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HUNTER  作者: 沙伊
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第二十八話 背徳<上>




「全く期待外れだな」

 金髪の青年は呟いた。

「もう少し手応えがあると思ったが」

「しかたがありませんよ」

 隣に立つ黒髪の青年は、苦笑を浮かべた。

「彼らは一応一般人です。僕達とは違いますよ」

 二人の会話は軽い。ファーストフード店か、またはそういうたぐいの店でだべっているかのようだ。

 しかし場所は、そんな明るい場所ではなかった。

 寺の境内である。しかも深夜だ。おおよそ、十代がいるべき場所ではない。

 しかし二人はそこにいて、その場に不釣り合いな会話を交わしていた。

 足元に、僧達の死体がいる状態で。

 死に様はそれぞれ、焼死か溺死である。本来同時に出現するはずの無い二種類の死体が、そこに存在していた。

「う、ぐぅ……」

 その中で、かろうじて息のあった若い僧が、焼けただれた腕を伸ばした。それを見て、金髪の青年は「ほう」と歓声を上げる。

「まだ生きていたか。火加減が弱かったのか?」

「お、おまえら……一体……」

 僧は涙がにじむ目で二人を見上げた。それを受け、二人は答える。

 ただ一言だけ、短く自分達の身分を明かした。

「『使徒』」

 それを理解する間も無く、僧の命は尽きた。


   ―――


 妖偽教団との戦いから、一ヶ月と少したった。

 流星の周りは、おおむね平和である。

 世間では何やら物騒な事件が起きたりしているようだが、流星には関係無い。

 梅雨の名残でじめっとした夏の空気に辟易しつつ、校門をくぐった。

 半そでになったシャツが汗でくっつく。それが嫌だと思いつつ、それ以上の感想は抱かない。

 日陰側にある教室に入ると、外より幾分かすずしくなり、ほっとした。

「流星、おーす」

「おぉ……今日も暑ぃなぁ」

 流星は友人の声に答え、席に着く。枕につっぷすと、友人達が近付いてきた。

 それぞれ口勝手に暑さがありえないとか温暖化とか冷房入れろとか言っている。それを聞きながら、流星は「平和だなぁ」と口の中で呟いた。

 これこそ自分が求めていたものだ。平和で穏やかな日常。それが自分のいるべき場所である。

 流星はしみじみとそう思いながら、ふと、昨日の担任の話を思い出した。

「そういやさぁ、今日転校生くるんだっけ? 季節外れの」

 問えば、「あぁ」と卓人(タクト)が頷いた。

「イタリアからだっけ? 女の子だといいなぁ」

「うわ、発言キモッ」

「うっせ。でも、男だとしても面白くね?」

 卓人の言う通り、この時期の、外国からの転校生とは珍しい。話のネタにはなりそうだ。

 流星がそう思っていると、チャイムが響き渡った。

「おーい、朝礼始めるぞー」

「うわ、やっべ。俺戻るわ!」

 担任と入れ替わりに友人が二人、教室を出ていく。それを見届けつつ、流星は座り直した。

 担任の方を見れば、隣に青年が一人、突っ立っていた。

 金色の髪だ。小柄で細身、身長は百七十センチも無いのではなかろうか。ここの制服ではなく、私服を着ている。

 燕尾の白いシャツにモノクロチェックのネクタイ、黒いズボンに白いベルト。ネクタイピンとバックルは銀色で、十字架をかたどっていた。

 悠が着てそうな服装だ。もっとも彼女なら、下はズボンではなくミニスカートだろうが。

「えー。彼が転校生のクラウディオ・ロッシーニだ。イタリアから来た。文化や言語の違いが壁になるかもしれないが、仲よくするように」

 担任のそういう紹介と同時に青年――クラウディオ・ロッシーニは正面から向いた。

 額を完全に覆うほど長い前髪から覗く大きな瞳は光加減によっては金色にも見えるオレンジ色で、顔立ちは整っている。しかしどちらかと言えば、可愛らしいという印象を受けた。女性的な印象とも言う。

