春のビキニ・アーマー幸せ着こなしファッション・ブック~悪役令嬢コーデに合わせたい方、必見!
微エロ感はありますが、微笑ましく爽やかなラブコメの雰囲気レベルで、新鮮な春の息吹を漂わせた仕上がりになっております(違ったらごめんなさい)。
魔界のプリンスは当惑していた。
「果たし状? 魔界学園の体育館裏で待つ? なんだこれ?」
従者が事情を説明する。
「その果たし状は、転校生の悪役令嬢がプリンスの靴箱に投げ入れたものでございます。あの女は、プリンスがいずれは魔界の王になるお方だと知り、恐れ多くもプリンスを倒し、この魔界の王になろうと企んで決闘を申し込んできたのです」
魔界のプリンスは呆れた。
「学校の番長を決める不良じゃあるまいし、そんなことやってられるか。それに、今日もデートで忙しいんだ」
長身の瘦せマッチョで超絶イケメンそして頭脳は優秀スポーツ万能である魔界のプリンスはモテてモテて大変だった。悪役令嬢を名乗るスケ番と学校の裏で戦っている暇はないのである。
従者から渡された果たし状を引き裂こうとしたら、中から一枚の紙が落ちてきた。プリンスは紙を拾い上げた。それは顔写真だった。美しい女性が冷ややかな目で彼を睨んでいる。
「この女は?」
従者は言った。
「これが果たし状を送り付けてきた転校生の悪役令嬢にございます」
「果たし状に自分の写真を同封してきたのか?」
「そのようで」
自分を睨みつける写真の悪役令嬢と睨み合うこと数秒……魔界のプリンスは従者に尋ねた。
「今日のデートの相手は、誰だったかな?」
「異世界宇宙を創生した根源悪のご令嬢様であらせられます」
「政略結婚希望の相手だったな。彼女も美人で清楚なところが魅力的だが、それとは正反対の悪役令嬢の方が面白い女という予感がする。彼女には悪いが、そちらのデートの相手は影武者に代行してもらおう」
魔力で動く木偶人形がプリンスの代役として異世界宇宙を創生した根源悪の美人令嬢とのデートへ出発した。女嫌いで不愛想な本物より、こちらの代役の方が女性に優しくて好評なのだが、それはこの際どうでもいい。かくして魔界のプリンスは指定の時刻に待ち合わせ場所である魔界学園の体育館裏へ向かった。そこは告白すると九割以上がオーケーとなると噂される学園の伝説的デートスポットで、在学生である彼も何度か呼び出されていた(ちなみに告白成功率が百パーセントにならないのはプリンスが求愛を断るからだった)。いつもは何組かのカップルがいるが、今日の利用者は一組だけだった――プリンスと悪役令嬢である。
待ち合わせの相手、悪役令嬢が怒鳴る。
「遅い! この私を一体いつまで待たせるつもりなの!」
「時間ちょうどだよ」
そう言って魔界のプリンスは悪役令嬢を観察した。編み上げブーツにカーキ色の乗馬ズボンを穿き、白いブラウスを着て長い髪を背中に垂らし、手には短い乗馬用鞭を握り締めている。動きやすそうな格好ではあるけれど、ちょっと違和感があったので、相手に訊いてみた。
「その格好で俺と戦う気なの? それとも乗馬するの?」
悪役令嬢はせせら笑った。
「この鞭で、あんたのお尻をペンペンしたげる。泣いたって許してあげないんだからねッ」
「そんなのお断りだ。戦う前に言っておく。俺を倒して王になるつもりらしいが、それなら直接、今の王を倒した方が早いぞ」
指摘を受けた悪役令嬢は不愉快そうに言った。
「今の王って、凄くキモい。何なのアレ! 触りたくもないし、口を利くのもイヤ! アレ、あんたのパパでしょ。何とかして。あれじゃ戦えない。あんたの方がまだまし」
酷い言い方だった。実はナルシストである父王が聞いたら、どれほどショックだろう……と魔界のプリンスは父を憐れんだ。
「事情は分かった。だが、それで俺を倒そうというのか? 迷惑な話だ」
「魔王はキモくていじめがいがないの。あんたの方が正ヒロインっぽいんだもの、闘志が湧くってもんよ」
「そんなこと言われたって嬉しくも何ともない。大体にして、王になるより悪役令嬢を一生やっていた方が楽しいぞ。王には責任がある。悪役令嬢には何もない。空っぽの頭でも務まる。何もしないで、おーほっほっほって笑ってりゃいいんだからな」
