ばっくんとみるこちゃん
オオカミぬいぐるみのばっくんと、ニンゲンようちえんじのみるこちゃんは仲良しです。
ばっくんは綿が入っているだけのやわらかいぬいぐるみとはちょっとちがいます。
大きな洗濯ばさみみたいなかたいほねが入っていて、体をにぎにぎすると、口がばっくんばっくん開いて動くんです。
だから、他のぬいぐるみよりもたくさんお喋りをするんですね。
「みるこちゃん」
「なあに?」
みるこちゃんがくるりと振り向きました。頭の大きなりぼんがひらりとゆれます。
「おれの体がごろごろする。寝ているあいだに石ころを詰められたんじゃないかな」
ばっくんは不安そうです。
「きのう図書館でオオカミと七匹の子ヤギの本を読んだからそう思うんでしょ」
みるこちゃんは言いました。
七匹の子ヤギをだまして食べた悪いオオカミは、最後は子ヤギのお母さんヤギに石ころを詰められてしまうのです。
「ばっくんはあのオオカミみたいに、子ヤギを食べてないじゃない」
「そうだな!」
ばっくんは元気にうなずきました。でも、
「お母さんヤギは食べた気がする」
とふと思い出しました。
「えっ?」
みるこちゃんは絵本を読んだ時のことを思い出してみました。
みるこちゃんとばっくんは、石ころを詰められたオオカミがあんまりにも可哀想でたまりませんでした。
お母さんヤギがひどいと思ったみるこちゃんは、ばっくんの体をにぎにぎして、お母さんヤギの描いてあるところの絵を、ばっくんばっくんと食べさせました。
ビリッ!
「……あっ!」
あの時、絵本が破れてしまっていたのです。
みるこちゃんは絵本をこっそり棚に戻して、家に帰ってきてしまいました。
そのことをすっかり忘れていました。
「どうしよう……」
みるこちゃんは困りました。
「おれもお母さんヤギ食べちゃったし、いっしょにあやまりに行こう」
「うん」
みるこちゃんは落ち込んだまま、ばっくんをぎゅっと抱きしめて図書館に行きました。
オオカミと七匹の子ヤギの絵本を持って、図書館のお姉さんのところに行きます。
「あの……」
みるこちゃんはもじもじしながら絵本を出しました。
「貸し出しですか?」
お姉さんはにっこり笑って言いました。
「違って、えっと……」
みるこちゃんは絵本が破れてしまったことを、なかなか言い出せません。
「ごめんなさい、おれがお母さんヤギを食べちゃいました」
ばっくんが先にお姉さんに謝りました。お姉さんは首をかしげました。
「ページが破れて、ええと、わたしが破っちゃって、ごめんなさい!」
みるこちゃんはなんとか謝る言葉が言えました。
ばっくんが口をがばっと開けると、くしゃくしゃになったお母さんヤギが出てきました。
「教えてくれてありがとうございます」
お姉さんがまた、にっこり笑って言いました。
怒られたらどうしようと思って、びくびくしていたばっくんとみるこちゃんは、ほっとしました。
お姉さんは、絵本に大きなフィルムを貼って、破れたページを直してくれました。お母さんヤギはちょっとしわしわでしたが、くっついたページは、フィルムできらきらとしています。
みるこちゃんは、帰り道こんな想像をします。
「ばっくん、お母さんヤギも石を詰めてごめんねって、後で悪いオオカミに謝ったんじゃないかな」
「うん。オオカミも、子ヤギを食べようとしてごめんって言ったんじゃないかな」
「じゃあ、ばっくんみたいにいいオオカミになったんだね」
「あはは、そうかも」
オオカミぬいぐるみのばっくんと、ニンゲンようちえんじのみるこちゃんは今日もとっても仲良しです。