表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
HUNTER  作者: 沙伊
20/137

    Ripper<中>




 朱崋が悠の元に行く二十分前――


 流星は山下と卓人と共に帰路についていた。

「大丈夫かよ、流星。まだ顔色悪ぃぜ」

「あー……一日したら治るって」

 流星は山下にひらひらと手を振った。


 言えない。

 まさか、悠にフラれたイライラを解消するために、ゲームしまくって寝なかったって。

 しかも、しすぎて画面酔いしたって!


 流星にもプライドというものがある(レンガ一つ分級)。

 言ったら、笑われるのがオチだ。

「なぁ、近くのゲームセンター寄らね?」

「え゛。いや、俺パス」

「んだよ。流星ノリ悪ぃなぁ」

 山下はつまらなそうに舌打ちした。

「そうイラつくなって。流星体調悪いんだし」

 卓人がフォローに入った。

「ところでさぁ……おまえ、女の子にフラれたらしいけど、誰よ?」


 卓人いい奴って思った俺、事故れ。


 流星は内心でそう一人ごちた。

「誰って……おまえら知らねー奴だし」

「バイト先の娘か?」

「まぁ……一応」

「年下?」

「おう。……ておまえら、何でそんなことまで」

「興味」

「その娘狙い」

「山下てめえぇぇぇ!!」

 山下の胸ぐらを掴みかかる流星を、卓人が羽交い締めにして止めた。

「お、落ち着け流星!」

「離せ卓人! 俺はこいつを殴るっ」

 道行く人達が、流星達を好奇の目で見つめた。

 それに気付かず、山下が怒鳴り返す。

「いいんじゃんかよっ。流星フラれたから関係無ぇし!」

 流星はぐっと言葉につまった。

 確かにフラれたし、もう関係無いかもしれない。

 だが、諦めがついてないのだ。

 自分を、どん底から引っ張り上げてくれた、あいつを。

「っ……俺は」


 ドパッ


 目の前で、血が舞った。

 山下の右肩から左腰にかけて、ぱっくり切り裂かれている。そこから血が吹き出していた。

「や、まし……た……?」

 山下の血が、流星と卓人の制服を濡らした。


「う……うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 卓人が叫ぶのと同時に周りの人々が蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。

