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終わらない物語 - Beyond -  作者: irie
第一部 初めてとの出会い
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第一章 初めての旅 第十三話

「母さん、卵と燻製豚ベーコンが焼けたよ」

「じゃあ、スープ入れるから父さん起こしてきて」

「はーい」

 炊事場がバタバタするのはいつもの朝の光景だ。

 南の村に一つしかない教会から二刻の鐘が鳴り響くと、皆が起き出す。

 今は春の終月。もうすぐ夏がやってくる今の時期は太陽が顔を出すのも早く、生活がしやすい季節だ。

「神と精霊と大地、すべての恵みに感謝を」

 食卓に揃って食事を取るのは常だ。もちろん、ソジュが警備部の夜勤の時などはこれに限ったことではないが、警備部隊長であり狩猟部隊長でもあるソジュは夜勤をする頻度はそれほど多くない。

 いつも通りの麺麭パンとスープ——今日は麺麭に焼き立ての卵と燻製豚ベーコンが乗っている——を食べながら、今日の予定を確認し合うのも習慣の一つだ。

「今日、セーラが畑を見に行っている朝の間に、母さんは家を片付けるから、それが終わったら布を買いに行くからね。それから針仕事よ」

「母さんは晴れ着の調整、私は普段着とケープだね」

「ええ」

「父さんは今日は早いの?」

「いや、今日は警備部の会議があるから、夕飯は『暁亭あかつきてい』で食べるよ」

 暁亭は村に一軒しかない酒場で、村の男たちの憩いの場になっている。

 狩猟部と違って、警備部は他の部も兼務しているため、調整や情報共有が必要なことが多く、月に数度会議と称した酒宴があるのだ。様々な『部』という形で職業が分かれているけれど、人口が少ない村のため、片手で足りるような人員しかいない部も数多い。狩猟部はその中でも人数は多く、見習い含めて二十数名だ。

 家族で予定を話し合っていると、玄関の鈴の音がカラーンと響いた。誰かがやってきたのだ。玄関の鈴は防犯の側面も持ち合わせており、各家庭に必ず備え付けられているものだ。時刻の音と間違えては困るため、協会の鐘とは音色は全く異なっており、控えめで涼やかな音だ。

