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第50話『勇者アルトリウス』

 石畳の床を蹴り上げ、白い閃光が駆け抜ける。

 身体強化の魔術で自らの能力を底上げしたセナの速度に追いつける者はあまりいない。それこそ、学院でも彼女を捕捉できるのはテレジアかアルミリアくらいなものだ。

 だがしかし、相手は最古の英雄にして、未だ死ぬことのできぬ亡霊の勇者、アルトリウス。一瞬で背後を取ったセナが振り下ろした剣を、アルトリウスはその左手に持つ黄金の剣で弾き返した。


「くっ……」


 正気は失っていても、魂がなくとも肉体は身にかかる危機を振り払う。アルトリウスが数多の戦いの中で身に着けていた危機察知と自動迎撃に速攻を潰されたセナは一度態勢を整えるべく後退した。

 壁に黄金の剣が突き刺さる。見れば、アルトリウスがユスティアを手放していた。

 彼はユスティアを握っていた自らの右手をまじまじと見て、拳を握り、開く。指の動きがぎこちなかった。そういえば、アルトリウスは魔王との戦いで右手を失い、義手を装着している。生前の癖で右手で剣を振るった結果、柄が擦り抜けてしまった、そんなところだろう。


「GUAA……GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」


 漆黒の亡霊騎士が、思わず耳を塞ぐほど大きな雄叫びを上げた。

 魂が死んでいても、彼の肉体に刻まれた意志が生き続けている。永劫続くはずだった眠りを妨げられた怒りと、未だに英雄を必要とし、平和にならない世界への嘆きが、低く唸り、響くような彼の叫びから聞こえてくる。


「来るぞ……!!」


 アルミリアが声を張り上げた瞬間、アルトリウスが壁に突き刺さったユスティア・トゥリア目掛けて跳躍する。左手で柄を握り、鞘から振り抜くように引き抜かれた黄金の剣は、漆黒の鎧と対になるほど眩い光の刃を纏っていた。

 勇者の亡霊は、壁に張り付いたままぼくたちを順番に一瞥した。その瞳がセナを見て、ぼくを見て、アルミリアを見る。瑠璃色の瞳同士が合わさったその時、アルトリウスはただ一人に標的を定めて壁を蹴って突撃する。


「共に往こう【光来の星槍(オルティス・ノア)】ッ!!」


 アルミリアが星槍を顕現させると同時に甲高い剣撃の音が鳴った。

 彼女はアルトリウスの一撃を星槍の穂先で受け、刃を光の杭で空中に固定した。

 どれだけ力を込めても動くことのない剣に一度視線を向け、アルトリウスはすぐにユスティアを手放し左の拳をアルミリアに振り下ろす。

 アルミリアはそれを紙一重で躱し、アルトリウスの拳が床を砕いた。直撃すればただじゃ済まない攻撃だ。少なくとも、セナ以外に彼の攻撃を受けるという選択肢はない。

 アルミリアが回避した瞬間、ユスティアを空中に固定していた光の杭が消失する。アルトリウスは左の拳で床を砕いた後、ユスティアを逆手で拾い上げてアルミリアへ追撃。アルミリアはその攻撃に、避けることなく相対する。


「はぁぁぁぁああああああああああああああああああっ!!」


 背後から迫ったセナが、ユスティアを頭上から振り下ろす。

 アルトリウスは咄嗟に身を捻ってセナの一撃を左手の剣で防いだ。

 青色の眼光がセナを睨む。短い鍔迫り合いの後、アルトリウスはセナの腹に蹴りを入れ壁に吹き飛ばす。


「ぐっ……騎士みたいな鎧着て、野蛮です……ねっ!!」


 続くアルトリウスの追撃をユスティアで防ぎまた鍔迫り合いに。

 力では圧倒的にアルトリウスの方が優れている。拳で容易に床を砕く彼の膂力から繰り出される斬撃は一撃一撃が必殺、セナの持つ剣がユスティアでなければ、軽く打ち合っただけで砕けている。

