第7話 弟子入り
“『弟子』とは、自身の技、経験を託し次の代へ己の功績と栄光を背負ってもらうためにいると考えてる。お前はアタシの弟子だが、それ以上に『子』なんだよ”とは我が師匠の談だ。
つまりは、俺があの人の莫大な経験値と技術を教え込まれたのは、『弟子』ではなく『子』として思い、願いを託されたということ。
なのでかは知らないが、俺は『弟子』というものをあまり良いものとは捉えていない。
まあ、つまりは…
「は?嫌なんだが」
そう、端的に言って嫌である。
つい、口から出てしまったが事実だ。
「そこをなんとか!」
「お願いします!」
現在、輝橋と泡舞二人に弟子入り志願されている状況なわけだが、受け入れるつもりに一切なれない。
「すまないが、俺は弟子をとらない主義だ。こんな歳だし、まだ早すぎる。それに弟子自体あんまり良いとは思ってなくてな」
「で、でも」
まあ、呼んでおいて「はい、そうですか」で引き下がれるわけないよな。
「何でお前達は俺の弟子なんかになりたい?先に行っておくが、霊跋師として箔が付いたりはしないぞ」
「そんな箔とか名声とかは考えてない。ただ強くなりたいんだ」
「強く?俺じゃないとダメなのか?俺以外にも強い奴なんてたくさんいるぞ」
「それは…わからない。申し訳ないとは思うけど。でもあの時、助けてもらった時に斂徒さんのように強くなりたいって思ったんだ」
なるほど、輝橋の言い分はわかった。
選択肢が少ないからというのもあるが、きっかけが俺だからっていうのもありそうだ。
「泡舞、お前は?」
「私は…そうですね、正直に言えば光迅くんが行くって言ったところなら良いんじゃないかと思います。でも斂徒さんが聞きたいのはそう言うのじゃないと思いました。なので、私個人で決めるのであれば斂徒さんのところが良いです」
「理由は?」
「まずは実力がとても高いこと。これは光迅くんに教えてもらいました。次に、この仕事の経験が豊富そうなところです。最初に私と会ったときにも外見と行動のギャップがありました。そして最後が信頼できるところです。仕事への責任感と宍輪さんへの接し方でそう判断しました。以上です」
彼女は早口で、しかし周りは聞きやすいスピードで理由を述べてくれた。
何というか、パニックでなければ頭の回転は速そうだと少し感心した。
「わかった。少し誇張している気もするが、二人がそう思ったならいいだろう。じゃあそれを踏まえて言うが、お前達の頼みは本当に弟子じゃなきゃいけないのか?」
「「え?」」
少し混乱してるか?
考えれば今の時代、弟子というものは流行していると言っても過言ではない。
その原因は、一級霊跋師“生垣右魔”にあると言える。
こいつは五角、所謂霊跋師界のトップのさらにその中で最強と謳われる男の弟子だからだ。
五角の面々は必ず弟子を取る決まりとなっているらしい。
その生垣右魔がルーキー最強と言われ、ある意味スター的存在になってしまっている。
なので、今は弟子というものが強くなるにイコールされて頭に浮かびやすいのだろう。
「俺は弟子が嫌なんだ。でもお前達は俺の弟子になって強くなりたいんだろ?だったら折衷案だ」
「折衷案?」
「というと?」
「輝橋、泡舞。家の師団に来い。そこでなら鍛えてやろう」
「師団?」
「ああ、師団だ。大丈夫か?」
「…えっ、斂徒さんって師団入ってたんですか?」
なんだ、その超意外感は。
「俺が入ってて何がおかしい」
「いや、だって、その…」
「愛想とか、社交とかなさそうなのに…」
「おい」
「まあ、あんまりお友達とかいなさそうですよね?」
「お前ら失礼だな」
「ごめんって。でもちょっと冷たいし…」
桃さんにも素っ気ないってこの前言われたばかりなんだが。
そりゃ、人との接し方ははっきりと変わるタイプだと自覚はしている。
だから大丈夫と思っていたんだが、少し改善した方がいいか?
