第二章 加護の探究 第三十話
「わあ!」
リューシュヴェルドの部屋に入ると、まず広さに驚いた。先ほどの小部屋から秘密基地のような匂いを感じていたが、角部屋の外側には大きな窓が続き、開放的に感じる。そして、天蓋ベッドと中央にソファーとテーブルが置かれ、壁に衣装棚などはあるものの見えるところに物はほとんどなかった。シンプル過ぎてより広く感じるのかもしれないとセーラはそう思いながら、部屋を見回した。
「掃除などはどうしているのですか?」
ここが私室なら、侍女などはどうするのだろうか。
「私がいない時にしてもらっているようだ」
リューシュヴェルドはあまり興味がない様子で、思い出すような顔をしながらそう言った。
「そんなことはいいだろう」
リューシュヴェルドの言葉に、セーラは改めて目的を思い出した。初めてのリューシュヴェルドの部屋に興味を惹かれながらも、一旦好奇心は抑え込む。
リューシュヴェルドは、ソファには行かず、壁沿いに置かれた椅子を二脚自分で持つと、入ったところから右奥の窓際に向かい合うようにして椅子を置いた。奥も右側に続く窓も掃き出し窓ではなく、腰の高さから上が窓になっている。
「念には念を、だ。扉からは少し離れよう」
セーラが窓際へ向かうと、何かに気付いて扉前に戻ったリューシュヴェルドは、扉の鍵を閉めた。
「念には念を、だ」
再びそう言ってセーラと向かい合って座った。少し高めの椅子でセーラはつま先しか床に付かずに少し心許なくなったが、セーラは深く座ってリューシュヴェルドから距離を取った。膝が付きそうなほど近く向き合っていたからだ。
腰窓にかかっている薄いカーテン越しに見える景色は明るかったが、光は差し込まなかった。
どこから話そうか、と少し思案していると、リューシュヴェルドの眉が少し寄る。腰窓の桟に肘を軽く置き、足を組むとセーラを促した。
「どうした? ここなら誰も聞いていないから大丈夫だろう?」
「はい。どこから話そうかと……」
「最初から、だ」
リューシュヴェルドは腹を括ったのか、人差し指でセーラの顔を指しながらきっぱりと言った。
セーラは、頷きながら深く呼吸をした。やはり、それが一番だろう。
知識の館、いや、光に気付いたところからだ。
数日前のことだが、記憶は一切薄れていない。それも知識の一部となっているのだろうか。
セーラはそんなことを思いながらもう一度頷くと、二人しかいないのに声を抑えながらゆっくりと話始めた。身振り手振りを交えながら、事細かくだ。
不可思議な人の理の外の話をするのに、状況を言葉で説明するのは特に難しい。実際に目にしてみても信じられないようなことなのだ。言葉で説明して想像が付くだろうか。
不安を感じながら説明していく間、リューシュヴェルドは目を閉じて聞いていた。桟に置いた右手に頭を委ね、セーラの目には尊大にも、リラックスしているようにも、寝ているようにも映った。
聞いていることが分かるのは、時折無言で相槌を打つからという、それだけであった。
光が木の枝に変わる話を始めると、リューシュヴェルドは薄ら目を開けた。
驚いているのかどうか、表情からは分からず、セーラは目を見つめてそのまま説明し続けた。
途中、何度かゼレットが淹れてくれる果実水が心の底から欲しくなったが我慢する。ここで話を切ってはいけない。
木の枝が光に戻り、胸の真ん中に収まったこと、そこに確かにある違和感を覚えたことを話すと、リューシュヴェルドは体勢を変えず、少し視線を下に下げた。セーラの胸の辺りだ。
見透かすようなその目が向いた場所を隠したくなるような、気恥ずかしい気持ちになり落ち着かない。
少し早口になりながら知識の館との会話もすべて、最後まで説明を終えたセーラはほっと一息を吐いた。少し汗ばんでいる様で、セーラは持っていたハンカチを額に押し当てた。
