第9話 自己紹介
「紹介しよう。神具の印副団長の七羽とただの一員の伝御だ」
「ただのってなんだよ!?」
「亜空七羽です。よろしく」
「伝御だ。よろしくな。ちなみにただの一員じゃなくて、神具の印最速の伝御な」
「「よ、よろしくお願いします」」
二人の紹介は、おそらく光迅や歌奈にとって衝撃的なものになった。
その証拠に唖然として微動だにしない。
だが、これくらいで驚いてもらっては困るので話を進めよう。
「驚くのもわからなくないが、慣れてもらえないと今後に支障を来すぞ?」
「いや、わかってるよ。わかってるんだけど…だって亜空七羽だよ!紫鏡伝御だよ!」
「そうですよ!次代を率いる天才霊跋師です!!」
「俺には普通の事だからよくわからんな」
七羽と伝御が有名なのは周知の事実であり俺も知っている。
だが、俺はそれ以前の二人を知っているし努力を重ねてきたのを間近で見ている。だから天才なんて思わない。こいつらはいつも通りだ。
他人にはあずかり知らぬことだが。
「普通って、そんな態度なのは斂徒だけだよ」
「知らん。別にいいだろ」
「そうそう。斂徒はこうだからいいんだよ。なあ七羽」
「そうだね。斂徒、立ち話もいいけど二人のこと紹介してくれない?」
「わかってる。でも、飯を作ってる最中だったからな。お前ら疲れてるだろうし先に休んでおけ。全員戻ってから話す」
「うん。わかった」
しばらくした後、第二陣、三陣と帰宅してきた。
皆、長期の任務だったのである程度の会話はしたが、客がいるということで部屋で休んだ後、各自呼んで食卓に集まった。
光迅達には他の面々とは会わないようにと言っている。
同じような展開が目に見えていたからな。
さて、現在テーブルの周囲では緊張、驚き、好奇心、敵意?は後で言いつけるか。まあ様々な表情が並んでいる。
全員座ったのはいいが、食べ物を前にする空気感には到底思えないな。
「お前ら。今は夕食の時間だ。そして客がいるんだ。何考えてるか知らんが嫌なら俺の作った料理はやらんぞ?あとハク、お前はまだ食べるな」
「ひゃい」
「斂徒。そうじゃなくて多分君が二人を紹介するのを待ってるんだと思うよ?」
「ん?そうなのか?」
聞けば全員が首を縦に振る。待ったをかけられてがっかりしているハクは除く。
それならそうと言えばいいのに。とも思うが、俺の気持ちを汲んでくれたんだろう。
嫌ではないが、もう少し自分を前に出してくれてもいいんだけどな。
「では紹介しよう。こちら輝橋光迅と泡舞歌奈。家に入りたいということで連れてきた」
「輝橋光迅です。先日斂徒さんに助けていただいて、この師団に加入したいとお願いしました。皆さんに比べて経験不足ですがよろしくお願いします」
「泡舞歌奈です。同じく斂徒さんに以前いた師団を助けていただきました。若輩者ですがよろしくお願いします」
「………」
あたりが静寂に包まれた。
いや、なんで畏まった挨拶してんだよ。いつもの調子でいいだろ。
なんだ、なんでこっちを見るんだ。
「何だ」
「何だじゃないよ!なんでこんな大物ばっかなの!?目がおかしくなっただけなの!?どうにかなりそうだよ!?」
「失礼のないように失礼のないように失礼のないように失礼のないように失礼のないように失礼のないように…」
「お前ら頭おかしいのか」
「「何だって!?」」
そんなことを気にしてたのか。緊張の無駄遣いだな。
神具の印はそんな些細なことは気にしない。
「いやあ、良かったよ。さっき会った通りだね。てっきり斂徒が何かしたのかと思っちゃったよ」
「七羽。そんなことはしないぞ」
「わかってるよ。冗談さ。改めて亜空七羽だ、よろしく。自己紹介的な何かとかした方がいいのかな?」
「いいじゃんそれ。好きな斂徒の料理とかどうだ?」
「なんだよそれ」
「いいね。じゃあ、神具の印副団長をやっています。得意な神技は色を使った術で、基本は後方火力担当です。好きな斂徒の料理はグラタンかな」
七羽は師団の頭脳。作戦の立案やメンバーの仕事の割り振りなどが主な仕事だ。
一級霊跋師であり、《色》を使った戦闘が得意だ。
全ての色の適正を持つ七色持ちであるため、付けられた称号は【七色の支配者】。本人はあまり好きじゃないらしいが。
戦闘技術はもちろんのこと、絡めて、対群、支援能力など多彩でどんな場所でも動ける強さを持っている。
ちなみに今日はグラタンも用意している。七羽はこれがみんなとの思い出だから好きなんだろう。納得だな。
「次は俺!紫鏡伝御だ!さっきは驚かしてごめんな。役職とかはないけど神具の印最速で一番槍だ。得意技は雷の変転!光だって追い越せるぜ?」
「光もですか?」
「ああ!最速だからな!」
「理由になってないよ」
「いいんだよ。それで、あとなんだっけ?ああ、好きな料理か。悩みどころだけど…俺はやっぱり斂徒じるしの魚介だし塩ラーメンだな!」
伝御はうちの火力であり足だ。真っ先に敵軍へと駆ける姿は正に一番槍。
一級霊跋師の中でも最高峰の雷を操り、我が身を迅雷とし一騎当千の実力を誇る。
そんな姿から、雷神なんて呼ばれたりもする。なを本人は気に入っている模様。
今日ラーメンはない。グラタンメインの主食パンだからな。