 ぐらっと山下が血の池に倒れ込んだ。

「や、山下! おい、しっかりしろっ」

 流星は慌てて山下を起き上がらせた。

 山下は動かない。目の瞳孔は開ききっていて、ピクリともしない。

 息も、してない。

 流星は呆然とした。

「り、流星……」

 卓人の消え入りそうな声に、流星は振り返った。

「これ、何の冗談? ドッキリかよ……趣味悪ぃぜ」

「卓人……」

「だってそうだろ? こんな、こんなことマジで起こるわけ……」

「! 卓人、危ねぇっ」

 流星は卓人を引っ張って一緒に地面に伏した。


 ビュゥオッ


 背中の上を何かが通過した。

 しばらくして、すぐ後ろにあった店の鉢植えが、まとめて三つ、真っ二つにされた。

「! 何だ、今の!? 何が起きたんだっ」

 卓人が喚いた。

 流星は鞄の中に手を伸ばした。

 鞄には、煌炎が入っている。返さずそのままになっていたのだ。

 おそらくこれは妖魔の仕業。倒せなくても、逃げることはできるはず。

 また風切り音が鳴る。

 流星が煌炎を抜く前に、目の前に銀毛が広がった。


 バシィィッ


 かまいたちが四散した。

「ご無事ですか? 流星様」

「し……朱崋!?」

 流星は尾を盾にした朱崋に、目を瞬いた。

「!? 何だ、このコスプレ女子っ」

「いや、コスプレじゃねーし」

 流星は思わず卓人にツッコんだ。

 あの耳しっぽは本物で……でも、信じるわけないよな。

「おまえ、そんな趣味あったのか。女の子に猫耳付けるとか、オタクかよっ」

「勝手に人の趣味捏造すんなーーー! しかも猫耳じゃねぇしっ」

 ガーッと怒鳴った流星だが、現状を思い出した。

「朱崋、山下がっ、俺の友達が!」

「……無駄です」

 朱崋は、僅かに顔をうつむかせた。

「もう、亡くなっておられます」

「そんな……!」

 流星は、全身から力が抜けたような気がした。


 また、死んだ。

 また、いなくなった。

 俺の前から、俺の前で。


 呆然としている流星に、一瞬だけ視線を向け、朱崋は前に向き直った。

「出てきなさい。いるのは解っています」

 何も出てこない。

「場所は『臭い』で解っていますよ。焼き殺されたいのなら、動かなくても結構ですが」

「……ククク」

 空間が歪んだ。

「狐ぇ……生意気な口きくじゃんかよ」

 現れたのは、流星より年下の少年だった。

 しかし、ただの子供じゃないのは見ただけで解る。

 つり上がった目は殺気でギラギラ光り、口元には凶悪な笑みが浮かんでいる。こんな子供が普通なわけない。

「おまえに用は無ぇんだよ。消えるか死ぬか、どっちか選べ!」

「どちらも選べませんね。私は、主の命令でここにある」

 流星はハッとして顔を上げた。

「悠の命令で……?」

 なぜ? もう関係無いんじゃないのか。もう、もう……

 朱崋がこちらを見た。

 何か言おうとして、口を開いた時――


 ザンッ


 朱崋の肩から、鮮血が吹き出した。

「朱崋!!」

「っ……」

 朱崋は肩を押さえた。それでも血は止まらない。

「甘いぜ狐。敵から目を離すなんてよ」

 少年は右腕を持ち上げた。

 手首から先が、手じゃなくなっている。

 黒光りする、鎌のようになっていた。

「かけ声で戦いが始まるとでも思ったか? これは殺し合いだぜ」

 ギチリ、と笑い、少年は腰を落とした。

「気ぃ抜いたらあの世行きだ!!」

 少年が走り出した。

 朱崋は肩を押さえながらも、尾を持ち上げようとした。


 ボボウゥッ


 火の塊が、少年の鎌の手に当たった。

「……流星様?」

 朱崋はゆっくり振り返った。

 流星は真っ青な顔をしていた。青い顔のまま、煌炎を構えていた。

「……許さねぇ」

 流星はぎり、と奥歯を噛み締めた。

「今のかまいたち……さっきと同じだ」

 朱崋を押しのけて、流星は前に出る。

「山下殺したのもっ、おまえだろ……」

「……あぁ?」

 少年は目線を、山下の亡骸に向けた。

「そのゴミ?」

 流星の中で、何かが切れた。


 ボオオォォォォ!!


 煌炎の炎が、一気に肥大した。

「う、うわぁっ」

 卓人が悲鳴を上げた。



 まずい、と朱崋は焦った。

 炎が、抑えられないほど大きくなっている。

 煌炎の炎は、使い手の霊力に呼応する。流星のように霊感の強い者の炎は、かなり巨大になる。

 ましてや、怒りで我を忘れた彼の力は、煌炎の許容量を越えるかもしれない。

(悠様に、報告しなければ……)

 朱崋は意識を集中させた。出血のせいで、景色が揺れる。

(どうか、間に合って……)

 朱崋の姿が、その場から消失した。


   ―――


 流星は走り出した。

 煌炎の炎が、長い刃の形を形成する。

 それを突き出すも、少年にあっさりよ避けられた。

「手間はぶけた。あんたから向かってくるとはな、華凰院 流星!」

 少年は声を張り上げた。

 流星は少年に向かって炎のかまいたちを放った。

「おまえを殺せば、親父も少しはむくわれる!」

 右手の鎌でそれを斬り裂き、少年は両腕を振った。

 かまいたち二発、発生する。一つは避けられたが、もう一つは左の二の腕を浅く斬った。

「っ……親父だと?」

「そうだ!」

 少年は笑みを消し、怒りの表情を浮かべた。

「忘れたとは言わせねぇ。一ヶ月前! 椿 悠に殺された妖魔を!!」

「――!」

 流星は怒りを忘れ、驚愕した。

 一ヶ月前に悠が狩った妖魔といえば、一匹しか思い当たらない。


 俺の家族を、殺した妖魔。


 その男は、ふらりとやってきた。

 対応したメイドを殺し、他の使用人さえも喰い殺した。

 その家の主一家が、一番酷かった。

 皮を剥がされ、体内をあばかれただけでなく、内臓全てを喰われ、全身をバラバラにされた。

 無事だったのは、部活で遅くなっていた、一家の一人息子だけ。

 父も母も祖父も、全員喰い殺された。

 人の皮を被った、妖魔によって。


「親父の狙いはおまえだった。椿 悠がいなけりゃ、おまえを喰えたんだ! 死ぬこともなかった」

 少年はギロリ、と流星を睨んだ。

「許さねぇ、おまえも椿 悠も! 内臓引っ張り出して、蛆虫の餌にしてやるっ」

 かまいたちが、少年の周りに無数に発生した。

「おまえ、妖魔と半妖の違いを知ってっか?」

 少年はギタッと笑った。

「妖魔は周りの人間の心に影響して、強くも弱くもなる。だが、俺達半妖は、己自身の闇で強くなんだよ」

 かまいたちを背負うような姿の少年に、流星はぞっとした。

 このかまいたちを受けたら……俺はただの肉塊になってしまうだろう。

「今の俺は最高に強いぜ。おまえらの恨みでなぁ!」

「っ……」

「ただじゃ殺さねぇ。斬り刻んで斬り刻んで斬り刻んで斬り刻んで斬り刻んで殺してやる!!」

 かまいたちが目前に迫る。

 よける、という選択肢が頭をよぎったが、後ろに卓人がいることを思い出した。

 朱崋も、気付けばいなくなっている。

 つまり、卓人には防御手段が無いのだ。

 よければ、こいつまで死ぬ。

 流星はかまいたちに向かって煌炎を振った。

 炎のかまいたちが、空中で爆炎をまき散らす。

 やった、と思った瞬間、煙を斬り裂いてかまいたちが迫ってきた。

「な!?」

「ブァカ。俺の攻撃がその程度で消えるか。死ねよ!」

 少年の声に応じるように、かまいたちのスピードが上がる。

「くそっ」

 流星は卓人の首根っこを掴んで走り出した。

「……っあ゛!!」

 流星は声を上げた。

 肩と足に感じる激痛。次の瞬間、地面に倒れ込んでいた。

「流星! ち、血がぁっ」

 卓人が叫んだ。

 同じく地面に倒れ伏してるが、怪我はしてないようだ。

 流星は立ち上がろうとして、あまりの痛みに目を見開いた。

 右肩と右足、痛みからして、背中にも傷を負ったようだ。

「バッカじゃねぇの? 逃げられるわけねぇじゃん」

 少年は嘲笑を浮かべた。

「今度こそ死ねよ。そのクズ友達と一緒にな!」

 少年は両手を振った。

 クロスされたかまいたちを見て、流星は唇を噛む。

 今度こそ避けられない!

 無数のかまいたちが、流星達に迫る。

 流星はギュッと目を閉じた。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