 これがセナとアルトリウスの一対一なら、そのうち防御に徹したセナがジリ貧になって負けていたことだろう。でもこれは、ぼくたち三人の戦いだ。


「縫い留めろオルティス!!」


 光の杭が、アルトリウスの両足の動きを封じる。これで蹴りは打てないし、身体の向きも変えられない。


「今だ、イヴっ!!」


 アルミリアの指示を受けて、アルトリウスに左の掌を向ける。

 込められるだけの最大の魔力を込めて……ぼくの最大火力を叩き込む。


星杖せいじょうの章・第三節【炎姫と氷王の邂逅(グラスイグナ)】―――ッ!!」


 周囲の魔力が、ぼくの魔力が、蒼い炎となって左手に集束する。

 狙うはただ一点、だからこそ、炎はそれほど大きくなくていい。拳大の火球に火力を集中させて、放つ。

 蒼炎の火球が身動きの取れないアルトリウスに襲いかかる。

 剣はセナとの鍔迫り合い、両足はアルミリアの光の杭、背中、圧倒的な死角から叩き込まれるぼくの最大火力、これなら……!!


「イヴっ!!」


 セナの叫びに嫌な予感がして、ぼくは咄嗟に氷の壁を形成する。

 予感は的中した。ぼくがアルトリウスに放った火球が、軌道を変えて氷を壁を打ち砕いた。

 なんで、どうして……? 疑問が頭の中を支配していく。いや、でも今は、まずこの魔法を防ぐことだけを。

 氷の壁が溶けていく。今まで以上に集中して放った星紡ぐ物語(マギステラ)の魔法だ。それを、咄嗟に展開した防御魔法程度で防げるはずがない。


「避けてアルミリア!!」


 ぼくは隣に立つアルミリアに大声でそう告げると同時に、火球の軌道から遠ざかるように飛び込んだ。

 火球が氷の壁を打ち砕き、蒼炎がぼくたちがいた場所を包み込む。

 何が起きたのか、その疑問を解消するためにアルトリウスに視線を向けると、そこには信じられない光景が広がっていた。


「なんだよ……それ……っ」


 アルトリウスの鎧が淡く輝き、背中側に魔法陣が展開されていた。

 どんな魔法が鎧に込められているのかは分からない。ただ、ぼくの魔法が彼に命中しなかった事実からして、魔法を反射する類の魔法だ。


「イヴ下がって!!」


 目の前に一瞬で移動したアルトリウスの剣を、間に入ったセナが受け止めた。

 咄嗟のことで防御が不十分で、刃が僅かに肩口にめり込む。


「こん……のぉっ!!」


 剣の軌道を逸らし、ユスティアを弾き上げる。

 二撃目が来る前にぼくを後方へと突き飛ばし、セナはアルトリウスの追撃を受けた。あまりの衝撃に、セナの足元に僅かにヒビが入る。受けるだけで全身が痛いはずなのに、セナは苦痛に顔を歪めながらもアルトリウスの剣を押し返した。


「無事ですか!?」

「ご、ごめん……」


 魔法を反射する鎧に対して魔法による攻撃は無理。

 なんだよそれ、それじゃ、ぼくは二人の足手纏いじゃないか。

 後方、邪魔にならない位置まで戻って、自分の無力を痛感しながら戦いを見守る。 


「アルミリア、イヴを守ってあげてください。アルトリウスの注意は私が引きます」

「承知した。無理はしないでくれ」

「はい!!」


 セナはぼくたちからアルトリウスを遠ざけるように移動し、彼の猛攻を凌ぐ。

 直撃は不可、辛うじて軌道を逸らして弾くばかりで、そのうちジリ貧になるのは目に見えている。それでも、セナは真っ直ぐ彼を見据えていた。

 ぼくに出来ることは、何かないのか?

