第16話『予期せぬ挑戦』
「……ぼくの話は、これでおしまい」
息を吐いて、水を一口。
疲れた。少し喋りすぎた。口を開くたびに過去に置いてきたはずの感情が容赦なく込み上げてきて、意識して抑えなければ泣き出してしまいそうだった。
セナの前とはいえ、列車の中で泣くのは流石にマズい。だからなるべく感情を出さないように気を付けていたけど、やっぱり過去を思い出すのは心苦しい。
苦い思い出ばかり……ってわけじゃないけど、どうしても衝撃的なエピソードが記憶に残りやすいから、ぼくの人生は不幸だらけ、そんな悲しい主観的印象になってしまう。
本当はもっと楽しい話とか、笑い話とか、色々面白おかしく語れるエピソードもあったはずなんだけど、忘れてしまった。
「その後は、どうなったんですか……?」
「どうって言われても何もなかったよ? あの後、師匠を恨む勢力からぼくを守るためにリツ先生とカナメさんが学院に入れてくれて、名目上監視が必要だったから対魔導師に特化したリツ先生が教師として一緒に来ることになって……それだけ」
それだけの一言で片付けてしまうのも少し勿体ない気もするけど、これ以上他人のつらい過去を聞かされてもセナに気を遣わせるだけだ。
だからぼくは、それがまるで当然かのようにあっけらかんとした態度で答えてみせた。
「本当に……それだけだよ」
リーナのような友人ができることもなかったし、将来の夢が見つかることもなかった。
探す暇もなかったから。多分、死んだように生きていたんだと思う。
セナもこんな状態のぼくにどんな言葉で声をかければいいのか分からなかったようで、駅に着くまでずっと俯いていた。
◇ ◇ ◇
師匠を失ってから一週間が経過した。
焔の魔女アリシア・イグナが召喚した魔神の古王によって破壊されたプラネスタの中心街の復興は特にこれといったトラブルもなく滞りなく進んでいる。
学院側も安全が確立されたとのことで、今日から授業を再開。一週間の休講期間を取り戻すべく、授業は急ピッチで進められ、ぼくたち学生にとっては地獄の一日だった。
「だめです……ちっとも頭に入りません……」
昼休み、図書館の窓際の席で、セナはぐったりと机に突っ伏す。
セナは街を救った英雄として、生徒から賞賛の嵐を浴びる―――わけではなく。当事者以外には情報統制が敷かれ、ディメナ・レガリアを打ち倒した黄金の光は謎の存在として、現在調査中とされている。
なので何も変わらない。セナは普通の学院生として、普通の生活を送ることになるのだから、突然ペースを上げた授業スピードにも対応しなければならない。
まぁ少なくとも、考えるより身体を動かす方が早いだろうセナにとっては、今日の授業は地獄そのものだろう。早口で淡々と教本を読み上げられ、知識を脳に直接叩き込まれるあの感覚はぼくだってちょっとしんどい。
「イヴ、やっぱり私、あのまま勇者になった方が良かったのかもしれません」
「わざわざ断ったのに爆速で後悔すんなよ」
「うぐっ……イヴ、少し言葉強くありませんか……?」
「なんでだろうね、リツ先生の荒い言葉遣いが移ったんじゃない?」
「可愛らしかったイヴはどこに……うぅ……」
「いいからさっさと手動かす」
「はい……」
ぶつくさと文句を垂れながら机と向き合うセナの前に広がっているのは、今日の授業で出された課題……ではなく、反省文だ。
学生の身でありながらディメナ・レガリアを打ち倒し街を救った英雄とはいえ、学生、そう、現状は学院の庇護下の身で無謀な戦いを挑んだのは事実なわけで、学院としては生徒の勝手な行動を咎める必要がある。本来なら停学、謹慎、そういった重い措置を取るのだけど、温情で反省文の提出で許されることになった。
ぼくは朝のうちにさくっと書いたから、特に苦労することはない。ただセナとしてはどうしても納得できないらしく、文句ばかりで手が一切動いていない。
「あらあら、皆を救った英雄様が苦戦する相手が、まさか反省文だとは思いませんでしたわ」
「その声は……っ!」
「ごきげんようセナ・アステリオさん。怪我の具合はいかが?」
いつものように二人の取り巻きを連れてわざわざ絡んできたテレジアは、赤の長髪をわざとらしく靡かせてぼくたちの前に立つ。
妙に鼻につく態度が少し腹立たしいけど、これがテレジアの平常運転だ。
「もうばっちり回復しました! リベンジならいつでも受けて立ちますよ!!」
「それも良いのですが、生憎本日は別な用件がありまして」
テレジアはその燃えるように赤い瞳でぼくを睨みこう言った。
「イヴ・グレイシア、あなたに決闘を申し込みますわ」
「……はい?」
えっと……今、何て?