リューシュヴェルドを見ると、セーラと同様、前髪をすべて上げている形のいい額に汗が光っている。
リューシュヴェルドは大きなため息を一つ吐くと、片手で両のこめかみを揉み始めた。
「……具現が力、か?」
たっぷりの時間を取った後、リューシュヴェルドはそう言った。
「はい」
じろっと眼帯がない方の右目から流すように視線を向けられ、セーラは姿勢を正して返事をする。
「君は、本当に毎度毎度……」
「へっ?」
「知識の館に、小出しにするなと言っておきなさい」
「えっ?! そんなの無理ですよ!」
「答えを言わぬまま何が加護か。加護とはそういうものなのか。そんな話は聞いたことがない」
セーラの回答にも返事をせずに、リューシュヴェルドはぶつくさと文句を言い続けた。
「いい加減、腹が立つな」
セーラは呆気にとられたが、沸々と笑いがこみ上げてきた。
尊大な姿勢で人に緊張感を与えつつ話を聞くくせに、子どもっぽい愚痴を言うような可愛い一面があるなど、それこそ「小出しにするな」と言いたいところだ。
「あははっ! あははははっ!! リュース様が館様に文句を言うなんて!」
セーラは、淑女らしく口を隠すことも忘れ、大きな口を開けて笑った。
「何がおかしい。言いたくもなるだろう」
拗ねたような顔で窓の方を向くリューシュヴェルドに、セーラは涙を浮かべながら笑い転げた。
「ひ~! 確かに! 酷いですよね! 私も熱なんか出ちゃったし!」
「いや、それは風邪だろう?」
「そう! なんですけど! あはははっ!」
「どうした? まだ熱に浮かされているのではあるまいな?」
「すみません」
笑いが一度起こったら止まらない。何とか含み笑いにまで抑えて、セーラは治まるまで笑い続けた。
暫くその様子を呆れた顔で眺めていたリューシュヴェルドが言った。
「もう大丈夫か?」
「ふう。まさかこんなにリュース様が面白く見えるとは」
「面白いとはなんだ!」
「いえ。褒め言葉です」
「褒め……?」
リューシュヴェルドは、どう返していいか分からなかったのか、言葉に詰まった。
「ええ。可愛いのです」
「かわっ……!」
今度は本当の意味で言葉に詰まったようだ。気に障ったのか、眦を上げる。
「それは褒め言葉ではない」
「いいえ。本当に……」
「もう良い」
リューシュヴェルドは手を振ると、セーラの言葉を遮った。
「申し訳ございません」
まったく悪びれずにセーラが言うと、リューシュヴェルドはふんっと鼻を鳴らした。
「それで、その加護の力を具現するという木の枝のことだが、それは今ここで出せるのか?」
「分かりません」
「分からない?」
「はい。あれから熱で寝込んで、その後は誰かがずっと側にいたんですもの。試してみることなどできなかったんです」
「そうか。今、試せるか?」
「やってみます」
セーラの胸に入っている違和感。それは既に違和感ではなくなり、同化しているがそこにあると認識できるような奇妙な感覚で不安ではあったが、セーラは鳩尾を右手で押さえ、そこに意識を集中した。
——精霊様、この加護を木の枝へお戻しください。
セーラは目を閉じて祈った。
身体の中にあるそれが、ぷつっと切り離される感覚がして、セーラは薄らと目を開けた。先ほど手で押さえた胸の辺りから眩い光が漏れる。手を胸から離すと、光はより一層大きくなった。
同時に、身体の中にあった感覚はまったくなくなっていて、セーラは少し体温が下がったような気がしていた。
セーラが恐る恐る手の平を上に向けると、光は手の平についてきた。手の平の上で一瞬大きく光を放ち、あまりの眩しさにセーラは思わず目を閉じた。
手の平に重みが感じられると、閉じた目の外が暗くなったような気がして、セーラは片目を少し開けてみる。そして、光のないことに気付いて何度か瞬きをして焦点を合わせると、先日の夜中同様、木の枝がしっかりと右手に収まっていた。
「……ふう」