 魔法が効かない相手に、ぼくが援護できることなんて何もないじゃないか。


「はぁっ!! せいっ! やぁぁぁぁぁあああああ!!」


 セナがわざとらしく大袈裟に立ち回り、アルトリウスの注意を引きつける。

 一撃一撃を受け流しながら、なるべくぼくたちから距離を置いて戦っている。

 アルトリウスは最強の英雄だ。戦いを常として、人々のために剣を振るい続けてきた伝説の勇者だ。彼の動きをぼくの目は追うことができない。それでもセナが凌ぎ続けられているのは、星剣が所有者の能力を高めているからだ。

 これが、勇者同士の戦い……星剣に選ばれた者が到達する高み。

 だけど、その実力は互角じゃない。


「くっ……この……っ」


 防御を突破した剣先が、セナの肌を裂いていく。

 防いでいるのに切り傷が全身に刻まれていき、足元に血が滴る。

 ぼくたちはここに来る前に限界まで戦っていた。その精神的疲労が、セナの剣を鈍らせていく。

 限界だ……これじゃ、流石に勝てそうにない。


「……右手は義手、左手も負傷している。没する直前のアルトリウスは全身に黒竜の呪いと白蛇の毒が回り、血鬼の焔血えんけつで内側から焼かれているはずだ。彼の動きから推測するに、右脚も満足に動かすことができない。攻撃もただ力任せに剣を振り回すだけだ、それなら、いくらでもやりようはある」


 ブツブツと何かを呟いていたアルミリアが、星槍を手に立ち上がった。

 黒竜の呪いと白蛇の毒、そして血鬼の焔血。それはアルトリウスが世界を平和にするための戦いの中で彼に刻まれていったいくつもの傷痕。彼はそれらに蝕まれながらも魔王を倒し、世界の平和を求めて戦い続けた。

 資料を読んだぼくは、それを弱点と捉えることはなかった。資料の中には、呪いや毒、血に苦しむ彼の姿なんて記されていなかった。

 だけどアルミリアの冷静な分析はそう思わなかったらしい。

 アルトリウスを見据える彼女の眼差しは自信に満ちていた。きっと何か勝機があるに違いない、そう確信させるほどに純粋で真っ直ぐな瞳。アルミリアは星槍を両手で構え直し、ぼくに一言こう告げた。


「アルトリウスには明確な弱点がある。魔法を反射する鎧は私が何とかしよう。だからイヴ、少しだけ待っていてくれ」

「アルミリア……」


 アルミリアは地面を蹴って駆け出し、勇者同士の戦いに割って入った。

 セナの隙を突いたアルトリウスの一撃に槍の穂先を合わせて剣先の軌道を変え、二人の間に立ち、星槍を勇者の亡霊へと向ける。

 言葉なんていらなかった。伝説の英雄と対峙する二人の勇者は視線を交えて言葉を交わし、互いの意図を共有し合う。実力が同程度だからこそできる芸当、ぼくには無理だから、少しだけ羨ましい。

 セナに代わってアルトリウスの攻撃を引き受けたアルミリアは、彼の剣を最小限の動きで回避していく。直撃が避けられない時は星槍で弾き、防御に徹するというよりはただ相手の全力を受け止めるような対応。それを可能にしているのは、彼女の優れた立ち回りのおかげだろう。

 アルミリアが挙げたアルトリウスの弱点。全身を蝕む過去の傷と、負傷した左手、満足に動かすことのできない右脚に負担をかけるような位置で彼の攻撃を受けることで威力を殺し、疲弊させていく。


「すまないアルトリウス、私は手段を選ばない。だから、その傷痕は存分に利用させてもらう」


 彼の生きていた時代、正々堂々を重んじる騎士道において、相手の弱点を利用することは絶対に許されない卑劣な行為だった。アルミリアの行動は彼の怒りを刺激し、僅かながら剣筋を鈍らせる。

