9 魔法 3
「は?」
驚きのあまり、失礼すぎる言葉を発してしまった。
( 精霊って‥‥‥そんなの、おとぎ話に決まってるじゃない! 学園長までそんなモノ信じてるの!? )
ガァ~ンとショックを受けていると、ラルカが目をキラキラさせながら言った。
「学園長! それって、レイルは精霊の愛し子ってことですか!?」
「愛し子?」
聞いたこともない言葉に首をかしげる。
「精霊は人に姿を現さないし、人とおしゃべりしないのが通常なんだけど、唯一の例外がいるの! それが、 " 精霊の愛し子 " !!」
興奮したように迫ってくるラルカに若干引き気味になりながらも、レイルは少々引きつりぎみの笑みを浮かべる。
「そ、そうなんだ‥‥‥」
レイルの返答に物足りなさそうな顔をし、ラルカはかた眉を上げてみせた。
しかも、ジットリとした眼差しというオマケつき。
その瞬間、ゾォォ~ッとレイルの背に寒気が走った。
本能がビシバシとラルカに逆らってはいけないと警告してくるので、レイルは大人しくそれに従い、全力でラルカに同意することにした。
「す、すごいね!! 精霊の愛し子って!!」
満足そうにうなずき、ラルカは学園長を振りむく。
「で、どうなんですか、学園長!?」
目をギラッギラに光らせるラルカに、学園長も思わず引き気味である。
「う、うむ‥‥‥‥。まあ、決まりというわけではないが、99.98 %の確率でそうかもしれんな‥‥‥」
「k;]:po#%&'~~~~~~~!!!」
歓喜のあまり尋常ではない言葉を発するラルカ。
「ぁ、じ、じゃあ私、もうイキマスネ‥‥‥」
友達の予想外すぎる一面を見てしまい、レイルは完全にバグっていた。
すすすすすっと出口に移動し、素早く部屋から出る―――つもりが、方向感覚までもバグってしまっていたレイルは、思いっきり壁に顔をぶつけてしまう。
「ぎゃんっ!」
乙女とは思えない声である。
そしてここでクラスメイトたちがドアから顔をのぞかせた。
実は、学園長の話があまりにも機密情報っぽいモノだったので、気を利かせて外に出ていてくれたのである。
そして、クラスメイトたちは部屋の中を見て―――一斉に顔をひきつらせた。
そう、部屋の中の様子を一言で言うと、カオスだった。
ラルカは何故か超興奮状態だし、学園長は今もなおその超興奮状態であるラルカに根掘り葉掘り質問されて顔色が悪くなっているし、リミルは全てをあきらめた顔で天井を眺めているし、ランとライルは完全に忘れ去られ、地蔵のように部屋の隅で固まっていた。
その状態だけでもカオスなのに、さらにはレイルが壁に顔面を思いっきりぶつけ、令嬢とは思えない声を上げている始末。
これをカオスと呼ばずになんと呼ぶのであろうか?
クラスメイトたちは、無言でドアを閉めたのだった。
△▼△
「つ、疲れた‥‥‥」
なんやかんやでやっと自分の寮に戻ることができたレイル。
いつもだったら気にするのだが、今日は疲れすぎてそんなことは気にしていられず、服を着替えないでそのままベッドに寝転ぶ。
あの後、学園長が国のエライ人に報告するとのことで、この話は収まった。
だが‥‥‥。
レイルは天井に向かって手をかざす。
本当に自分は、精霊の愛し子なのだろうか?
「でも、本当に精霊の愛し子なら、これまで一回も見たことがないなんておかしいよね。だって私、あの光を見たのは、この前ちらっと見かけたのと今回だけ――――‥‥‥‥」
‥‥‥見たことがない?
本当に、そうだっただろうか。
眠っていた記憶が、目を覚ます。
そうだ、私は小さい頃に――――
――——―————
「レイル! はやくあそぼ!」
「あそぼあそぼ!」
きゃらきゃらと笑う、愛くるしい精霊たち。
レイルは満面の笑みを浮かべ、自分に向かって差し伸べられる手を取った。
「うんっ! みんなで、遊ぼう!」
レイルは後ろを振り返り、木の陰に隠れてこちらを見つめる少女に「ねっ、君も!」と声をかける。
声をかけられた少女は、驚いたように固まった。
「わ、私も遊んでいいの‥‥‥?」
おびえたように言う彼女に、レイルはキョトンとして言った。
「もちろんだよ! 一緒に遊ぼ!」
「‥‥‥っ!」
ぼろぼろと涙をこぼし、それを必死に拭う少女。
「え、え? どうして泣いてるの?」
おろおろとしていると、少女は小さく笑みを浮かべた。
それは、まるで花が咲いた瞬間のように、美しく綺麗な笑みだった。
「ねえ、あなたの名前は?」
「私? 私は、レイルだよ! 君は?」
「私は‥‥‥リン!」
「わあ、可愛い名前! リン、ほら、遊ぼう!」
にこっと笑ってレイルが差し出した手に、リンは嬉しそうに手を重ねた。
―――——————
あぁ、懐かしいな、リン。
あの頃の私は、知らない人に声をかけることに抵抗がなかったんだよなぁ‥‥‥。
自然に笑みが浮かんでくる。
けれど、その笑みは。
次の瞬間、思い出してしまった記憶によって、ボロボロと崩れ落ちた。
――———————
燃え上がる炎。悲鳴と、怒声。
独りぼっちのまま、7歳のレイルは炎の中にポツンと取り残されていた。
父と母はもうとっくに避難していることだろう。
私は独りぼっちのまま、死んでいくんだなぁ‥‥‥。
迫ってくる炎の波を見ながら、そう思ったとき。
シャラランっと鈴のような音がした。
音の方向へ目を向けると‥‥‥。
「リン!?」
そう、そこには、今では親友と呼べるほど仲良くなった、リンの姿があった。
「レイル! 助けに来たよ!」
嬉しさがこみあげてきたが、リンだってまだ子供。
この絶望的な状況をなんとかできるわけがなかった。
このままじゃ、リンまで巻き添えになってしまう。
あぁ、リンが来なければよかった、そしたらリンだけでも助かるのにと唇を噛み締めるレイルをしり目に、リンは炎に向かって手をかざす。
「何やってるの、危ないよ!」
レイルが焦った声を上げるも、リンは集中して気が付かない。
「我がしもべ達よ‥‥‥炎を沈め、浄化せよ!」
難しい言葉を唱えたリンの手から、水がぶわっとあふれ出す。
そしてその水はあっという間に炎を包み込んでゆき、炎は瞬く間に消滅した。
「え、リ、リン‥‥‥?」
炎が消え去った喜びよりも驚きが勝ち、瞳を揺らしながらリンを見つめるレイル。
「ごめんね‥‥‥レイル」
悲しそうな瞳でレイルをじっと見つめ―――リンの姿は、その場から掻き消えた。




