見せるだけ。だからこっちも、特になにも言わずに記憶の通り歩いて行く。

 

 スラムのすえた空気は狼のクアンタムにとっては酷である。

 それに小悪党でしかない自分が幅を利かせて歩ける訳でもないので、目をつけられないよう隅っこを通る。


 レイチェルはそんな一挙手一投足を観察して、周囲の様子にずっと気を配っていた。まるでツクエの用意した仲間が物陰に潜んでるのか疑ってるように。

 それに、少し思わことがないと言えば嘘になった。しかし、当たり前だ。お互いに信頼関係なんて全くない。

 出会って数時間も経ってないのだ。出会い方も現状も最悪。


「(でも、こっちは協力してやってんのに……)」


 なんの義理で、と言われると自分の保身でしかないけど。だって怖いし。一瞬で二人倒したし。

 ツクエは自他共に認める臆病だ。いつも仲間の一人にそれを馬鹿にされてきていた。子供の頃過ごしていた孤児院でだって、そうだった。


「(…………さっさと地形データ手に入れちまおう)」


 臆病だから命令には従うけど、レイチェルに対して思い入れがある訳じゃない。

 この頼み事さえ聞いてしまえば切れる縁。何かあったら絶対に尻尾巻いて逃げる。

 

 そう心の中で誓いつつ、スラムを二人で進んで行く。そうすると見えてきたのは一層狭くなった路地の隙間。


「また変な場所に……こんな場所で店を開けるのか?」


「はいはい。離れないでくださいねー」

 

 見境なく家が建てられまくった影響で通るのにも一苦労な空間は、その様子に反して人が居るかも怪しいものばかりだった。

 なまじ人気の薄い路地裏でも浮浪者の一人ぐらいは居るものだが、この場に限ってその影も見当たらない。

 

 深まった物々しい雰囲気にレイチェルが眉を顰める。

 全員が家に閉じ籠っているか、誰も寄り付かないか。後ろからの刺々しい感覚はもう気にしないことにして、廃墟となったアパートの一部屋に向かう。

 取ってつけたみたいな看板がぶら下がる扉。そこにツクエは立つ。


「ここっす、何でも屋ってのは」

 

 一見ただの木の扉にしか見えないが、ドアノブは捻ろうとしてもビクともしない。鍵穴もなく、一見するとオブジェ以上の価値はない玄関だ。

 ツクエは備え付けてある郵便ポストを開き、中を覗くように屈む。中身は埃でも大量に貯まった郵便物でもなく、薄く光を反射するカメラのレンズがこちらを向いていた。


「にーっ。……ほら、レイチェルさんも」

 

「えっ。わ、私もするのか」


 そこで渾身のスマイル。犬歯を見せ、レンズに向かって笑って見せた。クアンタムの顔を検知したレンズからシャッター音が鳴り、何か処理をしている細かな駆動音が響く。


 おもむろに横にズレてレイチェルにも見せてみる。先ほどの仕返しのつもりで。

 すると不意をつかれたように眉を上げ、慌てた様子でレンズの前にぎこちない笑みを向けた。


「に、にーっ……?」

 

 出会った当初から今まで無しか浮かべてこなかった表情が、あどけなくも可愛らしい戸惑ったはにかみへ変わる。

 年相応。彼がいくつかは知らないが、子供らしいと思わせてくるそんな笑み。

 冗談半分でやったことで冷たく断られると予想していたのに、ちょっと毒気が抜かれた気分だ。

 

「……ま、俺の顔だけでいいんすけどね。登録したやつの顔認証で開くんで。レイチェルさんの顔だと反応しないっすよ」


「なっ。ならなぜ私も笑わせたんだっ!さっきお前が信用しろというからやったんだぞ!」


「いや、マジでやるとは思わなくて。アンタ、仏頂面以外も出来るんじゃないっすか。それも可愛い奴。……もしかして普段の表情ってわざとそうしてます?」


「バカにするなっ!!!」


 表通りを歩いていた時の鉄仮面ぶりはどこへやら、ツクエの物言いにはたと目を見開いて言い返してくる。

 もしや図星。ここまで感情を曝け出してくるとは思ってもおらず、へらっと顔を綻ばせたツクエに対して鮮やかなフォームのハイキックが飛んだ。


「――おごっ!」

 

 当然、身構えていなかったものだから顎に一撃クリティカルヒット。痛みより衝撃が先に来て、視界が一瞬グラグラと。脚に入っていた力が抜ける。

 頭に直接タックルされたみたいだ。全体に余震を感じながら体を折ってしまう。


「人間のガキの癖になんでこんな力がつえーんだ……!」

 

 あんな細脚なのにしっかり鍛え上げられている。

 狼のクアンタムの硬い毛皮を貫通しジンジンと痛む顎が、そんな実感と共に涙を誘った。

 前の一人は気絶してたのを見るに、もしやこれで手加減しているのかもしれない。奴隷時代どんな仕事をしていたらこうなるのだろう。


「ほらっ、さっさと行けっ。次変なマネをさせたら承知しないぞ!」


「そんな怒らなくたって……」

 

