第21話『炎天の星弓』
黄金の剣と真紅の炎が激突する。
テレジア有利のまま進む戦況は、以前よりも遥かに密度を増したテレジアの矢の雨に晒され防戦一方になったセナが逃げ回ること数分が経過していた。
「逃げているだけでは勝てませんわよっ!!」
「もうやめてください! 私はイヴとも、あなたとも戦いたくない!!」
「私もできればあなたと戦うのだけは避けたかった。でも……こうなってしまった以上、私にあなたを打ち倒す以外の選択肢はないのです!!」
自分への直撃だけを切り落として移動しながら接近する隙を伺っていたセナを包囲するよう、テレジアは六体の炎の高位精霊、ムスペルを召喚した。全身が炎に包まれたその怪物は、たった一瞬の遅れもなくテレジアの動きをトレースし、炎の矢を六方向からセナに浴びせる。
「どうして……! なんで二人は……急に変わってしまったんですか!」
「変わったのはあなたですわ、セナ・アステリオ。今のあなたには自我がない、意志がない、自らを支配するあの女の命令を聞くだけの道具に過ぎない!!」
「違う! 私は……私は、自分の意志で―――」
「哀れな勇者様、自分が人形だと自覚もできないのですねっ!!」
セナを言葉巧みに挑発するテレジアは、その煽りの隙間にも正確な射撃を挟んでセナを消耗させていく。あれだけ光輝いていた黄金の剣はセナが悩むにつれてその輝きが失われていき、今やただ豪華な装飾が象られただけの儀礼用の直剣と化している。
セナ・アステリオは、テレジアが知る限り最強の相手だ。
実力はほぼ互角、気持ちで勝つことができれば、セナを降すのは容易い。
これは正々堂々とした決闘じゃない。どれだけ汚いやり方だろうと勝てば正義だ。だからこそテレジアは、セナを動揺させることに力を注いだ。
「何故あの女の味方をするのです? 何故、あの女を守るために剣を振るうのです!!」
「だって、ヨハンナ先生は私たちの大切な先生じゃないですか!!」
「それは偽りの記憶ですわ! あなたも、皆も、あの女に騙されているのです!!」
「何をそんな出鱈目なことを!!」
セナの黄金の瞳に動揺の色が浮かぶ。
今の彼女を動かしているのは、ヨハンナの命令と、彼女と歩んできたこの一か月の思い出。
でもそれは、ヨハンナ・リヒテンベルクが大規模な儀式魔術によってイヴとテレジアを除くこの街の人間に施した認識の改変がもたらした結果だ。本物ではない、偽物の記憶だ。
自分が認めた相手であるセナが、そんなものに振り回されるのがテレジアは許せなかった。
「あなたはあの女のためなら、イヴ・グレイシアですら斬るというのですか!!」
「だから嫌なんですよ! 私は出来ることならイヴと敵になりたくない!!」
「それでもあなたはイヴ・グレイシアに、大切な友人にその剣を振り下ろした!!」
「だって仕方ないじゃないですか! 私がイヴを止めなければ、ヨハンナ先生が……!!」
あぁ、腹が立つ。
セナの発する言葉の全てが鼻につく。
偽りの記憶に惑わされ、友人にすら剣を向けた彼女に、一体何の正しさがあるのか。
アポディリスを握るテレジアの左手に力が込められ、五本の矢を番える。
「私が認めたあなたは、友のために世界を否定できる強い人間だった。でも……今のあなたは違う! あなたの信念も、自我も、意志も、何もかもが操られた偽物ですわ!!」
「私は私です! さっきから何なんですか! いい加減怒りますよ!!」
「えぇ、存分に憤りなさい! 私だって優柔不断なあなたのふざけた態度にブチギレてますわ。だからここで、あなたを叩き潰して否定する!!」
テレジアの攻撃が更に密度を増す。
無数に飛来する炎の矢と、その隙間を縫って執拗に死角から突いてくる意志を持つ矢に翻弄されて、セナはかなり消耗していた。
それでも決定打には足りない。少しすればセナはテレジアの攻撃に適応し、対応しながら距離を詰めるだろう。だから今は少しでも考える隙を与えない、それがテレジアの作戦だった。
「今あなたを突き動かしているのは一体何ですか! 友への想いですか? あの女の命令ですか? 私にはあなたが、あの女の言いなりにしか見えませんわ!!」
「私はイヴに世界の敵になって欲しくない! イヴを止めるためにこの力を使うんです!!」
「どうしてイヴ・グレイシアを止める必要があるのです!?」
「それは……っ、イヴが、ヨハンナ先生を殺そうとしているからで……」
「そうですか、それは残念ですわ。編入初日に食堂で聞いたあの言葉は嘘だったのですね」
「あの言葉……っ」
足を止めたセナの脳裏を過ったのは、編入初日にイヴと交わした会話の数々。
魔女の娘と疎まれ、避けられていたイヴがセナのために提言したことに、セナはこう返した。
―――イヴと友達をやめないと皆と友達になれないのなら、私、イヴ以外の友達はいりません。そんな世界きっと間違ってます!
