3 待ちに待った学園生活 2
(え、面接のときに魔法なんて使ったっけ‥‥‥)
不思議に思っていると、まるでレイルの心を読んだかのように、ドイルはさらりと言った。
「あ、面接で一番最初にやったアンケートの " 魔法を使ったことはありますか? " の質問に " Yes " と答えた奴だけしか面接時に魔法は使ってないからな、自分は面接で魔法を使ってないからと言って心配しなくていいぞ」
レイルは納得しながら、ふと思った。
(私は、どこが優秀だったのだろう? そこまで頭がいいわけじゃないと思うんだけど‥‥‥)
後でドイルに質問しようと心に決めたところで、チャイムが鳴った。
「お、そろそろ入学式の時間だな。みんな、順番は何でもいいから、適当に並んでくれ」
「「「はーい」」」
そうして、適当に並んだのだが‥‥‥‥。
恐ろしいほどに男子と女子でキッチリ分かれていた。
年頃だからなのだろうか?
「じゃ、俺についてこい」
ドイルの後ろにぞろぞろと着いていくと、大きなホール(この世界での体育館のようなモノ)に出た。
並べられていた椅子に各自座っていくと、元気そうな女子生徒と隣になった。
「お、よろしくな! うち、ラルカ! あんたは?」
「私はレイル。レイル・ラミレスよ」
レイルの返事を聞き、元気そうな女子生徒―――ラルカは、驚いたように目を丸くした。
「レイルって‥‥‥あの、入学テスト満点で、学年一位だった!?」
「へっ?」
初耳だ。まさか自分が学年一位だったとは。
合格報告をされた後、テストの結果が返ってきたのは知っていたが‥‥‥。
別に興味もなかったし、その時レイルは合格判定に浮かれていたので、すっかりそのことを忘れていた。
だが、どうしてラルカはそんなことを知っているのだろうか?
「その様子だと、知らなかったのか? 校門のとこに大きく、一位から三位の点数と名前が載ってたのに」
「えっ、そうだったんですか!?」
全く知らなかった。
というか、校門に何かの紙が貼ってあるのは知っていたのだが、興味がなかったのでスルーしていた。
「あんた、面白いな! ってか、うちに敬語なんて使わなくていいから! そもそも、ホントは敬語使わなきゃなのはうちのほうだし?」
レイルはラルカの冗談にクスクスと笑いながら、手を差し出した。
「‥‥‥‥?」
ラルカがわかっていなさそうだったので、自分からラルカの手を取る。
「ほら、握手」
一瞬固まってから、ラルカは嬉しそうにレイルの手を握ったまま腕をぶんぶんと振った。
「わわわっ」
(う、腕がもげるぅ‥‥‥そういえば、自己紹介の時に運動が得意って言ってたっけ。だから力も強いのかな?)
そんなことを考えながら少しぼーっとしていると、突然腕の動きが止まったので、ハッとして目を瞬く。
「じゃっ、これからよろしくな! レイル!」
嬉しそうにレイルが頷くと、ラルカはいきなりバッと抱き着いてきた。
「わあぁ、ラルカ、どうしたのっ?」
ぎゅうぎゅう締め付けてくるラルカに、「ぐぇ」と声を出しそうになったが、ぎりぎりのところでこらえる。
「‥‥‥‥‥うち、平民だから‥‥。昔、貴族の子に話しかけた時、 " 平民が私に話しかけるなんて! 汚らわしいわ " って言われて‥‥‥だから、レイルが普通に接してくれたのが嬉しくてっ‥‥‥!」
「そんなこと言う人がいるの!? 全く酷い話ね!」
ぷんぷんしているレイルを見て、感動したように目を潤ませたラルカは、さらにレイルを締め付け始めた。
「ぐぇっ、ラ、ラルカ、ほどほどにしてぇぇ‥‥‥‥」
「わーレイルごめんっ! うち、力の加減がよくわかってなくてっ」
そう言って慌てて離してくれたラルカの、しどろもどろした姿にレイルはつい笑ってしまった。
「あははははっ」
「ちょ、レイルったら! 笑わないでよーっ!」
と言いつつ、ラルカもレイルにつられたように笑い始めた。
二人で楽しく笑っていると、急にホールの雰囲気が張り詰めたため、笑いを止める。
(どうしたんだろう‥‥‥?)
みんなが見つめているほうを見ると、老人が一人、こちらに歩いてきているところだった。
どこかで見たことがあるような気がして、その人物を観察しているうちに気付いた。
(この学園の理事長だ!)
理事長はホールの手前らへんで足を止め、近くの教師からマイクを受け取った。
「えー、新入生の皆さん。私は、この学園の理事長の " アース・カルラス " だ。学園生活、是非楽しんでほしい。では」
短い挨拶を終え、さっそうと去っていった理事長。
続きを引き取るように一人の教師が話始める。
「はい、新入生の皆さん、こんにちは。これから色々と苦労する事もあると思いますが、そんな時は周りを頼るようにしてください。せっかくの学園生活なので、楽しみましょう。では、これで入学式を終わります」
これだけ? とついレイルが思ってしまうほど、入学式らしきものは一瞬で終わった。
そして、行きと同じようにして教室に戻った後は、簡単な学園についての説明だけで今日は終わった。
初日からいきなり授業はしないらしい。
寮に帰ろうとしていると、何かが背中に思い切り当たってきて、混乱しながら振り向く。
するとそこには、「へへっ」とまるでいたずらっ子のように舌を出して笑っているラルカがいた。
「うちも寮なんだ! 一緒に行こっ」
「ラルカも寮なんだ。でも、よく私が寮だってわかったね?」
テストの順位の結果と違って、誰だれが寮とかは公表されていないはず。
それなのに、ラルカはなぜレイルが寮の生徒だと分かったのだろうか?
ラルカは肩をすくめ、教室の方を指さした。
「寮の人はこっち側から行くけど、寮じゃない人たちはあっち側から帰るの。つまり、寮に向かう道と外に向かう道は逆方向なんだよ」
なるほど、と思いながら教室を見ていると、ラルカのもの言いたげな視線を感じ、目線だけラルカに向ける。
「何よ?」
「いや、レイルって学年一位だし、頭いいわけでしょ? でも、普段のレイルってなんか抜けてるんだな、と思って」
「私、別に抜けてたりしないと思うけど?」
きょとんとして言い返すと、ラルカはやれやれと首を振って見せた。
「そういうとこが抜けてるんだよ。ってか、そろそろ寮行こうよ!」
ラルカはぐいぐいとレイルの背を寮の方角へ押し始めた。
「ちょっ、ラルカ! 危ないでしょ~!」
誰もいなくなった静かな廊下に、ラルカとレイルの笑い声が響いたのだった。