疲れた感覚はなかったが、やり終えた達成感か、自然と息が漏れていた。
——できた……! 思ったより簡単だったな。知識の吸収の反対……ね。吸収の時は、手の平からできたんだもの。もしかしたら、手の平から具現化もできるのかも。
セーラは、再度吸収してやり直してみようか思案しかけて、ふと、目の前のリューシュヴェルドの存在を思い出した。
少し口を開けた驚きの表情でセーラの手に収まる木の枝を見つめたまま、声を発さない。
——……あ。完全に忘れてた。
「リュース様、できました」
取り繕うように慌てて言うと、リューシュヴェルドは驚いた表情を貼り付けたまま、視線を木の枝からセーラに戻した。
暫く見つめ合って黙っているが、リューシュヴェルドの目はセーラを見ているようで見ていない。
セーラが首を傾げてリューシュヴェルドの目を覗き込むと、ようやく気付いたのか、リューシュヴェルドは口を閉じて空咳をした。
「君の加護は驚くことばかりだな。まあ、加護持ち自体が希少で、私も実際、人の加護の力を目にするのは君が初めてだからな」
言い訳をしながら、落ち着きを取り戻しているようにセーラには見えた。しかし、やはり片手で両のこめかみを揉んでいるのを見ると、無理やり気を落ち着かせているのが分かる。
驚きも喜びも悲しみも怒りも、振り幅の制限なんてないかのように一瞬で越えてしまうセーラには尊敬しかできなかった。
——自制心? リュース様はすごいな。私も常に冷静で対処できる大人の女性になりたいな。無理かもだけど。
「……それは、領主のワンドだ」
暫くしてリューシュヴェルドがセーラの手の平を指差した。
「杖?」
「そうだ」
「領主様の?」
「同じものかどうかは分からないが、初代領主は杖を持っていた筈だ」
「えっ?!」
セーラは驚いた。今まで得た知識にはそのような記録はない。初代領主について書かれた文献は、何冊か吸収した。
アランディア領の起こりだ。領の歴史にも密接に関係がある上、他国を退け知識の館を建立し、アランディア文字を創造した初代領主はアランディア領民にとって誇りだった。
それゆえ、初代領主について書かれたものは数が多く、セーラもまた、尊敬と憧れと感謝を持って知識を蓄えていた。
しかし、杖のことなどまったく記録にないのだ。
「リュース様。初代領主様が杖を持っていた、なんて知識がないのですがなぜでしょう?」
「それは、ただの杖だったからだ。加護云々は関係がなかったからな。領主一族の間の口伝では伝わっているのと、城にかかる肖像画や銅像の類では、手に持っているはずだ。見たことはあるだろう? 知識の館の庭にもあるはずだ」
「えっ? ないです。……あっ、私、いつも顔を伏せているから見てないんだわ」
マントを深く被り、必要最低限の視界で動くため、景色も何も目に入っていないのだ。セーラは、銅像があるなど今初めて知った。
「ああ、それはそうだな」
「口伝ってどんなお話ですか?」
「いや、アランディア領主に就任してから、杖を好んで用いる様になったらしい。人への指示や何かを指し示す道具だな。隣国との戦で腕を負傷して使い始めた、とは聞いているが、……加護が関わっているとは聞いたことはないな」
セーラは、頷きながら自分の杖を見つめた。
「これ、初代様のと同じものなんですか? 杖って言うより、やっぱり木の枝の方が近いと思いますけど」
やすりで磨かれていて滑らかではあるが、何の細工も施されておらず、指し棒とも呼び難い真っ直ぐな木の枝にしか見えないのだ。
「それは分からん」
リューシュヴェルドは言い切った。
「それが加護の力を、と言ったな。一体どのような力があるのか……」
頭の痛そうな顔をしながらリューシュヴェルドが続けると、セーラはふと思い出した。
最初に知識の館に祈ったことだ。リューシュヴェルドに祈れと助言を貰って祈った後に、木の枝を貰ったのだ。