 目が慣れて、僅かにアルトリウスの動きを追えるようになってきた。

 アルミリアの言う通りだ。彼の右脚は、左脚に比べて僅かに反応が鈍い。本当にごく僅か、それでもアルミリアからすれば明確な隙になる。


「そこだッ!!」


 アルトリウスの右肩を目掛け槍を突き出す。

 星槍の穂先は肩の装甲を打ち砕き、アルトリウスの肩から先、義手になっている右腕を吹き飛ばした。

 音を立てて、壁に叩きつけられた右腕が砕け散る。アルトリウスはそれでも剣を振るった。


「縫い留めろ……オルティスっ!!」


 ユスティアが纏う光の刃がアルミリアに迫る。だけどそれは光の杭によって固定され、彼女に触れることはなかった。


「セナっ!!」


 アルミリアがセナの名前を強く呼んだ。

 アルトリウスの背後に迫る白い閃光が、黄金の剣を振り上げる。


「【星剣ブレード……解放リリース】ッ!!」


 その刃に白銀の輝きを纏い、漆黒の鎧を切り裂いた―――

 ガラスが砕け散るように、鎧に刻まれた魔法陣が崩壊していく。

 魔法の反射はこれで消えた。これなら、思う存分、ぼくも二人と戦える。

 狙いをアルトリウスに定めて、魔法を展開する。放つのは、無数の炎の矢。内側と外側の両方を炎で焼いて、アルトリウスを無力化する……!!


星弓せいきゅうの章・第一節【炎姫の流星(イグナス・メテオール)】ッ!!」


 絶えず続けている星紡ぐ物語(マギステラ)の解読。その結果習得した新たな魔法をアルトリウスに向けて放つ。

 火力に特化した【炎姫と氷王の邂逅(グラスイグナ)】とは異なり火力が分散した【炎姫の流星(イグナス・メテオール)】は、炎姫が幼き頃に出会った流星、その記録を描いた物語。その真相は、熾烈な戦火と放たれた無数の火矢。それが今アルトリウスというただ一点を目掛けて襲いかかる。

 腕一本、剣一本では到底防ぐことのできない密度の魔法に回避を選択したアルトリウス。だがその両足を光の杭が穿ち、動きを封じた。


「せぇぇぇぇえええええやぁぁぁぁぁああああああああああああああ!!」


 セナの返す剣がアルトリウスの鎧を打ち砕き、ぼくの魔法がその隙間を狙い撃つ。

 鎧の内側、肉体に生じた炎が彼を焼き焦がし、火柱を上げて炎上する。全身を炎で包まれ、アルトリウスの身体は膝から崩れ落ちた。

 アルトリウスの鎧が崩壊していく。

 あともう少しだ。セナとアルミリアは追撃のために武器を構え、アルトリウスへ突撃する。


 ドクンと……心臓が脈を打つ。


 なんだ、この違和感は。

 アルトリウスは確かに全盛期ではない。でも、それにしては弱すぎる。

 鎧……そうだ鎧だ。過去を記した資料には、アルトリウスが鎧を着ていたなんて一つも書かれていなかった。魔法を反射する鎧。違う、魔力を反射する鎧だ。あの鎧に触れた魔法や魔術は魔力が分散して効力を失う。もしそうだとしたら、アルトリウスは魔力を一切使っていなかった……?


「二人共下がって!!」


 嫌な予感がして、思わず声を上げていた。

 ぼくは二人のうち、近くにいたアルミリアの前方に氷の壁を展開し、彼女の進路を妨害する。

 声に驚き足を止め、アルミリアがこちらを見たその瞬間だった―――


「【星剣ブレード……解放リリース……】」


 低く唸るような青年の声が、火柱の中から聞こえた。

 眩い閃光が、黄金の剣から放たれる。辺り一帯を真っ白に照らす輝き。同時に放たれた光の刃が氷の壁を打ち砕く。二重、三重、四重にも重ねて斬撃を防御する。それでもアルトリウスの一撃は氷の盾を打ち砕き、そして……衝撃で二人を壁に叩きつけた。


