第14話『王都に来てから』
「これが、あの里を出るまでのぼくの過去。ね、面白くもなんともなかったでしょ?」
一通り里での過去を語り終えたぼくは、一つため息をついて水筒の水で乾いた喉を潤す。
だいぶ長い話になってしまったからちょっとセナには申し訳なかった。
「イヴぅぅぅ……ひぐっ、ぐすっ、うぅぅぅ……」
セナは涙を滝のように流して号泣していた。
一体今の話のどこに泣ける要素があったんだよ。
「づらいでず、づらずぎまず……あまりにもイヴが可哀想で、私、わだじ……っ!」
「もう、泣きすぎ。ほら、涙拭いて」
ハンカチを差し出すと、受け取ったセナは涙を拭く前に鼻をかんだ。
鼻水が糸を引いている。涙拭いてって、ぼくは言ったんだけどな……。
語り始めて大体一時間くらい。車窓の景色は平原が続くばかりで、まだプラネスタは見えて来ない。これなら、王都に来てからの話もできそうだ。
「ここから先は、セナにも関係のある話だよ」
「えっ?」
「ぼくとリーナ……レイリーナの話になるから」
「……覚悟は、できてます」
セナは涙を拭いて、ぼくの前に礼儀正しく背筋を伸ばして座り直した。
リーナ……レイリーナ・ノクス・シルヴァリオ。王都に来て、人生ではじめてできた友達。
そして、セナの今の身体の持ち主。
ぼくはできるだけ感情を込めないようにして、淡々と語り始めた。
王都に来てから、灰都の火でリーナと、師匠と別れるまでの過去を。
◇ ◇ ◇
王都にあるアリシアさんの屋敷、イグナ邸は、まるで王族が暮らしているんじゃないかと思えるほど巨大な屋敷だった。
多分、敷地の中にぼくらの里がすっぽりと入るくらい広大で、ぼくは圧倒されていた。
アリシアさんに連れられて屋敷の中に入ると、アリシアさんの出迎えに一人の女性が姿を現した。長い黒い髪を後ろで一つに束ねた女性は、アリシアさんを見つけると駆け足で階段を下りてくる。
「おかえりなさい、アリシア。あれ、フィリアちゃんは一緒じゃないの?」
「ただいま、カナメ。残念ながら、フィリアは来れなくなってしまった。代わりに、この子を私の後継者にすることにしたから」
「ふーん……どことなくフィリアに似てるわね」
「フィリアの妹、イヴだ」
「こ、こんにちは……」
アリシアさんに紹介されて、ぼくはおどおどしながら挨拶をする。
里の人間以外の大人に会うのなんてアリシアさんを除けば初めてだったし、何より、気味悪がられるんじゃないかって怖かった。
「カナメよ。よろしくね、イヴちゃん」
カナメさんはぼくに手を差し出して、温かく迎え入れてくれた。
姉以外にはずっと冷たく扱われていたぼくは、それだけで泣きそうになった。
「うぇっ!? 私の顔そんなに怖かった?」
「そんなことないよ、カナメ。この子は他人に優しくされることに慣れていないだけなんだ」
「訳アリってことね。ってこの子ボロボロじゃない! どうしてこのままなのよ!!」
「え? そりゃあ急いで帰ってきたから―――」
「まずお風呂に入れるくらいしなさい! まったく、アリシアは魔術以外はほんっとにダメダメなんだから!! イヴちゃん、まずお風呂に入って着替えましょうか」
優しく語りかけてくるカナメさんに、ぼくはこくりと頷いて返した。
カナメさんに連れられて、浴場へと案内される。
お風呂場だけで地下のぼくの部屋の何倍もあった。ぼくはカナメさんに服を脱がされて、湯舟に入れられた。
あったかい……お風呂なんて入ったことあったっけ。七日に一度、姉に水浴びに連れていかれたくらいで、初めてだったと思う。
「ッ……!?」
お湯が傷に染みて、鋭い痛みがぼくを襲った。
生傷だらけの身体では、湯舟に浸かることすら難しかった。
カナメさんはぼくの身体を見て、ただ気の毒そうに顔を伏せるだけで何も言わなかった。