「じゃあ次は僕かな。颯囲迴遡です。サポート役をやってます。音を使った支援術をよく使うから聞き逃さないでね。斂徒の作ったシュークリームが好きです。よろしく」
「シュークリームが好きなんだ」
「別にいいでしょ。甘いのが好きなの。それに斂徒の作るスイーツは音楽だからね」
「それいっつも言ってるけど、ほんとにわかんねえよ」
「伝御にはわかんないでしょ」
「何でだよ!?」
迴遡は物静かだが頼れるメンバー背中を任せるのに相応しい。俺達の中でも空間把握能力はピカイチで司令塔になることもしばしばある。
二級霊跋師だが、実力は折り紙付きで一級霊跋師にも劣らないと思っている。
また、音楽の才もあり扱える楽器は数知れずといったところか。
そしてもちろん甘いものも作れる。シュークリームではないがデザートも用意している。
「俺の名前は昇日火衣斗。これと言った役職、担当はないが大抵のことはできる。前衛、後衛何でもござれだ。得意の術は《作成》。作って欲しいものがあったら何でも言ってくれ」
「こいつは名匠だからな。服の調整も頼んでおくといい」
「名匠なんて大げさだな。でもありがとよ。あと好きな料理は麻婆豆腐一択だな」
火衣斗はとても器用で万能の工匠。いつも俺たちの足りない部分を埋めてくれる存在だ。
階級は二級霊跋師。火炎を元に様々な武器を作り出す。神具のメンテナンスや霊装の調節、管理も同時に行っている。
火衣斗は辛いもの全般が好きだから、麻婆豆腐だけじゃないと思うが。
「坡土牙苑。前は任せてくれ」
「あー、牙苑は口数が少ないんだ。こいつは最前衛だから必ず仲間を守ってくれる。だよな?」
「…」
牙苑は黙って頷いた。
「まあ、そういうことだから安心してくれ。得意術は結界術で、神具の印の盾だ」
「えっと、わかりました」
別にこいつは人見知りでも、職人気質でもない。ただ、話すのが苦手らしい。
長いこと一緒にいれば、自ずと言いたいことがわかってくるものだ。
「味噌汁だ」
「「え?」」
「味噌汁だ」
「あーっと、多分好きな斂徒の料理を言ってるんじゃないかな?」
「そうなんですか?」
「そうだ」
「「…」」
二人は若干引いているらしい。こればかりは慣れてもうしかない。
いつもこんな感じだが、戦場では頼れる仲間だ。この大きな背中があるから俺達は日頃から安心して戦える。
「私は天神真為。斂徒と付き合っ「違うからな」す。よろしくね~。あ、斂徒に手だしたら殺すからね」
「は、はい」
「真為の言うことは気にしなくて良い」
「ちょっと想像してたのと違うんだけど」
「安心しろ。実力は確かだ」
「ふふん!」「褒めてない」
真為は俺に依存気味なところがあるが、天神家の人間だ。強いの一言に限る。
見れば二人の顔が引き攣っている。イメージとは大違いだろうな。なんせ外じゃ【純白の天使】なんて言われているくらいだ。
「得意なのは知ってると思うけど闇系全般ね。料理は斂徒の作るものなら何でも好きだけど、特に蕎麦は大好物だよ!」
彼女は変わっていると言われることがよくある。だがその本質を理解している者は少ないだろう。
蕎麦が好きなのだって本当かどうかわからない。
強く信頼できるのもそうだ。しかし俺達にはこいつを放しちゃいけない理由は他にもある。
まあ、話すのはまた今度だな。
皆、思い思いの会話をし夕食の時間は過ぎていった。
「いやぁ~、でも本当に斂徒のメンバーって有名人ばっかだな」
「そうです。驚きました!なんで教えてくれなかったんですか?」
「必要ないと思ってな」
「必要大有りです!だって、私たちの憧れですから」
二人が俺たちに熱弁してくれた。
皆が憧れと言われると嬉しいものがあるな。
「憧れって?」
「それはですね、私たちの前の師団の結成理由でもあるんです」
「俺たちは『七羽さんたちみたいな若くして大成した二、三級の霊跋師になろう』って言って意気投合して師団を作ったんだ」
「へぇー、なんか嬉しいな」
「だね、自分たちの努力が認められている感じがするね」
神具の印。できた経緯はそこまでいいものではなかった。
だが、そこに所属するこいつらが憧れと言われるのなら、この師団も認められているのだろうか。
「斂徒は羨ましいとか思わないのか?」
「ん?何がだ?」
「有名になったり、称号があったり」
「ない。俺は表に出る主義ではない。あと一応称号はある」
「えっ、何なんだ?」
「私も知りたいです!」
「教えない」
「「えー」」
あの称号、あんまり好きじゃないんだよな。師匠が考えたからな。センスが子供なんだよ。
「あれ、いいじゃん。なんで教えないの」
「そうだぜ?かっこいいじゃん」
「嫌だ」
「まあまあ」
ああ、こいつらまで言ってくんのか。
ここで真為に入られたら終わりだ。さっさと話題を変えよう。
「まあいい。これで二人は神具の印となったんだ。これからよろしく」
「「やったー!!」」
「書類やら手続きやらがあるから時間空けといてくれ」
「わかりました」
「了解!」
よし、これで平穏は保たれた。
あとは都合を合わせるだけだな。
「七羽、明日空いてるか?」
「午後からなら」
「午後から?なんかあったか?」
「いや、始業式だよ高校の」
最近忙しかったのはある。
学校にも公欠で通っていなかったのもある。
しかし、大切な行事の始業式を俺はすっかり忘れていた。