 レイチェルから背中をゲシゲシと蹴られ、息つく暇もないまま扉を潜るよう急かされる。蹴られた箇所を押さえて蹲るツクエをよそに、顔面の照会が終わったみたいで木の扉は一人でに開いていた。

 

 扉の先は石造りの階段となっている。光源のない通路は暗く、太陽も移動に費やされた時間のせいで傾いてしまった。

 と言ってもツクエは狼の特性を持ったクアンタムであり、こんな暗闇でもある程度は夜目が効く。蹴られた顎を摩りながらそのまま降りて行こうとするが。


「おい、待て。明かりぐらいつけろ。何か持ってないのか」


「さっさと行けだか、ちょっと待てだか。……俺たち狼はこれぐらいの暗さは何てことないんで、足元怖いんならおぶりますか?」

 

 しかし、人間はそうではないようで。そのまま降りて行こうとするツクエに制止の声が飛んだ。

 生憎、暗いことで困った経験のないツクエは照明器具等の物は持っておらず、両腕を広げることでそれを示す。


「……いい。ゆっくり降りろ。私もそうする」


「どーぞお姫様」

 

 一応してみた抱えるという提案は少しの逡巡の後に却下された。

 足を滑らせないよう、一歩ずつ追いかけていくようで。ツクエの方も仕方なしにそれの歩幅へ合わせるようゆっくり降りて行く。


「それにしても、何でも屋というのは地下にあるんだな。外観の割に仰々しい防犯もある」


「禁酒法時代のもぐり酒場を利用したらしいっすよ。入り口のアレは勝手に作ったみたいっすけど」


「ふむ。趣味がいい」


 太陽光に炙られた空気が届かない地下はひんやりと涼しい。荒削りなレンガ壁も風情ってものだろうか。

 外装だけは旧時代の色を濃く残しており、店主の趣味が窺える。何年経ても残されたレトロさだ。


「まぁ、色んな物を捌いてる奴なんで。腕は信用していいっすよ。こいつもここで買ったものっすし」


 そう言って、件の旧式電子ジャック装置をレイチェルの前で振って見せる。

 輸送車に使った一件からうんともすんとも言わなくなったガラクタ。これを仲間に知られれば非難轟々の嵐だろう。それぐらいの値段を吹っ掛けられたのだ。


 どんな物かよく見えていない様子だったが、ツクエの口振りからしてあの時の端末だと察したらしい。レイチェルは呆れたように首を振って、

 

「どうりでスラムと言えど誰も近づかないのか。軍用ジャマーの民間所持及び使用は極刑。その調子を見るに碌でもない物を売っているみたいだな」


「えっ。極刑なんすか?」


「……まさか、知らないで使ったのか?」


「う、ウス。いや、輸送車に使えるったぁ凄いシロモノとは思ってたっすけど……」


「お前――」


 レイチェルは何か言おうとして口を開くが、結局言葉に出来ずにそのまま息を吐き出した。その表情は呆れを通り越して哀みも含まれていて。

 呑み込んだ詳細を聞くと心に傷を負いそうなので、黙って足を進めることにする。


 買う方が買う方なら、売る方も売る方じゃないか。そう、誰に言い訳するでもない言葉を内で並べ立てた。


「こほん。ほら、ここが一番下っすよレイチェルさん」


 そんな談笑かどうか分からない会話を交えつつ、石畳を引っ掻く爪で軽い音を鳴らしながら降り切る。

 

 後に革靴の音も続く。そっと降りやすいよう彼へ手を差し出してみるが、


「もう夜目が効いてきた。気遣わなくていい」


 端的な言葉であしらわれそのまま横を通り過ぎられた。行き場を失った手が数秒固まり、気まずさのままポケットに突っ込む。

 やはり可愛げがない。さっきの笑顔は気のせいだったのか。


 そんなこんなで人間と二人、降り立った先にある木枠で縁取られた部屋の入り口に立つ。


「データが手に入ったら、俺を解放してくれるんすね」


 入る前にふと聞いてみる。意味のない質問ではあった。レイチェルの気が変わったり状況次第で簡単に反故にされる約束。

 再三の確認。何か勘違いしていないか、臆病心からの言葉でしかない。

 

「ああ、解放する」


 ツクエの問い掛けを聞いてすぐ、横の人間は肯定を返す。当たり前のことを告げるように。


「私はただこの国から出たいだけだ。その為に逃走経路を考えたい。それが出来れば無駄に脅すつもりも傷つけるつもりもない」


「……さっき蹴られましたけどね」


「アレはお前が悪い」


 まだ痛む顎をおもむろに摩ってみせると、ピシャリと言い返される。本当に蹴られるぐらい悪いことをした気分になるほど清々しい断言具合。

 反論しても良かったが恐らく言い負かされそうで、苦笑いしながら頭を掻く。


「……報酬でも欲しいのか?」


 いきなり確認してきたツクエの意図を探るように、レイチェルは眉を顰めていたが。

 