「聞こえなかったのですか? あなたに決闘を申し込む、そう言ったのですわ」
「いやいやいやいや、ちょっと待ってよなんで!? ぼくと君には戦う理由がないんだけど!」
「あなたに無くとも私にはあるのです。先週あれだけ豪語したのですから、受けないとは言わせませんわ」
見事に先に逃げ場を封じられた。
「『誰もぼくに勝てない』と、あなたはそう仰いました」
「いやそれは……なんというか、言葉の綾というか……」
「受けていただけますね?」
「……わかったよ」
「では後ほど。手続きは既に済ませてありますのでご安心を」
それだけ言い残し、テレジアは二人の取り巻きを連れて図書館を去っていく。
そのためだけに来たのか、彼女も随分と物好きだ。
「イヴ、どうするんですか?」
「テレジアが命令権を何に使うか次第かな。そこまで重くなければ適当に負けるよ」
「それはダメです。真剣な相手を馬鹿にしてはいけません」
「……わかったよ」
とはいっても、テレジアがぼくに挑戦する理由が分からない。
本当にただムカつく鼻っ柱をへし折りたいだけならまだいい。いやよくない、冷静に考えたら勝っても負けてもテレジアと戦った時点で悪目立ちするのは避けられないじゃないか。
だからって不戦敗を選んでもセナに失望されるだろうし、これは本格的に逃げ場がなさそうだった。
◇ ◇ ◇
寮の談話室や食堂では、ぼくとテレジアの決闘の話で持ちきりだった。
一体誰が広めたのかは分からないけど、多分明日はセナの時と同程度の盛り上がりを見せるような予感がしている。
もちろんそんな面白そうな噂なら、あの子の耳に入っていないはずがなく。
「イヴ先輩、テレジアと決闘するって本当ですか!?」
案の定とかなんというか。
寮に戻った瞬間、待ってましたと言わんばかりに駆け寄ってきたシオンは、目をキラキラと輝かせてぼくに顔を近付けてきた。
「まぁ、一応……」
「絶対見に行きます! テレジアなんてこてんぱんにしちゃってください!!」
「あー、えっと、シオン? あまり大きな声でそういうこと言うのやめようね」
談話室にて談笑する生徒たちの視線が一斉にこちらに向けられた。
注目されるのはあまり好きじゃないし、何より相手がテレジアだから、ぼくからすれば完全にアウェー、物語の悪役ポジションなわけで。
だからこそ、せめて悪目立ちだけは避けたかったのだけど……こればかりはもうどうしようもない。
「そうだぞバカシオン。先輩が圧勝するのは当然なんだから、わざわざ頼むまでもないっつーの」
「私もそう思います! イヴが負けるわけありませんから!!」
後から合流してきたクロエとセナがシオンに加勢し、状況は更に面倒になった。
どうして皆、ぼくが勝つのが当然だと思っているのだろう。少なくとも魔術の技量に限った話なら、正直テレジアの方が上だ。魔法を封印して戦ったら勝てる気がしない。
「いやー、にしてもあたしも見たかったっす、イヴ先輩とテレジアの直接対決」
「クロエは来れないの?」
「アバラが折れてたんでまだ療養期間なんす。ずっと盾構えてたシオンよりひどいってどういうことなんすかね。こいつ頑丈過ぎません?」
「あはは……」
それを言うなら、君の隣にいるセナは心臓貫かれても生きてるわけだけど。
「……ところで、アルミリアは?」
「ミリ先輩は寝てます、絶対安静だそうです。あの人は迷宮での傷もありますし、あたしらの中で一番ひどいみたいで」
「そっか……」