イヴと友達をやめなければならないのなら、そんな世界は間違っている。
だが、今はどうだろうか。
世界が正しいと結論付けて、イヴを否定しているのは他でもない、セナ自身だ。
「撃ち抜きなさい【炎天の星弓】ッ!!」
テレジアが放った炎の矢が、セナの左腹部を貫いた。
「うぐっ……あぁぁああああああああああああああああああっ!!」
ごっそりと抉られた脇腹から噴き出る鮮血と激痛に顔を歪め、セナが絶叫する。
「はぁ……はぁっ……ぐっ……なん、で……」
「どうせすぐに治るのでしょう? それでも相応に痛みは伴うのですから、戦意を削ぐにはピッタリですわ」
修復が始まった左腹部を押さえて立ち上がるセナに追い打ちするよう、背後に出現したムスペルから放たれた炎の槍が、右の腿を貫いた。
「あぁぁぁぁああああああああああああああああああっ!!」
「痛いでしょう! でも彼女は、イヴ・グレイシアはもっと痛い!!」
左方から飛来した炎の矢が、治り始めたばかりの左腹部に突き刺さる。
「ぐぅぅぅううっ!?」
「あなたに信じてもらえなくて、あなたに敵対されて、あなたに剣を向けられて、張り裂けそうな心を辛うじて堪えながら、たった一人で間違った世界に立ち向かっている!!」
前方から放たれた炎の矢が、右肩を大きく抉る。
「あぐっ……」
「私は孤独を共有する者として、その正しさを証明する! イヴ・グレイシアの想いを肯定する!! だからそのために、まずはあなたを叩き潰す!!」
後方から、右方から、上方から、下方から、四方向から同時に出現した炎の矢が、セナの全身に突き刺さる。
もう痛みに声を上げることもできないほど消耗しているというのに、身体の内側を炎で焼かれているというのにそれでもセナは立ち上がろうとする。
「はぁ……はぁ……っ、はぁ……」
「まだ……立ち上がるのですか」
「私、テレジアの言うこと、これっぽっちも分かりません。でも、私の身に何かが起きたことは分かります」
セナは片手で頭を押さえて苦悶の表情を浮かべた。
今の彼女を突き動かす衝動は、勇者としての正しさただ一つだった。
ずっと強い力で思考が歪められて、テレジアを斬れ、イヴを斬れ、世界の敵を殺せと語りかけてくる。本心では友人だと思っているのに、自分の認識すら間違っていると、何かが矛盾を修正しようとして、頭の中がこんがらがって気分が悪い。
「でも、私は、私の正しさを貫かなきゃ……だから、立ちます……」
「違う、あなたは間違っていますわ……」
「分かってます。ここまでやられて気付けないほど私は馬鹿じゃありません」
もしこの場で正しさがあるとするのなら、それはきっとテレジアの言葉だ。
抗おうとする意思が、心が、その正しさに従うべきだと囁いている。
「だけど無理なんです。私は、私が正しいと信じることしかできない。疑うことができない。それは、許されていないんです」
それでも、セナは自分の間違いを認められない。改変されていたとしても、彼女にとっての今の最優先事項はヨハンナを守ることだ。薄々、それが矛盾しているとは気付いていた。だが、身体が言うことを聞かないのだ。
「お願いします、テレジア。私の間違いを……打ち砕いてください」
ユスティアを握る手に力が込められる。
消え失せていた黄金の輝きが剣を包み込み、天高く光の柱を掲げる。
「……いいでしょう。私の全力を以て、あなたを否定します」
それがセナの最後の一撃だとテレジアは悟った。だからこそ、持ち得る魔力の全てを以て迎え撃つと決めた。
テレジアは召喚した六体のムスペルを一つに束ね、巨大な炎の槍を大弓に番える。
紅蓮の炎は煌々と燃え盛り、溢れ出る熱は石畳を融かしていく。
「【星剣解放】―――応えて、ユスティア!!」
「我が敵を射抜きなさい! 【炎天の星弓】ッ!!」
