11 激おこレイル
ティーカップをそっと持ち、紅茶を口に流しいれる。
「私、これ好きかも! 香りがすごく好み」
ウキウキとした様子でレイルが言うと、真向いの席を陣取ったリンがお上品に笑う。
「うふっ、それはよかったわ。レイルと会った時のために、自己流でがんばって作ったのよ」
「えぇ!? この茶葉、リンが作ったの?」
飲んだことのない味だとは思っていたが、まさかリンが作ったものだとは。
驚きを隠しきれない様子のレイルに、リンは手をふりながら言った。
「違うのよ。私、水の精霊でしょ? だから、作物が美味しくなる水を編み出して、その水でチャノキ(※紅茶の原料となる植物)を育てただけなの。そんなに大したことはしてないのよ」
その瞬間、頭に10トンの重りを落とされたような衝撃が走った。
――—リンがこんなに私のために色々やってくれていたのに、私ときたら、リンのことすらすっかり忘れて‥‥‥!
(友達失格じゃない‥‥‥)
ガンッとテーブルに頭を打ち付ける。
「ああああああああ、友達失格友達失格友達失格‥‥‥‥」
「レ、レイル!? だめ、怪我しちゃうわ!」
慌ててリンが止めに入ると、レイルは涙目でリンを見上げた。
「ごめんねぇぇぇぇ。リンは私のことずっと覚えてくれてたのに、私はリンのこと忘れちゃってたよぉぉぉ」
キョトンと目を丸くするリン。
「あら、レイルったら私のこと忘れてたの? ほんと、昔っから忘れん坊さんなんだから」
ぐずぐずと鼻を鳴らし、レイルはみっともなくリンにすがりつく。
「私リンの友達失格だよぉぉぉぉ」
「そんなことないわ!」
間髪入れず言い返され、レイルは驚いて顔を上げた。
「レイルが私のことを忘れたっていいのよ。私が思い出させてあげるから!」
「リン‥‥‥‥!! ありが」
その時、バーン! とせっかくのいい雰囲気をぶち壊す音が響いた。
「ラルカ、ただいま参上!」
決まった、というように胸を張るラルカの頭に突っ込みチョップが入る。
「絶対今のタイミングじゃなかっただろ!」
呆れたように言うライルの隣で、うんうんとランが頷いている。
「え? ごめん、なんか邪魔しちゃった?」
頭をかきかき、ラルカは申し訳なさそうに謝った。
「‥‥‥‥‥‥別にだいじょーぶよ」
本当は全く大丈夫ではないのだが、いい雰囲気をぶち壊したラルカを怒鳴りつけたいのだが、一旦レイルは怒りを押し込めた。
((怒ってる――!! めっちゃ怒ってる~~~!!))
ぎりぎり隠しきれていない、レイルの怒りの炎を垣間見てしまった男子二人。
「あ、ぼ、僕、トイレ行ってこようかな!」
とりあえず逃げることにしたランは、そういってぴゅんっと部屋からいなくなってしまった。
慌ててライルも、「わ、忘れてたけど俺予定があって‥‥‥!」と苦し紛れの言い訳でそれに続く。
一人逃げ遅れたラルカは、キョトンとして二人が逃げて行った後を見ている。
「二人とも、どうしたんだろ?」
「ラ・ル・カ?」
ラルカの方をガッチリつかみ、天女のような笑みを浮かべるレイル。
「‥‥‥‥あ」
ここにきてようやく、ラルカはレイルの怒りの炎を感じ取った。
しかし、時すでに遅し、である。
その日、レイルの部屋から出たラルカの様子はぐったりとしており、こってりと絞られたことがまるわかりであった‥‥‥。
‥‥‥余談だが、ラルカはレイルの部屋に入る時、うっかりドアを強い力で開けてしまったようで、後で部屋のドアにヒビが入っているのを確認したレイルは再び激おこ状態に突入し、それから一週間、ラルカとまともに口を利かなかったという‥‥‥‥‥。
※ ※ ※
「‥‥‥様。水の上位精霊、リン殿から連絡がありました。精霊の愛し子はまだ見つかっていないということでした」
従者の報告を聞き、玉座に座った老人は長めのヒゲをゆったり撫でる。
「なるほどのぅ。この儂に嘘をつくとは‥‥‥死にたいようじゃな」
老人の青い瞳が、冷たく光った。
ぶるっ。
突然体を震わせたリンを見て、レイルは慌てたように問いかける。
「もしかして寒い?」
「いいえ、寒くはないわ。なんか、いきなり背筋がぞわっとしたのよね‥‥‥」
そっか、と眉を下げて心配そうにリンを窺うレイル。
「もし悩み事とか不安なこととかあったら、私に相談してね‥‥‥?」
「‥‥‥‥‥‥」
返事が返ってこず、不安が強まるレイル。
「リン‥‥‥?」
ぼんやりと考え事をしていたリンは、ハッと現実に引き戻され、慌てて首を縦に振った。
「も、もちろんよ! その代わり、レイルも私に相談してね」
「うん、もちろん!」
レイルはリンの様子にほっとした様子。
そんなレイルを見ながら、リンは不吉な予感を振り払うように、彼女に微笑みかけたのだった。
※ ※ ※
「ラミレスくん。王様が、君に会いたいそうだ」
「はっ???」
ラルカたちと魔法の授業を受けていたら、いきなり学園長に呼び出されたレイル。
何か怒られるようなことをしたかな、と不安になり、あらゆる呼び出しの理由を考えていたレイルだったが、この言葉は全くの予想外だった。
「ど、どどどどどういうことですか!?」
慌てふためくレイルを見て、すまんのぅ、と学園長は申し訳なさそうな顔をする。
「なんか、君のことを上の者に報告したら、その方がさらに上の人に報告したようでな、それが繰り返され王様の耳にまで入ってしまったそうなのだ」
思わず「は??」と言ってしまうレイルだったが、それは当然なことだった。
なぜなら、ただの平民が王様に呼び出される事態など、空からミカンが降ってくるほど在りえないことだからである。
「冗談じゃないですよ! そもそも、精霊なんて、そんなモノいな‥‥‥」
言いかけたレイルの頭に、優しい笑顔のリンの顔が浮かぶ。
「うっ‥‥‥。いや、私が精霊の愛し子なんて、そんなのまだ決まったわけじゃな‥‥‥」
レイルの耳に " 精霊王様に口止めされてるの " というリンの声が響く。
精霊王にまで存在が知られているなんて、ほとんど " 精霊の愛し子 " 、確定じゃないだろうか‥‥‥。
「うぐぇぇぇ‥‥‥」
‥‥‥レイル、自滅である。
何かを言いかけてはライフが減っていくレイルを見て、学園長は不思議そうに首を傾げたのだった。
文章をちょびっとだけ変えました (^^)/
物語の内容は変わってないです(/・ω・)/