いつもの面子にアルミリアがいないと少し寂しいものがある。
彼女は星剣の自動修復能力のあるセナと違って、連日負傷続きだったからまだ復帰には時間がかかるようだ。巻き込んでしまった手前、何とお詫びすればいいか。
「明日は私も見に行くよ。こんな面白い話、見逃すわけにはいかないからね」
「君は絶対安静って言われてるんでしょ。万全になるまで寝てなさい」
「そうっすよミリ先輩―――え、ミリ先輩!?」
「どうしたんだい、死人でも見たような顔をして」
ナチュラルに会話に混ざっていたアルミリアは、ぼくたちが驚いている理由が分からないのか首を傾げていた。
おかしいな、絶対安静って言われたって今聞いたばかりなんだけどな、どうしてここにいるのかな。
「アルミリア、傷はもういいの?」
「問題ない。私も人より少し傷の治りが早い体質でね、ついさっき外出の許可をもらってきたんだ。だから明日は、君の勇姿をしっかりと見届けさせてもらうよ」
そうは言うけど、アルミリアの腕や額に巻かれた包帯は取れていない。今のも殆ど嘘だと思う。自分すら誤魔化すことで強引に外出許可を得ているような気がする。
ぼくとしてはあまり無理はして欲しくないのだけど、多分何を言っても無駄だろうから、諦めて彼女を信じることにした。
「何はともあれ、まずは対策を考えないとですね」
「その点は大丈夫。テレジアの手の内はセナのおかげで割れてるし」
その代わり、師匠と真正面からぶつかり合った時にぼくの手札もテレジアに知られちゃったわけだけど。
「テレジアが得意とするのは精霊の複数召喚と無言かつ無詠唱の魔術行使。そして……」
「炎天の星弓っすね」
「あとあと、あの蛇のようにぐにゃっと曲がる炎の矢も!」
「あれは確かに厄介でした。でも、イヴの全力に比べたら大したことありません」
「……どうだろう」
だと良かったんだけど、生憎ぼくが得意とする氷魔術とテレジアの炎魔術では相性が悪い。
術者の技量次第で相性はひっくり返せるけど、テレジアが相手だとそうはいかない。少し冷静に考えてみると、手放しで「勝てる」とは言えないような気がしてきた。
「イヴならきっと大丈夫です。私、信じてますから!」
「いやそんなこと言われても……わかった、なるべく頑張ってみるよ」
セナに真っ直ぐ見つめられると、ノーとは言えなくなる。
「ちょっと考えるから先部屋に戻るね。おやすみ」
いい加減睨むような周囲の視線に耐えかねて、ぼくは逃げるように談話室を後にする。
ひとまず対策は講じておくべきだ。こっちの手の内も知られているわけだし、封殺されて負けたんじゃ示しがつかない。
魔法を使えば余裕で勝てるけど、それは封印。ぼくのせいでセナの、皆の印象が悪くなるのは嫌だ。
とは言ったものの、眠れそうになくて外に出た。
皆が寝静まった頃だからとても静かで星が綺麗で、ぼくは思わず見とれてしまった。
そうだ、少し散歩しよう。寮の敷地内を軽く歩くだけでもいい気分転換になる。
そう思って歩き出したのも束の間、中庭を散歩している最中、誰かの声が聞こえてくる。
咄嗟に隠れてしまったけど、別にコソコソするようなやましいことはないのだから、堂々としていればよかった。
「撃ち抜きなさい【炎天の星弓】ッ!!」
「えっ?」
物陰からこっそりと様子を窺ってみると、そこはテレジアの姿があった。
彼女は中庭に並べられた五体の魔術訓練用のゴーレムを一度に射抜き、打ち砕く。