豪炎の一矢が放たれて、黄金の剣に集束した光がそれを迎え撃つ。
互いに全てを用いた最後の一撃だった。
実力は五分、だからこそ勝敗を左右したのは、一瞬の心の迷い。
矛盾を抱えたセナと、正しさを信じるテレジアでは、どちらが勝つかなんてやる前から決まっていた。
光が晴れる。
炎によって大きく抉られた石畳の先、セナは気を失い、膝から崩れ落ちて倒れ伏した。
「……私の勝ちですわ、セナ・アステリオ」
歩み寄るテレジアの言葉に返事はなかった。
傷の修復が始まっている。ものの数分すれば彼女は全快するだろう。
その時、また敵として立ち塞がるかは定かではないが、十分時間を稼げたのではないか。
テレジアにも立ち上がるだけの気力は残されていなかった。
魔力は空だ、魔力弾一つ撃てやしない。だから彼女ができることは、どうかイヴがヨハンナに勝てるよう祈ることだけだった。
―――そのはずなのに。
「行かなければ……っ」
テレジアは立ち上がった。
魔力が空だからなんだ、無力だからなんだ。それでも私はイヴ・グレイシアの力になりたいんだ。そう言わんばかりに重い足を引きずってイヴのもとへと向かう。
「待って……ください……っ」
そんな彼女の足首を掴んだ小さな手。
意識を取り戻したセナは、テレジアを行かせまいと強引に引き留める。
「いい加減に……っ」
「私も、行きます」
「なっ……あなた、まさか記憶を!?」
「いいえ、私の頭はまだヨハンナ先生の力になれと言っています。でも―――私の心が、イヴを守れと言っているんです。私はあなたに負けました……だから、あなたの正しさを信じます」
セナは光を失ったユスティアを拾って、塞がりかけている脇腹を押さえながら立ち上がろうとする。
「……それでこそ、私が認めたセナ・アステリオですわ。さ、私の手を取って」
テレジアに差し出された手を掴んで、セナはユスティアを地面に突き刺し立ち上がった。
何が正しいのか、彼女には何も分からない。だが、あれだけあったイヴへの想いを全て抑え込み、彼女と敵対するよう仕向けてきたこの謎の矛盾は間違った記憶だ、それをテレジアに教えられたし、セナもそう思うことにした。
ヨハンナからの命令ではない、今度は自分の心に従ってみせると。
◇ ◇ ◇
ヨハンナ・リヒテンベルクは先代の勇者の一人だ。
師匠とも交流があって、何度か顔を合わせたこともあるし、言葉だって交わしたこともある。
だからこそ確信できる。ぼくの目の前にいる彼女は―――偽物だ。
生ける屍とテレジアは言った。本当にその通りだ、彼女からは、人間が本来持つべき魔力の正常な流れが感じられない。あの肉体は人間じゃない……魔物のそれだ。
「お前は……誰だ」
「ヨハンナ・リヒテンベルク」
「違う。お前はヨハンナの記憶を持つだけの人形。生きているだけの死体だよ」
「あら、そこまで見抜いているの? なかなか厄介ねその魔眼」
マナの見える魔眼には、人の内側に流れる魔力が線となって浮かび上がって見える。
だけどヨハンナにはそれがなかった。魔力が感じられない、流れていない、人が生きている以上確かに存在するはずの魔力がヨハンナには存在しない。
そして薄らと感じる魔女の魔力。ぼくの脳裏を、師匠が最後に告げたあの名前がよぎった。
「……骸の魔女」
「正解! でも不正解。私は骸の魔女様本人ではない、あの方の祝福を受けて蘇ったヨハンナ・リヒテンベルクよ」
「やっぱり五年前に死んでたんだ……死体なら、大人しく土の中で眠ってろ!!」
同時に五本の氷の槍をヨハンナに向けて放つ。
「いいえ、眠らない。私は、私自身を殺したアリシアへの復讐を遂げるまで終わらない!」
どこからか飛来した五本の矢がぼくの槍を迎撃。打ち砕いて霧散させた。
「師匠は死んだよ。ぼくが殺した」
