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メモ

作者:

 ぼんやり、白く光ってる。久しぶりに顔を上げた気がする。昔は毎日眺めていたな、と思う。スニーカーの汚れが目に入る。もう何か月も前から、気付いてはいるけど放置している汚れ。どこに向かっているのか、全く分からない。ただ、とにかく進まないといけない気がして。まるで、進まないと大切な人を殺すとでも脅されているかのように。いや、大切な人なんていないか、って自嘲。小さなカニとすれ違う。あいつ、なんでこんなところ歩いてんだよ。………。そろそろ戻ろう。こんなことをしている場合じゃない。


 ただいまと靴を暗闇に投げ捨てる。ため息と同時に部屋の明かりをつける。ぐちゃぐちゃの洗濯物とごみの散らかった机をなるべく目に入れないようにしながら、ベッドの上に腰を下ろす。疲れた。疲れた。疲れた。スマホを片手に、莫大な情報をなんとなく詰め込んでみる。つまんない。机の上にあるゴミを押しやって、ノートを開く。5年前から細々と続けてる日記。日記と言って良いのか、愚痴帳と言った方が正しいかもしれない。開いたはいいけど、別に書きたいこともなくて、過去をぺらぺら遡る。大変そうだなって他人事のように思って、ノートを閉じる。目の前にある瓶をなんとなく手に取って、あとどれくらい薬が残っているのか確認する。


 白い花が咲いている丘。手元のバスケットにはサンドイッチと、あたたかい紅茶が入った魔法瓶と、数冊の本が入ってる。花の香りを乗せた風が頬をくすぐって心地いい。大地と繋がる瞬間。私が満ちる瞬間。ここに私を否定するものはいない。それどころか、歓迎さえしてくれる。軽率に、この場所が好きだなんて思いながら、腰を下ろす。バスケットの中からお気に入りの一冊を手に取る。こうやって、何度も同じ本を読むから、積読本が増えるんだよって自分で自分に突っ込むのは何度目だろう。数ページ読み進めると、そう思っていたことも忘れた。つまらないと言われがちなこの物語の中には悪者はいなくて、みんなが仲良し。現実で「みんな仲良し」なんて聞くとゾッとするけれど、だからこそ虚構の世界ぐらい、「みんな仲良し」であってほしいと願うのは私だけなのだろうか。つまらないと評価されるのはきっと、悪者も、悪者を倒すヒーローもいない、言うなれば何も起こらず単調な、物語性の無い物語だからだと思う。それはつまり、誰かが誰かを倒す話を面白く感じるということで、そんな人間という生き物に嫌気がさす。


 本から目を上げると、コンビニ総菜のゴミとか空いたペットボトルとかと一緒に薬瓶が転がってる。薬を全部取り出して、数を数える。全然足りない。買い足しに行かないと。明日、雨じゃないといいのだけど。

走り書き

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