「な、なにが……起きて……っ」


 咄嗟に防御した影響でアルミリアの傷は軽微なものだった。

 彼女は口元に滲んだ血を拭いながら立ち上がり、アルトリウスに槍を向けた。


 そうだ、セナは……? セナは一体、どうなって―――


 セナの姿を探したぼくの視界に映ったのは、彼女の左手だった。


「……え?」


 足元に、セナの左手が転がっていた。

 壁に叩きつけられた誰かが地面に落下する音が後ろから聞こえてくる。

 恐る恐る振り返ると、そこには地に伏せるセナの姿があった。


「あ、あぁ……っ、あぁぁっ」


 セナの左腕が、消えていた。

 切口から溢れ出す赤黒い血が地面を赤く染め上げている。

 ドクンと、心臓が強く脈を打つ。

 駄目だ、だめだ……なんで、なんでこんな……っ、なんで……。

 血の海に沈んだセナの姿が、記憶の中のリーナや、フィリアお姉ちゃんと重なる。

 また……ぼくのせいで……? ぼくのせいで、誰かが、犠牲になるの……?


「あぁッ……あぁぁあっ……はぁっ、はぁっ……」


 動悸が止まらない、心臓が煩い、止まれ、止まれ、止まれ……止まれ……!!

 ぼくが、ぼくが弱いから……誰も守れないくらい弱いから。

 そうだ、だって、あの時だってそうだった。リーナの時も、フィリアお姉ちゃんの時も、レイラの時だって……!!


「イヴ! アルトリウスが……!!」


 アルミリアがぼくの名前を呼んでいた。

 顔を上げると、アルトリウスが炎の中から姿を現そうとしていた。

 鎧に隠れていた彼の姿。生気のない虚ろな瑠璃色の瞳がぼくたちに向けられる。

 失われていたはずの右腕を魔力で形作り、星剣を握り直した彼はぼくを見て、目を大きく見開いた。


「イ、イヴ……グレイ、シア……」


 掠れ、低く唸るような彼の声が、確かにぼくの名前を口にした。

 なんで……どうして、彼はぼくの名前を知っているのだろう。

 同じ顔、同じ名前の仲間がいたとか? いや、そんなこと、彼の記録には何も残されていなかった。

 いくつもの疑問が脳裏を過る中、アルトリウスはぼくに向けてユスティアを振り上げた。

 まずい、逃げられない、防げない。これは……死ぬ―――


「縫い留めろ、オルティス!!」


 アルトリウスのユスティアが、アルミリアの光の杭に止められる。

 ぼくと彼の間に挟むように入ったアルミリアは、鋭い刺突を繰り出してアルトリウスを吹き飛ばした。


「……アル、ミリア」

「名前を呼び動揺させる気か……その手には乗らないよ、アルトリウス」

「アルト……リウス……?」


 アルトリウスは立ち止まり、ユスティアに映る自分の姿をまじまじと見た。

 彼の容姿は伝承の通りだ。宝石の如き瑠璃色の瞳と、輝かしい金糸のの髪。だけど髪の方は、絶え間なく続いた戦いのストレスなのか、純白に染まっている。


「あぁ……そうだ、オレは……僕は、アルトリウス……」

「はぁぁぁぁあああああああああっ!!」


 大きな隙を突くように、立ち上がったセナがユスティアで斬りかかる。

 失われた左腕は既に再生を始めていた。片腕だけの攻撃だというのに、アルトリウスはそれを弾くことなく左腕で刀身を掴んで受け止めた。


「お前は……知らない……見たこと、ない……」

「なら覚えてください。私の名前はセナ・アステリオ。あなたを解放し、骸の魔女を打ち倒す新たな時代の勇者ですっ!!」

「セナ・アステ、リオ……覚えた」

「うわっ!?」


 アルトリウスは刀身を投げ飛ばし、再度セナを壁に叩きつける。

 彼は両手でユスティア・トゥリアの柄を握り、セナに向けゆっくりと大上段の構えを取った。


「僕の名はアルトリウス……全力で、新たな勇者への試練となろう」


 先生風に言うとするなら、第二ラウンド。

 魔力を分散させる鎧が砕け、全力を取り戻した伝説の勇者との戦いは……まだ、終わりそうになかった。

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