「だから!? アリシアのことだからあなたに何かを託しているのでしょう? ならあなたを殺して、アリシアの計画を全部台無しにしてあげるのよ!!」
ヨハンナの内側で強い魔力が熾る。
足元から噴き上げられた黒い炎が、彼女の左手に集束していく。
細長く伸びた炎が形作ったのは、ひび割れ、炎が漏れ出す漆黒の大弓。
星神器、星弓アポディリスが、ヨハンナの左手に顕現した。
「……お前を、倒す」
一つ、息を吐いて【星紡ぐ物語】を開く。
ヨハンナがどれだけ間違った人間だろうと、人であるならきっと躊躇っていた。
でも違う、相手は人間じゃない、動くだけの屍、アンデッドだ。それなら、魔物相手なら躊躇する必要なんてどこにもない。
「《多重詠唱》・【撃ち抜く氷槍】ッ!!」
ヨハンナの周囲に無数の術式を展開し、包囲する。
相手がどう出てくるか分からない。だけど対魔導師戦の定石は相手に魔術を使わせないこと。
師匠相手だったら一瞬で解呪されるけど、大抵の魔導師はこれで封殺できる。
無数の氷の槍がヨハンナに襲いかかる。砕け散った氷が霧となって視界を遮り、相手の姿が隠れてしまう。
手応えはあった。なら、少なからずダメージを受けているはず―――
「これがあなたの全力?」
ヨハンナは、一切回避をしていなかった。
全身にぼくの魔術が突き刺さっている。痛みも相当のはずだし、何よりこの魔術は対象を内側から凍らせていくから動きだって鈍くなる。
立てるはずないのに……どうして。
「なんで……」
「あなたが言ったのよ、生きているだけの死体だと」
ヨハンナは全身に刺さった氷を引き抜いて投げ捨てる。
普通なら死んでいてもおかしくない攻撃だ。穴だらけになった身体はそもそも動くことすらできない。殺すつもりで魔術を使った、まとも受ければ確実に死ぬ攻撃だった。なのに―――
「何を疑問に思う必要があるの、死体なのだから死の概念が存在しないのは当然でしょう?」
驚愕するぼくにそう言って、ヨハンナは自分の胸に手を当て治癒魔術を施す。
全身の穴が再生して、突き刺さった氷が融けていく。
だめだ……勝てない、勝てる気がしない。死なない相手をどうやって殺せって言うんだ。
「それじゃあ……次は私の番ね」
ヨハンナは血に濡れた大弓を構え、矢を番えた。
「《多重詠唱》・【撃ち抜く氷槍】ッ!!」
再び術式を展開する。今度はさっきよりも更に多く、密度を増して放つ。
師匠の友人とはいっても、ぼくはリーナ以外の勇者の実力を知らない。だから何をしてくるか分からない。少なくとも、テレジアよりは遥かに強いと仮定して、魔力を惜しまずぶつける。
「流石はアリシアの弟子ね」
ヨハンナは、ぼくの魔術を防ぐことすらしなかった。
避けようともせず、防ごうともせず、その身で全てを受け止めていた。
無数の氷槍が突き刺さり、全身が凍り付いていく。それなのに、ヨハンナは笑っていた。
「でも、足りない。ただの魔術じゃ、私は止められない」
ヨハンナが矢を放つ。
氷の槍が砕けて霧になる中、ヨハンナの放った矢だけが真っ直ぐぼくに向かって飛んでくる。
咄嗟に氷の盾で防ごうとした。だけど彼女の矢の軌道は蛇のように大きくうねり、背後から脇腹を掠める。
「ぐぅぅ……っ」
鋭い痛みに一瞬視界が揺らいだ。だけど少し掠っただけだ、大したダメージじゃない。
だけど、反撃しようと右手を向けたその時、ぼくの全身を熱が襲った。
「あぁっ、あぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああッ!!」
熱い、熱い熱い熱い熱い熱い!! まるで傷口から溶岩を流し込まれるような、身体の内側から焼かれていくような異様な感覚。でも身体は燃えていない、炎もない、それなのに、熱くて立っていられない……っ!!