「……よろしく」

 クラウディオは軽く頭を下げただけで黙り込んだ。緊張しているのか、それとももともと口数が少ないのか、どちらにせよ随分無愛想だ。

「席は……華鳳院の隣だな」

「へ?」

 流星は驚いて自分の隣を見た。なるほど確かに空席だ。

 クラウディオは先程の反応で解ったのか、迷い無くその席に近付いた。

「あ、よろしく」

 座ったクラウディオにあいさつをすると、彼は流星に視線を向けた。

 それだけである。何も言わず、むしろ不快げな顔をされてしまった。

 憮然とする流星だったが、いきなりポケットの中の携帯が鳴り出したために意識をそちらに向けた。

「くぅおら華鳳院! 電源切っとけっ。携帯没収すんぞ!!」

「うっわ、それだけはカンベン!」

 流星は慌てて通話ボタンを押す。

『あ、流星』

 悠だった。相変わらず非常識な時に電話してくる。

「何だよ、また依頼か!?」

『そう。すぐ事務所まで来て。それじゃ』

 一方的に切られてしまった。

 静まり返る教室。皆の、特に担任の視線が痛い。

「……華鳳院」

「……」

「さぼるなよ?」

「……先生、マジカンベン!」

 流星は鞄をひっ掴んで教室を出ていった。

 後ろから怒声が聞こえた気がしたが、耳を塞ぐ。

 学業より仕事を選ぶ。それが華鳳院流星という男だった。

 ――もっと正確に言うなら、学業より恋を選ぶ男である。


   ―――


「それは災難だったね」

 ソファーに座った悠は流星の文句に対し、そう言った。

「災難だったね、じゃねぇよ! 俺もうほとんど学生じゃなくなってんよ!? せっかく妖偽教団との戦いが終わったのに……」

「大丈夫。恭兄も行ってない」

「あいつは療養中じゃねぇか!」

 というかと、流星は前々から気になっていたことを、とうとう訊くことにした。

「その……おまえは、中学、行ってないのか?」

「……行けるわけないでしょ」

 悠は苦笑をもらした。

「一人でこんな仕事してるからね。学校行っててもまともに学業ができるわけない」

「今の俺みたくか」

「まぁね。それに行く必要も無いんだよ。私は小学生の時点で、高校レベルの勉強をパスしてるんだから」

 なかなかむかつくセリフだ。だが、おそらく事実だろう。なんせあの恭弥の妹である。

「それで……今回の依頼は?」

「あぁ、うん。ちょっとこれ、見てくれる?」

 そう言って渡されたのは、一枚の写真だった。建物が一つ写されている。

「これ……教会か?」

 屋根のてっぺんに付いた巨大な十字架を見てそう言うと、悠は細い顎を引いた。

「そう。街の外れにある、割と昔からある古い教会なんだけど、どうも最近、そこに通ってる信者がいなくなるらしいんだよ」

「いなくなる? どういう意味だ?」

「文字通りの意味」

 悠は肩をすくめた。

「依頼人はある男性。恋人がいなくったために警察を頼ったんだけど、三日後、彼女は死体になって発見された。異様な姿となってね」

「異様な姿?」

「頭皮を、丸ごと剥がされていたんだよ。髪の毛一本残ってなかった。それから」

 ここで悠は顔をしかめた。普段はグロテスクな話を平気で話すのに、珍しい。

「……話したくなかったら、話さなくていいぞ」

 流星がそう言うと、悠は「大丈夫」と首を振った。

「……理由は解んないけど、彼女は子宮を丸ごと盗られてた」

「子宮? 何で?」

「解らない。問題は、頭以外で外部に傷跡が無い(・・・・・)というところだよ」

「え、傷跡が無いって……」

 そんなはず無い。内蔵を抜き取るなら、身体を斬らなければならないはずだ。

(あ、気持ち悪……)

 自分の想像に気分を害する流星だった。

 悠はどうやら、子宮うんぬんのところが言いにくかったようである。同性として、思うところがあるのだろう。

 流星は「それで」と話を進めることにした。

「うちを頼ってきたのか?」

「うん。調べてみると、その人だけじゃないんだよね。行方不明になった人」

 悠は長机に置かれた資料を手に取った。

「二人は死体となって発見されてるけど、五人ほど、まだ見付かってない。死体の方は、内蔵と身体の一部が無い」

「もしかして、全員女?」

「勘がいいね。そう。被害者は十代後半から二十代前半。中には、流星と同い年の娘もいるみたい」

 悠の話に、流星は自分の表情が険しくなっていくのを感じた。

 とにかく気分が悪い。これで妖魔が関わっておらず、ただの人間の所業だったら、気分は最悪だ。

 もっとも妖魔は人間の心から生まれるのだから、つきつめれば全て人間のせいなのだけれど。

「……ちなみに、犯人の目星は」

「ついてるよ」

 おそるおそるの質問に、悠はあっさり答えた。

「その教会の神父だよ。まだ確定ではないけど、十中八九彼だろう」

「神職者が殺しか……世も末だな」

 流星がため息をつくと、悠はソファーにもたれかかった。

「結局のところ神も仏もいないわけだよ。いるなら、この哀れな殺人鬼に天罰が下ってるだろう。けど彼はぴんぴんしてる」

 理不尽な世の中だ、と呟く悠は、皮肉げな微笑を浮かべていた。

「それすら見惚れるほど美しいのだから、全く詐欺だと流星は思った。

「……で、今日はこの教会に行くのかよ」

 どぎまぎしてしまったことをごまかすように問うと、悠は「まぁね」と答えた。

「下見だよ。制服じゃ目立つから、着替えてね」

「つうか、それだったら俺、いらなくね? そもそも着替えなんて持ってねーし」

「あるよ」

 悠はそう言い、ソファーの脇に置かれていた紙袋を渡してきた。中身を見ると、黒地に赤いラインが入ったTシャツと、デニムのズボンが入っている。

「……用意いいな」

「まぁね」

 ふふん、と鼻を鳴らす悠。色々ツッコみたいところだが、今はとりあえず黙っておくことにした。

「……あぁ、そういや犯人らしき男の顔どんなだ?」

 ふと思い、訪ねてみると、悠はまた写真を一枚寄こしてきた。

 受け取り、見てみると、思ったより若い外国人男性が写っていた。

 隠し撮りされた写真なのだろう。顔はレンズを向いておらず、あらぬ方向を見ている。

「……外国人? いや、ハーフか?」

「うぅん、生粋のイギリス人。名前はジョン・ディグル。その教会の神父だ」

「へぇ。シスターとかは」

「そのシスターが、いなくなった女性の一部だよ」

 悠の返答に、流星は訊かなければよかったと後悔した。

「まぁ、何はともあれ」

 悠は立ち上がり、髪を後ろに払った。

「そろそろ行こうか」

「え、俺まだ着替え……」

「下で待っとくから、早くね」

「お、おう」

 流星は慌てて紙袋から服を取り出す。悠は背を向け、そのまま部屋を出ていった。





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