「もし文献がなかったら、知識の館様に尋ねたり自分で試してみたりしたいですけど、一つだけなら分かります」
「何だ?」
「翻訳です」
「ああ! そうだな」
想定外かつ大量の情報過多により思い付かなかったようだ。リューシュヴェルドは少し声を大きくして相槌を打つと、立ち上がってベッド脇から一枚の書類を持ってきた。
「これは、昨晩見ていた報告書だが、どうだろうか」
「やってみます」
セーラは受けとって、杖先を紙に向けた。そうした方がいいと思ったのだ。
——アランディア文字を公用文字へ翻訳してください。
丁寧に祈る。祈りの力が加護に欠かせないことはもう体現済みだ。
何故かは分からないがセーラには自信があった。
暫くすると、文字が揺れて公用文字に変換された報告書になっている。
杖先はまったく光らず、文字だけが静かに変わっていた。
「できたみたいです」
リューシュヴェルドに報告書を手渡しながら、セーラは達成感とこれからの作業効率を思って心が弾む。
顔にも出ていたのだろうか、リューシュヴェルドは少し片側の口角を上げながら受け取り、内容を確認するにつれ目が大きくなった。
「これは凄いな」
「ね! すごいですよね!」
「ああ。素晴らしい加護だ。知識だけではないのか。それとも知識に纏わるものだからか。いろいろと調べてみたいところだ」
「リュース様の頭脳として、まずは仕事を効率よくさせていただきますわ」
セーラは嬉しくなって、跳ねるような声で慇懃にリューシュヴェルドへ頭を下げながら言った。
「ははっ。それは有難い。セーラの杖には目いっぱい働いてもらおうか」
「はい!」
セーラはにっこりと笑った。役に立てるのはやはり嬉しい。
そして、セーラはきちんと座り直した。
「リュース様?」
「何だ」
「それで、一つお願いがあるのですが」
「何だ?」
「私の杖について、初代様の杖かどうかが分からない限り、他に何ができるかを試してみたいのです。それには、一人になれる時間と場所が必要で……」
全部言う前に、リューシュヴェルドが大きく頷いた。
「分かっている。あの時は躊躇ったが、君が私に言ってくれたことを感謝せねばなるまい。これをどこまで、誰に、言うかは、恐らく私に委ねられたと思っている」
精霊様にな、と付け加えながらリューシュヴェルドが言った。
「その判断は、セーラの杖をより詳しく把握しないとできない。むしろ、調査は頼みたい」
セーラは安堵して、快く引き受けた。
「かしこまりました。リュース様のお仕事の手伝いの時間が、これで先ず大幅に圧縮できそうなので、その時間を充てていいですか?」
「ああ。場所はここを使うと良い」
「いえ。あの……」
セーラは口籠ったが、希望は先に伝えておいた方がいいはずだ。意識が戻った時のソイエッテの泣き顔が不意に頭を過ぎったが、隅に追いやった。
「できれば、ソイエッテの侍女部屋を調査部屋にしたいのです」
「なぜだ? ソイエッテと反りが合わないのか? そうは見えないが」
「ええ!? 違います! 彼女はとても仕事ができて思いやりが深く、私としては近くにいて欲しいのです!」
首を振りながら、慌ててセーラは訂正する。
「そうではないのです。夜に知識の館様が訪れることもありましたので、ソイエッテに気付かれたくないのです。夜も杖の調査ができますし、それに……一人になれる場所が、どうやら私には必要な様です」
ああ、と分かったようにリューシュヴェルドが言った。
「分かった。そのように取り計らおう。確かに、この前も知識の館は夜中に現れたな」
「はい」
「ソイエッテに気付かれては私も困る。暫くの間の話にはなると思うが、これ以降、この私の私室と君の部屋の続き間のみで杖は具現化させなさい。君の仕事もここで行ってもらおう」
そして一つため息を吐いた。
「君の仕事振りをもっと見せつけたかったところではあるが、仕方がないな」
セーラは目を丸くしてリューシュヴェルドを見上げた。