悪役令嬢の美しい顔が憎悪に歪んだ。
「この美しい私が頭空っぽだって言うの!」
「アニメやゲームに出てくる女戦士みたいにビキニアーマーを着て決闘に来ないだけの頭はあると思うが」
「びびび、ビキニアーマーなんて、着てくるわけないじゃない! そんなの着る悪役令嬢なんて、いるわけなくってよ!」
「普通は、そうだよね」
そう言って魔界のプリンスが頷いた直後、悪役令嬢は乗馬用の短い鞭を振るった。すると、魔界のプリンスの足元の地面にポッカリと穴が開いた。次の瞬間、プリンスの体は穴の中へ落ちて消えた。悪役令嬢が再び鞭を振るうと、開いた穴が閉じた。何もかも元通りである。プリンスが消えた以外は。
悪役令嬢は笑った。
「おーほっほっほっ、何が魔界のプリンスよ! 口ほどにもないぃぃぃ」
言っている最中に悪役令嬢の足元に大きな穴が開き、彼女は落下しかけた。大きく足を開き、穴の縁に両足を引っかけ、辛うじて墜落を免れる。だが、その姿勢で固まってしまう。穴から離れるためには足の位置を変えないといけない。だが、足を踏ん張っていないと、落ちてしまうのである。
悪役令嬢は乗馬鞭の魔法が誤作動したと思った。そこで乗馬鞭を使い、魔法の穴を閉じようとした。そのときである。穴の中から出てきた魔界のプリンスが、悪役令嬢の手をガシッと抑えた。
「なにすんのよ!」
「この鞭が問題だな、寄こせ!」
「いやっ、この汚い手を放しなさい!」
「うるさい!」
魔界のプリンスは悪役令嬢から鞭を奪い取った。その際、悪役令嬢は突き飛ばされ地面に倒れ込んだ。鞭を奪ったプリンスが楽しそうに言った。
「形勢逆転だな」
倒れた悪役令嬢が凄い目で睨んだが、魔界のプリンスは気にも留めない。
「プリンスの俺は魔界の紳士なんで、サディスティックな趣味はない。だがな、悪役令嬢! お前だけは別だ。この鞭でお尻をペンペンしてやる。泣いても許さない。お前みたいな悪役令嬢に虐められて泣いた正ヒロインたちの分まで虐めてやる」
悪役令嬢は這って逃げようとした。その尻を魔界のプリンスは鞭で叩く。ぶ厚い乗馬用ズボンが破れた。プリンスが面白がって何度も叩いたものだから、ズボンはすっかり破れてしまった。それでも手加減しているようで、悪役令嬢のお尻の柔肌には傷一つついていない。
「どうだ、上手いものだろ? 感謝しろよ」
そう言って魔界のプリンスは彼女の下半身を覆うわずかな布を鞭の先でいじった。それまで悲鳴をあげまいと耐えていた悪役令嬢の口からか細い叫び声が漏れる。プリンスの端正な顔が強張った。その瞳にサディスティックな光が宿る。
「もう逃げないのか? それとも、もっとお仕置きしてほしいのか?」
プリンスは狂気の笑い声を上げた。そして悪役令嬢の足をつかみ、その体を仰向けにひっくり返す。それから彼女の腰の上にまたがって座った。
「お前のデカ尻は座りがいがあるなあ。安定感がある。いい椅子だ。おい、悪役令嬢より人間椅子にジョブチェンジしたらどうだ?」
顔を真っ赤にして悪役令嬢が暴れる。しかし体格差はいかんともしがたい。そもそも逆効果だった。尻の下で悪役令嬢が動くたび、魔界のプリンスは興奮の度合いを高めた。頬の筋肉をビリビリ震わせて笑う。
「それ以上は動くな。理性が吹っ飛びそうになる。降参しろ。それで許してやろう」
誇り高き悪役令嬢は魔界のプリンスの顔めがけて唾を吐いた。その直撃を浴びたプリンスは唾を拭いもせず、乗馬用の鞭の先を彼女の首筋に当てた。
「その奇麗な顔を鞭で叩くか? それとも柔かい体がいいかな? 顔を鞭で思いっきり叩いたら、そのお高い鼻がへし折れるぞ。胸なら、服さえ着ていれば痣は見えない。ただし、服を着ていたら布地がビリビリに破けるがなあ! さあ、どちらがいい? 特別サービスで、お前に好きな方を選ばせてやろう」
悔し涙を瞳に湛えた悪役令嬢が白く細い指でブラウスのボタンをすべて外す。指が震えるので時間が掛かったが、プリンスは紳士なので急かさない。怒りもしない。むしろ、逆だ。
「大変そうだな。手伝ってやろうか? ま、気にしないで、ゆっくりやってくれ。意外と良い眺めを楽しんでいるから」