何も聞かれない方が、ぼくも楽だった。
「痛かったら言ってね」
「……大丈夫、です」
ぼくの身体を洗う間、カナメさんは傷に触れないように慎重に洗ってくれた。
それでも少し泡が傷に染みたけど、何とか声を上げずに我慢できた。
お風呂から上がって、カナメさんが用意してくれた服に袖を通す。
生地がしっかりしていて高そうな服だった。お姉ちゃんが着ていたものによく似ていた。
着替えが終わったら、ぼくは食堂に連れて行かれた。
細長い机には四つの椅子が用意されていて、ぼくはアリシアさんに一番近い席に座らせられた。
何もない机の前で座って待つこと数分、食堂の扉が勢いよく開け放たれて、一人の男性が声を荒げながら入室する。
「アリシア! お前またあの里の子供拾ってきてどういうつもりなんだよ!!」
「や、ただいまリツ。どういうつもりとは、どういうことかな?」
「とぼけんなアホ。フィリアじゃ器じゃねぇから後継者育成は諦めたんじゃねぇのか?」
「事情が変わったんだ。紹介するよ、この子はイヴ。フィリアの妹だ」
「いもうとぉ?」
リツと呼ばれた黒髪の男性は、顔を近付けてぼくをまじまじと見る。
目つきが鋭くて言葉遣いが荒い、少しだけ、父を思い出して怖かった。
「……フィリアの妹は魔法が使えないって話じゃなかったか?」
「事情が変わった、そう言っただろう?」
「あいつ、死んだのか?」
アリシアさんは肯定も否定もせず、ただ顔を伏せて俯いた。
「お前、名前は?」
「……い、イヴ・グレイシア、です」
「そっか……」
リツさんはそう言って手を上げた。
殴られるんじゃないかと思って、ぼくは目を瞑って歯を食いしばった。
こうすれば、少しだけ痛みが和らぐから。
だけどいつまで経っても拳は飛んでこなくて、その代わりに、頭の上にぽんと置かれた手が、不器用そうに左右に動かされた。
「がんばったな、お前」
堪えてきた感情をずっとせき止めていたものが崩れ落ちた。
「うっ……うぅぅ……っ、わぁぁぁああああああああああああああああ!!」
ぼくは今までで一番大きな声を上げて泣いた。
頑張った。なんて誰にも言われたことなかったから。
ずっと頑張ってきたはずなのに、誰も認めてくれなくて、誰も見てくれなくて、それでも必死に抗って、生きて、耐えて。哀れまれることは何度もあった。だけどもう、ぼくを褒めてくれる人は死んじゃったから。
だからリツさんのその言葉が、なんだかとても温かかった。
「うわぁ……マジかリツ、小さい女の子泣かせるなんて事案よ事案、あっちだったら児童虐待で警察よ?」
「はぁ!? 俺のせいじゃねぇし頭撫でんののどこが悪いんだよ!!」
「この子は優しくされることに慣れてないの! 急にそんなことされたら泣き出しちゃうでしょ!!」
「知らねぇよ聞いてねぇよ言っとけよバカ!!」
「言う前に勝手したのはあんたでしょ!?」
リツさんとカナメさんの喧嘩をにこやかに眺めていたアリシアさんは、しばらくしてパチンと指を鳴らした。
「さ、くだらない喧嘩はやめて、ご飯にしようか」
アリシアさんに従って、二人は自分の席に座る。
テーブルの上にはいつの間にか、豪華な食事が並べられていた。
食べたことも、見たこともない色鮮やかな料理の数々。固いパンとスープばかりだった今までとは大違い。お腹が空いていたのもあって、ぼくは思わずごくりと息を呑んだ。
「イヴ、フォークとナイフの使い方は分かる?」
「わからない……です」
「じゃあ私が食べさせてあげる! はいイヴちゃん、あーんして」
「あ、あー……?」
カナメさんはぼくの隣に椅子を持ってきて、目の前に並べられた料理を小さく切り分けて口に運んでくれる。
少し怖かったけど、ぼくは恐る恐る精一杯口を開いて、差し出された料理を食べた。