——私を評価して下さってるんだわ。
にやにやしそうな顔を抑えながら、セーラは杖を握りしめた。
「お任せください。頑張ります」
「ああ。それから、ゼレット達にはとりあえず聞かぬように指示しておく。精霊様の指示には逆らわない方が良いだろう。その代わり、君も必ず隠し守るように」
その方が心配だが、と付け加えながら言うリューシュヴェルドの指示を、セーラは姿勢を伸ばして犇と受け取った。
「ちゃんと言うこと聞きます」
「……子どもか」
「なっ!」
剥れながらセーラが言葉に詰まると、リューシュヴェルドはそれを無視して左手を前に差し出した。
「光に戻す前に、セーラの杖を少し見せてもらえないだろうか」
「これですか?」
言いながらセーラは素直に杖をリューシュヴェルドへ差し出す。
色々な角度から暫く見入った後、リューシュヴェルドは杖を左手で掴んでさらに近くで見入った。
「木の、枝、だな」
「だから言ったでしょ? 杖なんて素敵な言葉は不釣り合いですよ」
「いや、でもセーラの杖でいいだろう? 領主の杖と同じものかは分からないんだからな」
セーラは肩を竦めた。
「ま、何でもいいですけど」
すると、突然リューシュヴェルドが座ったまま前のめりに倒れ込みそうになった。
途中で堪えたのかセーラに体重を預けることはなかったが、膝に置いた右手を支えにして何とか堪えている様だ。
「リュース様?!」
セーラは驚いて、リューシュヴェルドの両肩を支えた。
リューシュヴェルドの額には汗が浮き上がり、左手で杖を持ったまま眼帯をしている左目を強く抑えている。
「目が痛いのですか?」
暫く荒い息をしていたが、リューシュヴェルドは椅子に深く座り直して杖をセーラに返した。
急いでセーラは杖を身体に吸収し、立ち上がってリューシュヴェルドに近寄る。
「お見せくださいませ」
眼帯を抑えたままのリューシュヴェルドの手に触れたが、リューシュヴェルドは首を横に振った。
「いや、大丈夫だ。痛みはない。視野が……」
「視野?」
——見えないのに?
「いや。何でもない。君は気にするな。もう大丈夫だ」
呼吸が落ち着きつつあるのを見て、セーラは部屋を見回し水差しを見つけると、リューシュヴェルドに水が入った杯を渡した。
すまない、と言いながらリューシュヴェルドは飲み干し、陰りつつある外の景色を暫く眺めて黙っている。
——杖がリュース様に何か変な作用をしたのかな? だって、こんなリュース様見たことないもん。
心配だが、セーラは外を見るリューシュヴェルドの横顔を見つめるだけで何も言えなかった。
一つ大きく深呼吸した後、リューシュヴェルドはセーラを見た。
顔色が戻っている。
「大丈夫だ。心配そうな顔をするな」
「心配そう、じゃなくて心配なんです! 突然だったし、杖の影響でしょうか?」
「大丈夫だ」
「本当に?」
「……しつこい」
「だって……」
「命令だ。これ以上聞くな」
「うう……」
それを言われると、セーラはもう何も言えないのである。一瞬の出来事だったが、思った以上にセーラは消耗した。もしかしたら本人よりもずっと。
不本意ではあったが、執務室へと案内されるとセーラは駄々をこねることはできずに粛々と従った。
ゼレットとボルタークには後で呼ぶとリューシュヴェルドは指示を出し、先にセーラが退出することになった。
執務室を退出する間際、忘れていたように軽い調子でリューシュヴェルドが言った。
「あっ、そう言えば、秋には君の親が面会に来る。引き続き励みなさい」
「えっ? ……。ええ~~~?!」
セーラは目を白黒させた。
——何で? 父さん、母さん! 何で?
——何で今? ……聞きたいこといっぱいなのに、何で今よ!
こちらを見ずにひらひらと手を振るリューシュヴェルドを睨みながら、無情に閉まる扉を見つめてセーラは地団太を踏むしかできなかった。