悪役令嬢はプリンスを睨んだ。それから目を伏せた。ボタンがすべて外れた。彼女が歯を食いしばった。そして白い布地を左右に広げた、そのときだった。イケメンなのに鼻の下を伸ばしていたプリンスの瞳を眩い光線が貫く。
魔界のプリンスは絶叫した。
「目が、目が見えない! 素肌の眩しさにやられた……してやられたぁ!」
両手で目を覆った弾みにプリンスの手から乗馬用鞭が落ちた。それを拾い上げた悪役令嬢は呪文を唱えた。
「アブラカダブラ、アブラカダブラ! 鞭よ、この変態にお仕置きを!」
鞭は巨大化し、悪役令嬢が何もしなくとも自動的に動いて魔界のプリンスを滅多打ちにした。衣服が裂け血みどろの肉塊となったプリンスが倒れる。悪役令嬢は、その下から這い出た。逃げ出す時、ズボンだった布地は脱げてしまった。上半身のブラウスも脱げた。
今、悪役令嬢の体を包んでいるのは上下に別れた布のみだった。下半身と上半身のごく一部を包む布地を両手で覆い隠し、彼女は言った。
「ビキニアーマー、念のために着てて良かった」
こんなこともあろうかと、悪役令嬢はビキニアーマーを服の中に着ていたのだった。神秘的なビキニアーマーによって魅力を増した悪役令嬢の肌が、魔界のプリンスを打ち破ったのだ。
「悪役令嬢にビキニアーマーは似合わないって思ったけど、そんなことなかった。私にピッタリだった」
そんな感想を悪役令嬢が述べている間に、歴史的大敗を喫した魔界のプリンスが息を吹き返した。イケメンを汚す血を悪役令嬢の白いブラウスで拭いながら、彼は言った。
「俺の負けだ」
「ちょっと、人の服で血を拭かないでよ」
「だが、勘違いするなよ。俺はお前に負けたんじゃない。そのビキニアーマーに負けたんだ。ビキニアーマーの魅力で目がやられなかったら、お前には勝っていた」
「おい負け犬、人の話を聞きなさいって」
「降参だ。くっ、殺せ。」
「いや、悪役令嬢は基本、人殺しはしないんで。その代わり、私の言うことを聞いてもらいます」
悪役令嬢はビキニアーマーのブラジャーのカップの中から指輪を取り出した。
「これを指に嵌めて」
指輪を受け取った魔界のプリンスは訝しげに尋ねた。
「何なの、これ?」
「ビキニアーマーとセットで買ったの。一緒に買うと送料無料になるのよ」
「それは良かったね。でも、何に使うのさ?」
「これは恋のおまじないの指輪なの。その指輪を嵌めた人間は、もう一つの指輪を嵌めた人間を永遠に愛するのよ」
「え……そんなこと、あるわけないじゃん」
「あるの! 通販のコマーシャルで言ってたもの!」
「だまされてんだって。ちなみに、これいくらしたの?」
悪役令嬢は買った値段を伝えた。魔界のプリンスは気を失いかけた。
「それ詐欺だって! こんなのにだまされんのかよ! 俺、魔界のプリンス辞めてインチキグッズを通販する番組の司会者やるわ」
「うっさい。早く指に嵌めなさい」
魔界のプリンスは渋々、指輪を嵌めた。
「何も起こらないんだけど」
「まあ待ちなさい。もう一つの指輪を、私が指に嵌めたらセッティングは完了っと」
片方のブラのカップから出した指輪を悪役令嬢が自分の指に嵌めると、奇跡が起こった。
「やばい、なんか俺、悪役令嬢がめっちゃ好きになってきた」
そう言うと魔界のプリンスは悪役令嬢にしがみついた。
「好きだ、好きだ、大好きだ! 俺と付き合ってくれ!」
急に抱き締められて悪役令嬢は息が止まるほど驚いた。
「ちょっと、やめて! 放してったら!」
それでも魔界のプリンスの勢いは止まらない。ビキニアーマーを着ただけの薄着な悪役令嬢の体が、傷だらけのプリンスの体との摩擦熱で熱くなる。彼女の冷たい理性が、火傷しそうなくらい熱した本能で融けていく。彼女は喘いだ。
「やめてよ、胸の先が擦れて……いやだ……もう、やめてぇ」
このようにビキニアーマーを着けた女性は、魔界のプリンスすら圧倒する。しかし改良の余地は残されているようだ。猛き女戦士ならまだしも、上品な悪役令嬢の敏感な部分のケアは、まだまだ足りないのである。ビキニアーマーの誕生から、間もなく四十年。これからもビキニアーマーは、戦う女性を守るため、進歩と発展を続けていく。
いのまたむつみ先生に本作品を捧げます。