それは何かのお肉のようだった。とはいってもお肉なんて食べたことなかったから、何の動物なのかは分からない。すごく柔らかくて、噛んだ瞬間舌の上で溶けてなくなってしまった。
今までずっと何を食べても味がしなかった。ううん、違う。味を感じないように食べていたから、あまりに美味しくて、ぼくの目からは涙がこぼれていた。
「うっわカナちゃん泣かせたー」
「えぇっ!? ご、ごめんイヴちゃん、口に合わなかった?」
「……い、いや、そうじゃ、なくて。すごく、美味しくて……だから、こんなもの、ぼくが食べていいものじゃなくて、それで……っ」
結局、ぼくは用意されたご飯の半分も食べられず、お腹がいっぱいになってしまった。
アリシアさんが言うには、今までずっと限界状態だったから、少ないエネルギーを効率よく消費することに身体が慣れて、ご飯の量を受け付けないのだという。
なんとなく分かる気がする。一日中地下にいるとはいえ、流石に固いパンとスープだけでは生きるだけでいっぱいだった。
お腹が一杯になったら眠気が回ってきて、ぼくは用意された自分の部屋のベッドで眠った。
自分の部屋といっても、地下の部屋に比べたらずっと大きくて綺麗で温かかった。冷たい石の床とは違って、ふかふかの布団に包まれて眠るのは初めてで、あまりよく眠れなかった。
王都に来てから、一か月が経った。
その間、ぼくは様々なことを学んだ。
カナメさんからは、人の世界で生きていく上で必要な一般常識や、生活知識を。
リツさんからは、人が生み出した様々な魔道具の使い方や身を守る術を。
そしてアリシアさん……師匠からは、魔法とはまた違う力、魔術を教わった。
魔術は便利なものだ。魔法ほど強力ではないけど、しっかり学べば多少の才能の有無はあれど誰でも使える汎用性に長けている。里にこの技術があれば、ぼくが半端者だと罵られることもなかったんじゃないかと、一度は考えた。
ある程度教わったことが身についてきた頃、自由な外出が許されるようになった。
とはいっても故郷では自由なんてなかったから、ぼくはどうすればいいか分からなかった。
「友達、探してみようぜ」
リツさんがそう言った。
王都ではぼくと近い歳の子供が沢山暮らしている。だけどお姉ちゃんとイグナ邸の三人以外まともに喋ったこともなかったから、いまいち友達の探し方が分からなかった。
そもそも別に、友達が欲しいわけじゃなかった。
故郷で暮らしていた時も仲の良い友達なんていなかったし、そもそも地下にずっといたのだから、他人との接し方も分からない。まともに会話するのは姉くらいなもので、父からはぼくを罵倒する言葉以外を聞かされたことがない。
だから、師匠に拾われて一緒に暮らすようになってからもずっと独りだった。
誰の目にもつかない場所で一日過ごして屋敷に戻る。師匠には、友達と遊んでいたとそれっぽい理由をつけて誤魔化していたけど、実際はぼーっと空を仰いでいただけ。
その日も、一人で魔法の制御の練習をしていた。
王都外壁、今は使われていない監視塔の上で、青空に向かって多種多様な魔法を放つ。
そこまで大きな規模じゃないから、大体十メートルほど上で魔法は霧散する。
空中に漂う魔力の残滓がキラキラと星のように輝くのがとても綺麗だった。
そんな時だ―――
「すっごく綺麗な魔術ね!」
背後から女の子の声がした。
振り返ると、興奮した様子の少女が一人、空を見上げて目を輝かせていた。
故郷に広がる一面の銀世界を想わせる真っ白な髪と、太陽のような黄金の瞳。
姉と同じくらい容姿の整ったその子は、王都に暮らす子供とはまた違った雰囲気を纏っていた。
「ごっ、ごめんなさい!」
ぼくは咄嗟にフードを深く被り直して、少女から目を逸らす。