「でも、師団に入るにはリーダーの許可がいると聞きました」
「そうだ。結成ではなく加入なら師団長の認可が下りないとダメだな」
「そうなのか!?じゃあダメじゃないかぁ」
「そうですねリーダーさんにも認めてもらわなければ」
「いや、それ俺だから問題ないぞ」
「斂徒が?」
「リーダーさんですか?」
二人揃って懐疑的な目でこちらを見てくる。
そんなにリーダーっぽくないか俺。
「もしかして、一人でしたか?」
「は?」
「いえ、でしたらリーダーになるのもおかしくないですよね」
「あっ斂徒さんは一人で師団やってたのか!」
「寂しかったんですね…」
「ちげぇよ。仲間もいるし寂しくもねぇよ。本当に失礼だなお前ら」
ああもういい。なんか疲れた。
こうなったら物的証拠だ。確か、桃さんに渡されたのがあったはずだ。
「俺の個人情報だ」
「履歴書みたいなものですか?」
「あぁ、所属とか階級とか書いてあるから。そんなに疑わしいんなら見ろ」
二人して一枚の紙を凝視している。
なんでこんな目に合わなきゃいけないんだ、まったく。
ちなみに中身はこんな感じになっている。
【我来斂徒】
一級霊跋師 17歳
所属:神具の印〈師団長〉
所持神具:鶯の薙刀 紅の薙刀
鬼の籠手 怪界の斧 雨系
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「てか斂徒さん17歳!俺より一つ上だ!」
「そうだな」
「知ってたのか?」
「ああ。救助するに当たって、年齢・容姿・所属は重要事項だからな」
「じゃあ年も近いしタメ口でもいい?」
「好きにしろ」
「そう言う話は後にしてください、光迅くん」
「わかってるよ。ごめんごめん」
「斂徒さんもごめんなさい」
「いや、気にしてない。だが、こいつは猪突猛進なところがあるからお前が手綱を握れよ」
「わ、わかりました」
この泡舞という霊跋師は実力は未知数だが、判断力は人並み以上にあると見込める。
もし我が師団に加入するのであれば、是非輝橋のコントロールをになってもらいたいものだ。
一方、輝橋。こいつは強くなると確信している。ただ、ものを吸収しやすい傾向にありそうなので、そこが俺が気にするべきことなのだろう。
「あの、一つ質問よろしいでしょうか」
「いいぞ」
「私、“神具の印”という師団はあまり聞いたことがありません」
「ああそれな。俺も初めて聞いた、斂徒一人だけなのか?」
「いや、俺含めて七人いる」
「結構多いですね…失礼ながら実力はどの程度ですか?」
「俺と同じくらいだと思う。みんなそれぞれ違ったタイプだからか比べにくいが」
「マジかよ」
驚くのも無理はない。俺は腐っても一級霊跋師の立場にいる。
そんな俺と同等レベルで強いと言っているんだ。
普通なら超有名師団となっていることだろう。
だから、疑問はすぐ浮かぶ。「何故自分達が“神具の印”を知らないのか」と。
二人も気づいたみたいだ。
「それだと、説明がつかなくないですか?そんな師団はすぐ有名になります」
「どういうことなんだ?斂徒?」
輝橋が既に呼び捨てだが、良いとは言ったので気にしないようにしよう。
さて、師団の話だが、率直に言えば俺ぐらいのやつが五人以上もいれば、師団の知名度はグッと上がる。
基本、霊の討伐にあたる師団は集団で挑む。
この理由は様々だが、二つの要因が肝だ。
一つ目は神力の術は、人によって大きく性能を変えること。種類は攻撃的なものから、支援に長けたもの、防御しかできないものまである。得意分野が個人で別れるため、集団戦闘を目安としている。
二つ目は総統所が出している任務の霊の危険度が集団想定で作られていること。簡単に聞こえるかもしれないが、その固定観念の所為で誰もが団員全員で任務に赴いている。
確かに例外もある。燻魂の地や百鬼夜行などには大人数で対処する方が良い。
だが、考えて欲しい。霊の危険度を集団想定にしているなら、そのレベルを上げれば個人でいけるのでは?と。
「それは、家の師団は個人だけで仕事をしているからだ」
「……」
「……」
「「「「「えぇぇぇ!?」」」」」
話を聞いていた残りの三人も一緒に叫んだ。
「ど、どうやって?」
「お前達も入りたいなら必要な情報だな。説明しよう。俺の師団“神具の印”は個々人で任務にあたる。その条件は一定の階級であること」
「一定の階級とは?」
「三級だ」
「高っ!!」
「それ以上の強さを持つことができれば良しだ。その後は桃さん、家の専属の宍輪桃が個別に割り振った任務に行ってもらう。任務の危険度は桃さんや神具の印のメンバーで集めた統計を元に霊階級(一人用)を作成した。だから安全だ。質問あるか?」
「ちょ、ちょっと待ってください。今整理してます」
常識外れなことを言われて頭がパンクしてるみたいだな。
真為が入った時ですら唖然としていたからな。当然だろ。
「なあ斂徒。俺からもいいか?」
「なんだ?」
「つまりは、斂徒のところなら三級にまでなれる。それほど強くなれるってことか?」
やはりこいつは見込みがあるかもしれない。
あの時のように、その目はまっすぐと先の何かを見ているようだ。
それが輝橋光迅の本質ならば
「ああ、確約しよう。“神具の印”では一級霊跋師なんて夢じゃない」