一体何時間続けていたのだろう。地面に転がっているゴーレムの破片はざっと数えても百体は超えているし、彼女の頬を伝う大量の汗が長時間の訓練を物語っていた。
「……次を出しなさい」
「テレジア様、そろそろお休みになられては」
「いいえアンネ、まだ休みません。私は勝たねばならないのです」
テレジアは汗を拭って、再び的に向き合った。
大弓を番え、アンネとイリーナが召喚したゴーレムに向けて構える。
ふらりと、積み重ねられた疲労によってテレジアの姿勢が崩れる。だけど彼女は片膝を突いて堪え、立ち上がって五体のゴーレムを見据えた。
「テレジア様、本当にお休みになられてください!」
「いくら本家の指示とはいえ、少々焦りすぎのようにも感じます!!」
「イヴ・グレイシアに挑むのは私自身の意思ですわ。必ず勇者としての価値を示す。そのために私はここまでやってきたのです。それに……あの女だけは確実に、私が越えなければならない障害です」
「ですがテレジア様、次敗北するようなことがあれば……」
「……リヒテンベルクに二度の敗北は許されません、分かっているでしょう」
テレジアの声音はいつになく真剣そうで、アンネとイリーナの声は憂いを帯びていた。
何やら込み入った事情がありそうで、流石に盗み聞きをするのも悪いと思い立ち去ろうとする。
その時、あまりに衝撃的な言葉が耳に飛び込んできた。
「敗北は死、それがお母さまとの契約ですから」
「えっ……」
思わず足を止め、廊下の柱に頭をぶつける。
「あでっ!?」
「誰だ!!」
今はどうにも顔を合わせたくなくて、ぼくは逃げるようにその場を去った。
多分、姿は見られていないと思う。
◇ ◇ ◇
翌日の放課後、大演習場にはセナの時と変わらない規模の観客が押し寄せていた。
悪名高い魔女の娘と、学院最強格のテレジアの決闘。まぁ皆からすれば、テレジアがぼくを排除するためについに実力行使に出たという印象だろう。実際、観客席の雰囲気は圧倒的にテレジア応援ムードで、ぼくはアウェーの空気に取り込まれていた。
だけど、それも気にならないほど、今のぼくは昨日のことで頭が一杯だった。
「逃げずに来たのですね、イヴ・グレイシア。私に叩き潰される覚悟はできてまして?」
「……いいから、さっさと終わらせよう」
「えぇ、そうですわね。お願いしますわ、クラウス先生」
「では、契約のスクロールを」
審判役は短い銀髪のオールバック、クラウス先生。
彼の合図で、ぼくたち二人は契約のスクロールを取り出し、互いに交換する。
テレジアは、一体ぼくに何を命令するつもりなのだろう。
魂胆が分からないけど、ひとまずスクロールに魔力を登録。クラウス先生に預ける。
「これより、テレジア・リヒテンベルクとイヴ・グレイシアの決闘を始めます。両者、構え―――」
一歩、二歩、三歩、互いに手が届かない程度の距離を取り、互いに右手を構える。
空気が鎮まる。大丈夫、師匠と戦った時より緊張はしていない。
「―――始めッ!!」
審判の合図で、ぼくたちの決闘が幕を開ける。
テレジアは開幕と同時に仕掛けてきた。セナの時と同じ、無数の炎の矢をぼくの周囲に展開して、まず包囲する。
ぼくは自分を中心に半球状の氷を形成して、襲いかかる炎の矢を全て防御。
流石学内トップの実力者。ぼく以外が相手なら今の一瞬で決着していた。
「やはりあなたには通じませんか。なら、全力で行きますわ。《我が意に傅け》【炎天の星弓】ッ!!」