だけど彼女はぼくの反応がおかしかったのか、首を傾げていた。
「どうして謝るの? 私は綺麗だと褒めたのよ」
「師匠が、許可がないうちは人前で力を使っちゃダメって言ってたから……」
「衛兵じゃないんだもの、私は気にしないわ。それよりも今の魔術、もう一回見せて!!」
興奮冷めやらぬ様子の少女のお願いに、ぼくは俯いたまま首を横に振った。
少女はそれが不満だったのか、大きく頬を膨らましてぼくを睨んだ。
「じゃあ衛兵を呼ぶわ」
「それはズルいよ!?」
衛兵という存在をチラつかされると、首を縦に振るしかない。
ぼくはため息を一つつき、青空に向かって氷の槍、炎の矢、風の刃、土の塊を交互に打ち上げる。そのどれもが、空中で魔力の残滓に霧散して、また一面の青に星が浮かんだ。
「すごいわ! あなた、私と同じくらいの子供なのにもう四属性も魔術を使えるのね!!」
「い、いや、これは魔術じゃなくて……」
「違うの? じゃあなんて言うの!?」
「……魔法」
少女のあまりの勢いに気圧されて、ぼくはその名前を口にした。
「魔法?」
師匠曰く、人の世界には魔法の存在はあまり知られていないらしい。少女もピンと来ていない様子だった。
「分からないけど……あなたの魔法、とっても綺麗ね!」
少女は何の裏もない満面の笑みで確かにそう言った。
「……ぼくのじゃない」
これは、ぼくの力じゃない。
少女は多分、純粋な気持ちでぼくの魔法を褒めているのだろう。だけど元々魔法の使えなかったぼくは、なんだかそれがとても複雑だった。
いいや違う、これはぼくが正直になれないだけだ。本当に褒めてもらいたかった人はもういないのに、今更褒められても何も嬉しくなかった。
だから逃げ出すように少女の脇を通り過ぎて、監視塔の階段を駆け下りた。
次の日も、女の子は監視塔にやってきた。
人との距離感が分からないぼくからすれば、線引きしたはずの内側にズケズケと入り込んでくるその子の積極さは苦手だった。無視していればどうせいなく、いないものだと思って魔法の練習を続けた。
西の山脈に太陽が沈む。青かった空は夕焼け色に染まっていて、肌を撫でるような風が少し冷たかった。
「帰るの?」
「うわぁっ!?」
立ち上がると同時に、女の子に声をかけられる。
もうとっくに帰ったと思っていたから、ぼくは驚いて尻餅をついた。
「な、なんで、いるの……」
「あなたの魔法が綺麗だったから、時間を忘れて見入ってしまったの」
「暇なんだね……」
「そうなの。私、とっても暇なのよ! お父様がなかなか外出の許可をくださらないから友達もいなくて毎日が退屈なの!!」
「退屈な人は、そんな笑顔じゃないと思うけど……」
「だってあなたの魔法があったもの!!」
満面の笑みでそう答える少女の境遇は、なんだかぼくに似ていた。
といっても表情からぼくとは違うと物語っている。多分彼女は、とっても大切に育てられたんだと思う。怪我をするのが、傷ついてしまうのを恐れて親から外に出ることを許されないだけ。
ぼくとは違う。だけどそれでも、少しだけ親近感が湧いた。
「ねぇ、その魔法、私にも教えてくれない!?」
「……き、君には、無理」
「どうして?」
「魔眼が、ない……から」
それは、ぼくがずっと言われ続けていた言葉だった。
魔眼がないからマナが見えない、魔法が使えない。その事実を、魔法に憧れる誰かに突きつけるのは少し苦しいものがあった。
「魔眼……?」
「マナが見えないと、魔法が使えない。君には、そのマナを見るための、目が、ない。だから……無理」
「そう、それなら仕方ないわね。悔しいけど魔法は諦めるわ」
少女は、ぼくがずっと憧れていた魔法をあっさりと諦めた。