「朝早くから誰だろう。出るね!」

 玄関扉を開けてすぐに食卓と炊事場の空間があるため数歩で行ける範囲ではあるが、セーラはスプーンを置くと玄関まで急いで向かった。

「おはよう!」

「あら、キシュトにコーレン。おはよう。どうしたの?」

「おう、これ回覧札」

 キシュトと呼ばれた少年が、簡単に磨かれた大きめの板に書かれた回覧版をセーラに渡した。

 キシュトは隣に住んでいる一家の長男だ。隣とは言っても、家畜小屋や畑などもあり歩くと結構離れている。

 背の高いセーラとはあまり目線が変わらない。前髪を上げた短い髪が良く似合っていて、右手には木製の弓と背には矢筒を背負っていた。

 今から狩猟部の見習い仕事なのだろう。

「あら、キシュト、ありがとう」

 後ろからケレーラが回覧板を預かりに出てきた。預かった回覧を読みながら、食卓へとすぐに戻る。

「コーレンと一緒だったの?」

「いや、こいつは、お前が寝込んでたって聞いたから、薬作ったって。そこで会ったんだ」

「え?! ありがとう!」

 キシュトとセーラより頭一つ背が高いコーレンをセーラは見上げた。

 コーレンは年齢より少し大人びた微笑みを見せながら、セーラに薬瓶入りの袋を渡す。

「よく分かんなかったから、普通の滋養剤だけど」

 コーレンは、役場で働く父親と二人暮らしの少年だ。父親は村役場で働いているが、彼は幼い頃に母親を亡くし、妹も病で亡くした経験から医療部の見習いとして働いている。

 人より大人びているのはそういう辛い経験が現れているのかも知れない、と常々セーラは思っていた。

 キシュトとコーレン、セーラ、そしてここにいないカナエが、この村で今年十五の儀を行う同い年で、昔からの幼馴染でもあった。

「それより、知識の館でぶっ飛んだって、大丈夫なのか?」

 少し意地悪く目を光らせたキシュトが、にしし、と八重歯を見せて笑いながら言った。

 セーラは深いため息を吐く。

「それ、カナエも言ってたけど、どこまで噂が回ってるのよ」

「あのな、こんな小さな村なんだから全員知ってるに決まってるだろ」

「……だよね」

 セーラは少し遠い目をしたが、「もう大丈夫だ」と二人に告げた。

「でも、カナエに手紙書こうと思ったら、訓練が出来てなくてまだ書けないの。書けるようになったら二人にも手紙を書くよ。待っててね」

「え? 口で言ったらいいじゃん面倒くさい。俺はいらね。俺も書かねーし」

 キシュトがパタパタと手を振って拒絶した。

「なんでよー。いいじゃん、手紙は憧れなんだもん。ちゃんと書きたいし書いて欲しい~!」

 セーラが頬を膨らませて抗議しても、キシュトには通用しない。日常茶飯事のことだからだ。

 それを見ていた頭の良いコーレンが、少し笑うと優しくセーラを見た。

「俺には書いてよ。ちゃんと添削して返事してあげる」

「え? それ嬉しくない! 何か怖い!」

「お前そんな面倒くせえことよく出来るな。秀才の鏡だな」

 口の悪いキシュトと、見た目とは違って大雑把で声の大きなカナエ、思ったことが顔にも口にも出るセーラ、そして一人大人ではあるが決して皆を甘やかさないコーレン。四人は全く違う性質を持っているにもかかわらず、馬が合った。

 そしてセーラの違いには一切気にしない——気も使わない——、セーラにとってはとても大事な友達である。

 仲良しの友達に会うと、時間を忘れるのはカナエの時も一緒だ。

「キシュト、そろそろ行くぞ」

 ソジュが用意を終えて出てきた。同じ狩猟部への出勤だ。

 キシュトは「はい!」と元気な声を上げると、ソジュの歩く速さに合わせて小走りになりながら付いていった。

 ちゃんと見習いの顔になるのがすごいな、と素直にセーラは思う。

「セーラ、俺もそろそろ行くね。今日は薬草摘みに行くから早めに集合なんだ」

「コーレン、本当にありがとうね。もう大丈夫だけど今日はこれを飲んで寝るよ」

「うん」

 コーレンはセーラの頭を一つポンと撫でると、出て行った。


 三刻の鐘から畑で仕事をし、昼食を家で食べると、ケレーラとセーラは村の中心にある生地屋へ向かった。生地屋と言っても、雑貨や生活用品など他の物も取り扱っているいわゆる商店だ。

 生地屋になる時もあるし、金物屋になる時もある。それぞれ買いに行く物によって呼び名が変わるのが、南の村の習性になっていた。

 今日は生地屋だ。

 奥から出てきた布をケレーラと話をしながら決める。やはり、髪色に合わせるとなると色が限られるが、今の生成きなりよりはなんでも合うような気もする。

 店にある中で比較的濃い、明るい茶色の生地と紺の生地を購入した。後、ケープを作るための黒い布だ。

「何だか、若い女の子が着る色じゃないような気もしないでもないけど、もうちょっと明るい色はないかしら」

 ケレーラが重ねられた生地を捲って探していくが、良い生地は高いのだ。そして、この村には良い生地より丈夫な生地の方が需要が高く良い生地はそこまで多くない。

 そして、買い付けに行くのも荷送部の()()だ。行商が来ることはほとんどないために村にある物で何とかするしかないのが現状なのだ。

 比較的若い女性に好まれているベージュや桃色、水色や薄紫色などの布を、セーラの肌に合わせて映りを確かめていたケレーラは、ため息をついて明るい茶色と紺色を指さした。

「これも悪くはないけど……、やっぱりあなたにはこっちの方が良いわね」

「普段着だから別にいいよ。それにこれも綺麗な色だし」

 服は着られればいい。なるべく早く買って仕立てと縫製に入らないと、文字の訓練ができないのだ。

 セーラからすると、そちらの方がよっぽど重要なのである。

「分かったわ」

 ケレーラはもう少し悩みたいような素振りを見せていたが、セーラはさっさと決めて母親の背を押しながら生地屋を後にした。

 ——さあ、早いところ作ってしまって、訓練の時間を作らなきゃ。十五の儀の前には手紙を書きたい!

 熱を込めて歩くセーラは、カナエの手紙が入ったポケットを上から抑えた。

 昨日も就寝まで採寸していて、まだ読めていない。時間を取ってゆっくり読みたいとセーラは考えていた。

 服作りには興味はないが、ある意味、とてもやる気になっていた。

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