毒……? 違う、毒じゃない、毒なら身体に入った瞬間にそう認識する。これは……ヨハンナの魔術だ。
「何を……した……」
「私の魔力は燃え盛る炎。それを傷口から流し込んだだけよ」
「なんだよ、それ……」
「私の炎は身体を内側から焼いていくの。じっくりと、ゆっくりと、身体中を熱で支配して痛み以外の感覚を奪う。アリシアとは違う、灰になんてさせない。苦しめて苦しめて苦しめて、生きることすら苦痛に感じた頃に首を刎ねてあげる」
駄目だ、全身が痛い、熱い、苦しい……何も考えられない。
目の前に倒さなきゃいけない敵がいるのに、テレジアが時間を稼いでくれているのに、ぼくは何もできずここで身体を支配する熱にのたうち回るだけ。無力な自分が不甲斐なくて悔しくて、死んでしまいたくなる。だけど、この地獄は一向に終わる気配がない。
「ああっ……ぐっ、あぁぁぁぁああああああああああああああっ!!」
「あっははははははは! いい声で鳴くじゃない! ほら、ほらほらほらもっと鳴いて! 苦しんで嘆いて喚いて叫んで!! 謝っても許さない。アリシアを殺したのだから、あなたがアリシアの分まで私の憎しみで焼かれなさい!!」
マズい、意識が飛びそうになってきた。喉が焼けて声も出ない。全身が炎に蝕まれて、指先一つ動かない。もう嫌だ、苦しい、痛い、熱い……頼むから、殺して―――
「撃ち抜きなさい【炎天の星弓】」
どこからか飛来した炎の矢が、ヨハンナの胸を貫いた。
「はぁぁぁぁあああああああああああああっ!!」
ぼやけた視界を駆け抜けた白い影が、ヨハンナの身体を切り裂いた。
「まったく、大口叩いておきながら、なんですかこの体たらくは」
もう立つこともできないぼくの身体を誰かが支えている。
燃え盛る炎のような赤い髪―――テレジアだ。よかった、セナに勝ったんだ。
「テレジア……っ!!」
「私だけではありませんわ。彼女も一緒です」
「彼女……?」
朦朧とする視界で、テレジアが指差す先を見る。
ヨハンナの身体を切り裂いた白い影が、黄金の剣を振るっていた。
何度も、何度も、決して死ぬことのない彼女の身体を何度も切りつけ、反撃を隙を与えない。
セナだ―――もう友達に戻ることなんてできないと思っていたあの子が、ぼくを守って戦ってくれている。
「どうして! どうしてなのレイリーナ!! 私を守れと言ったじゃない!!」
「私はレイリーナじゃありません! セナ・アステリオです!!」
「あなたはレイリーナ・ノクス・シルヴァリオ。私と同じ、アリシアに殺された勇―――」
「違います! 私は……イヴの友達です!!」
涙が出そうだった……ううん、気付いた時には泣いていた。
「どうして……」
「ぶん殴って分からせましたわ。彼女は、自分の認識が間違いであることを自覚しました」
「……ありがとう」
「礼は要りません。立てますか?」
「全身内側から焼かれててしんどいけど、セナが戻ってきてくれたなら頑張れるよ。テレジア、いける?」
「出涸らしの魔力しか残っていませんが、援護射撃程度なら可能ですわ」
「わかった……なら、あれを倒そう、三人で」
痛みを気合で堪えながら立ち上がり、ヨハンナを見据える。
彼女はセナの猛攻に防戦一方の様子だった。それでも一撃受ければぼくと同じ苦痛がセナを襲う。それだけは避けなければいけないから、ぼくはセナの支援に回った。
セナに当たる攻撃は、全て防いでみせる。
「セナ! 頼んだよ!!」
「……はいっ!!」
黄金の剣に光が宿った。
ぼく一人じゃヨハンナには勝てない。だけど、三人なら―――きっと倒せる。