妙に割り切りが良いのが、少し羨ましかった。ぼくもあんな風に割り切ることができたら、魔法に拘らず、姉を失うこともなかったのかもしれない。
「ねぇあなた、名前は?」
「い、イヴ……」
「イヴ……そう、とっても素敵な名前ね! 私はレ……リーナよ! ただのリーナ!! お友達になりましょう、イヴ!!」
リーナ。そう名乗った彼女は、ぼくに手を差し出した。
友達……友達なんて、生まれてから一度もできたことなかった。だから凄く難しいのかなって思ってたけど、ぼくの人生最初の友達は案外あっさりと見つかった。
それからリーナは毎日のように監視塔にやってきた。
お昼から日か沈んで夜になるまでずっと、ぼくたちは他愛もない話で盛り上がった。
リーナは王都の外に出たことがなかった。だからぼくの故郷の話はとても興味深いようで、呼吸を忘れるくらい集中して聞いていた。
深窓の令嬢……という表現が正しいのかは分からないけど、リーナはまるで物語のお姫様のようだった。
特に盛り上がったのは、勇者アルトリウスの伝説の話。
リーナはアルトリウスの物語が大好きだった。
「私もいつか勇者になって、アルトリウスのような冒険をするの!」
と、口癖のように言っていた。
師匠に命令されたこと以外、生きる理由も目的も、将来の夢すらもなかったぼくは、しっかりとした夢を持っているリーナが羨ましかった。
リーナが言うには、この国には『勇者』と呼ばれる称号があるらしい。
魔術を扱う者―――魔導師の中で、星神器という伝説の武器に選ばれた七人だけがその称号を与えられる、魔導師ならば誰もが憧れる至高の領域、それが勇者だ。
ただし、星神器の中で最も気難しいとされる星剣ユスティアだけは、この千年間誰一人として扱うことができなかった。だから勇者の席は実質六つ。リーナは、この国で最も優れた六人になろうとしているのだ。
「イヴには、夢はないの?」
「……ない」
「どうして? なりたいものとか、ないの?」
「……うん。だってもう、欲しかったものは沢山貰ったから」
魔法、友達、家族、温かなご飯、ふかふかのベッド、普通の……生活。
ずっと小さな世界で生きてきたから、ぼくには将来の目標がなかった。
ぼくが欲しかったものは、ずっと手を伸ばしていたものは、もう手に入れてしまったから。
「ダメよイヴ、もっと貪欲にならなくちゃ!」
「えっ?」
「目標は常に更新し続けるものよ。でないと、とってもつまらない人生になってしまうわ」
「リーナの言うこと、全然わかんないよ」
「あれができるようになったら、次はこれをやってみよう。そうやって何かに挑戦し続けないと、人は歩みを止めてしまう。歩みを止めた先に待つのは、ゆるりとした滅び。だから人は、常に自らができないと、不可能だと思う壁に挑戦し続けることが大切なの」
昔、なんだか似たような意味の言葉を聞いたことがあった。
その時、監視塔から王都を見下ろすリーナの背中に、姉の姿が重なって見えた。
そうだ……多分あの時、お姉ちゃんが言いたかったのはこういうことなんだ。
「だからイヴ。あなたも、将来の夢を探してみましょう?」
「……見つかるかな」
「きっとすぐ見つかるわ! だってこの世界は、こんなにも大きいのよ!!」
リーナがその場で振り返り、両手を飛び立つ鳥の翼のように大きく広げる。
偶然風が吹いて、リーナの長い髪とぼくの前髪を揺らした。
視界が晴れる。ぼくの目に飛び込んできたのは、どこまでも続く地平線だった。
ずっと、狭い世界で生きてきた。
俯いてばかりで何も見えない小さな世界だった。
だけどリーナと出会って、世界がこんなにも大きくて広いのだと気付かされた。
探してみよう。ぼくも、この世界で出来ることを。
師匠に命令されたことだけじゃない。ぼくがこの世界で生きる意味を、見つけるんだ。