「報酬のことはちゃんと考えておく。だからちゃんと協力して欲しい」


「……えっ。あ、え」

 

 これまた、竹を割った言葉でツクエは瞠目する。時間を掛けて意味を飲み込むと、なんと言ったらいいか。口を開閉させるだけで声が出てこない。

 

 今日のことで収支がプラスになるなどとは微塵も考えていなかったが、レイチェルがそう呟いたことで恐怖以外の従う理由が芽生え始めてしまった。

 

「……褒め言葉だけとか言わないっすよね」


「ハッ。それがいいならそうするが?」


 彼の顔はまた氷のごとく冷たくなっていて、乾いた笑いが響いた。それでも、どうしてか期待していいとツクエは思ってしまう。

 “どうなんだ”、と見上げてくる視線をどうしてか受け止めきれず。歯切れの悪い反応しか返せなくて、尻尾が戸惑うように動いた。

 奴隷だってのに高圧的で、だのにクアンタムを恨んでる素振りもない。どんな人生を送ってきたのか今からでも聞きたいぐらいだ。

 

 淡々とした雰囲気で嘘を感じにくいのはあるかもしれない。どっちにしたって、これを信じなければやっていけないのは確かだった。


「……はぁ。じゃ、入りますよ」

 

 飴と鞭でいいように転がされている気がしながらも、脅迫されるばかりじゃなくなった新しい心境を抱えて入り口を潜る。

 

 すると、雑貨店のような場所へ辿り着く。

 壁にぎっしり敷き詰められた商品棚とカウンター。窓がないせいか鬱屈とした印象を与えてくるが、電球が部屋を照らしている為に暗くはない。

 

 鼻腔にはアルコールやら薬品やら、その他諸々が入り混じった臭いが届く。棚へ乱雑に陳列された物と、床へ無造作に転がされているものが発生源らしい。

 機械部品に干された薬草、あとは芳香剤など。中身不明な瓶に入った液体だとか、種別問わず色んな“ゴミ”があるせいで悪臭とも言えない混沌とした有り様。

 

「おーい、ジャンク屋。居るんだろ?」


 レイチェルが顔を僅かに顰めているのを横目に、ツクエは慣れた様子で気にせず奥に呼び掛ける。

 何でも屋ではなく、正式に掲げてる看板の名前の方を。


 カウンターには誰もいないように見えたが、死角となっている下段の方で何やら物音がし出す。

 そのまま待ってみると、ぴょこん、と黒い房毛が顔を出して。

 

「――もう。前連絡もなしにレディのところを訪ねるなんて失礼よ?備品の整理をしてるところだったのに」


 麗らかな、凛とした女性の声がした。カウンターのテーブルに瓶が置かれ、しゃがんでいたクアンタムが姿を現す。


 赤みがかった黄褐色の体毛。目から鼻に掛けて黒い筋模様。そして、猫科特有の鋭い目付き。俗にカラカルと呼ばれる姿をした猫のクアンタム。

 背丈はツクエより少し小さい程度で、種族を問わない一般的な女性の身長とほぼ同じといった様子。

 

 狩りの為に洗練されたスレンダーな体型は、開放的な衣服によって晒されていた。タンクトップに脚のラインが分かるジーンズ。ジャケットは着ているものの、腕に通しているだけで殆ど羽織れていない。

 特徴的な黒い房毛が生えた耳に金色のピアスが通されていて、明かりを反射し薄く輝いている。


「にしては前来たときと比べて片付いてるようには見えねぇけどな」


「やだもう〜、いきなり来て最初に言うのがそれってば噛み殺すわよ? ……あら。一人の足音じゃないって思ってたけど、すごい珍しい子を連れてるわねぇ」


 アポ無しでの来訪にご立腹なのか、ジャンク屋は笑みを浮かべているものの確かな言葉の棘で突き刺した。

 余計な一言だった。ツクエがキュッと口を結ぶと同時に耳がへたっていく。レイチェルからの視線も痛い。

 

 しかし、彼女が後ろに連れている者を見つけると、不機嫌だった様子が一転して興味深そうな目付きへ変わった。

 話を変えるチャンスだ。耳を立たせて、それに乗っかるべくカウンターに近づく。


「あ、ああ。悪い、急用でな。少し話がしたいんだが」

 

「もしかして人間の奴隷? やん、ツクエの坊やったら面白いことしでかしちゃったみたいね。いいわ、商談でしょ?乗ってあげる」


 彼女が浮かべているのはフレンドリーな笑顔。そこに人間を連れて来たことに対する侮蔑は感じなかった。むしろ、喜んでるようにも思える。

 カウンターから“お名前は?”とレイチェルへ尋ねる様子は、優しい母親のようで。種族間の諍いなど気にしていない素振り。


 しかし、ツクエは知っている。これはジャンク屋に値踏みされている証だと。

 握手をしようと手を差し伸べる彼女の目は。肉食獣が獲物を見定めるように細まっていた。


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