防がれることを予想していたテレジアは、星神器を展開。彼女の右手に、紅く燃えるような意匠が象られた大弓が姿を現し、ぼくに向けて炎の矢を番える。
同時にぼくを包囲するように高位精霊、ムスペルを四体召喚。全て視界から外れた位置に出現したせいで、魔力での探知しかできなかった。
「打ち砕きなさいッ!!」
同時に射出される五本の炎の矢。ムスペルから放たれた四本を氷の槍で相殺し、残る一本は軌道を変える前に氷の壁で進路を塞ぎ、打ち消す。
すごいな……わざと大袈裟に星弓を呼び出し、自分の右手に意識を集中させることで包囲する高位精霊への対応を遅らせる戦術。並大抵の魔導師なら今ので負けていた。
負け……そうか、テレジアには、負けることは許されないんだ。
「あだっ!?」
一瞬気の迷いが生じて、その隙に差し込まれたテレジアの追撃がぼくの頭に直撃する。
衝撃に倒れ込んで空を仰いだ。
ぼくが勝つわけにはいかない。勝ってしまったら、テレジアが死んでしまう。
だからもう、立ち上がりたくなかった。
「そこまで! 勝者、テレジア・リヒテンベルク!!」
ぼくの態度から続行の意志がないことを察し、クラウス先生が高らかにテレジアの勝利を宣言する。
少しだけ歓声が上がるけど、多くは突然倒れ、立ち上がらなかったぼくに困惑していた。
「強かったよ、テレジア。ぼくの負けだ」
「……は?」
テレジアの顔には怒りや悲しみ、憎しみと困惑、様々な感情が入り乱れた複雑な表情が浮かべられていた。
そりゃそうだ、この結果を君が納得できるはずがない。
「ふざけるなー!!」
「真面目にやれ!!」
「テレジア様を馬鹿にするなー!!」
客席からのブーイングは絶えない。だけどこれでいい、これでいいんだ。
ぼくの契約のスクロールが燃えて、テレジアの契約が発動する。絶対遵守の命令権はぼくだって逆らえない。だけど、何を命令されようと、テレジアが死ぬよりは断然良い。
「……なんですの、それは」
「守り切れなかったんだよ。君の勝ち、これで終わり、それでいいでしょ?」
「ふざけないで!! こんな形で、私は……っ!!」
テレジアの拳がぼくの左頬を捉えた。
口の中が裂けて、血の味が広がる。
痛い。身体強化の魔術解除してないだろこれ……。
「でも、そう来ると思いました。もう一度戦いなさい、イヴ・グレイシア」
「えぇ……なんで―――分かったよ、テレジア」
ドクンと、心臓が強く鼓動する。
頭ではテレジアとの再戦を拒否しているのに、ぼくの口は本心に逆らってテレジアに従った。絶対遵守の命令権……まさか、ぼくを退学させるでもなく、このために使うなんて。
「よろしいですわね、クラウス先生。契約のスクロールは不要です。もう一度審判をお願いしますわ」
「承知しました」
ぼくたちは再び所定の位置に戻って向き合った。
客席のざわつきはある程度収まったようでブーイングの嵐は落ち着いていた。
「両者、構え―――」
テレジアの命令権は再戦だけで効力を失っていたから、身体が勝手に全力を出すことはなかった。だけどどうして、彼女はあんなにもぼくの本気を望んでいるのだろう。
負けたら、死んでしまうんだろう?
「全力でぶつかりなさい。でなければ、あなたを殺しますわ」
怒りと憎悪に満ちた目を向けられて、ぼくは気圧される。
本気の殺意……それだけで、テレジアが背負うものがどれだけ大きなものか伝わってきた。
だけど……ぼくは、どうするべきなんだろう。
勝つことも、負けることもできない戦いを前に、ぼくはまだ迷っていた。




