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神具の印  作者: 零
第1章 一級霊跋師「我来斂徒」
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第5話 鬼門

目を閉じ、意識の底へと思考を沈める。

すると、見えないはずの周りの景色が()()()()()

全てが止まって見える。

“これ”を使うことはあまりない。意識に極限的集中は大きな隙と体力の消耗を伴う。だが、その代わりに放たれる一動作は並を遙かに超える。


霊が動く。

圧倒的な速度で詰め寄り、腕を大きく頭上に振り上げる。


そんな動きも、今は十分の一の速さに見える。つまりは俺に追いつけない。

狙いを定める。心臓だ。

霊の心臓。それは基本的になくなれば霊は消えるまさに霊の命とも呼べるもの。

ここまで強い霊ともなれば、心臓の周りは堅い外殻に覆われていることも多々ある。

ここで決める。

この一撃に賭ける。


詠唱をここに、


頭に描くは明確なイメージ。

この術の、()()()()の完成した光景を。


「律、それは契約の下に築かれた開錠の祝詞」


籠手の紅光が強く輝く。


「刻、我が紡ぐは天進昇華の陣」


紅光が詞となり陣を描く。


「開、その血で我が眼に映る闇を滅ぼせ」


陣が門に、紅光が鬼血に変化する。


霊の拳は門に弾かれ、驚いたようにこちらを見た。霊に顔はないんだが、そんな気がした。

大きな隙。

心臓は左胸部。()()()()()

霊との距離は、ほぼ零。

ここだ-


「"鬼門展開"」


鬼門に向けて拳を放つ。

天進昇華。この鬼門は力を何倍にも増幅させる。

膨大な力は閃光となり霊を穿ち、異空間の末端まで届きそうなほどに伸びていく。

周囲の空気は振動し、この空間自体が揺れているように反動が伝わった。

心臓は体諸共粉々に砕け散り、夜空の星のように散っていった。


「戦闘終了」


スイッチを切る。

と同時に息を吐く。

今回の戦闘はいつにも増してギリギリだった。

なんとか場数でやっていたように、今なら感じる。

結構な間組んでいた気もするが、それよりもあの詠唱は良いとは到底言えない。

詠唱に必要なのはイメージ。

もちろん言葉というのは、術の在り方に作用するものでそちらに重きを置くのは当たり前だ。

だが、最終的な結果。つまりは完成した技が自分の望みに近づいてくるには、そこを明確にしないといけない。

あの理想とする姿には、程遠い。


「斂徒さん!!」


一息ついていると輝橋がこちらに手を振っているのが見えた。

傍らには捉えられた少女が寝ていて、無事助けられたように思える。

まったく、今回は博打的要素が多すぎた。時間が無いとはいえ、もっと準備をするべきだったな。

反省点はいろいろあるが、約束は守れそうなので今は良しとしよう。


「凄かった!何なんだあれ!!」

「あれ?」

「あのビームだよ!!」


あれか。ビームじゃないんだけどな。

何故あれをビームと勘違いする人が多いのだろうか?

以前、伝御や火衣斗に見せた時もビームと呼ばれた。


「あれはビームじゃなくて、"疑似鬼砲"だ」

「なんだそれ?」

「詳しいことは省くが、あの鬼門は力を増幅する陣で、殴った力を十倍くらいにしたんだ。鬼門で力の流れに色が付いただけだから、ビームじゃない」

「でも、だったら遠くまであれ届くってことだろっ!ってか鬼門って鬼しか使えない術じゃなかったけ?」

「鬼じゃなくて鬼人な」


当人が「え?え?」と困惑し始めたので、話題を変えよう。


「その子の容体は?」

「ん?ああ、酷い外傷は見当たらないから無事だと思う」

「そうか。良かったな」

「ああ。これからどうするんだ?」

「飛門の札はもう使えん。扉を探す」

「と、扉?」

「簡単に言えば出口だ。時間がない。話は移動しながらで」

「わかった」


ここからは時間との勝負になる。

と言うのも、霊を倒してから周りの霊力が減り始めた。あの霊の存在がこの空間を支えていたんだろう。

よって異空間が無くなってきているということ。すなわち、ここを形成していた霊力が外へと出ていっているということ。

一見、ただ空間が霧散するようにも聞こえるが、その消える瞬間に空間は超圧縮される。

よって、出れはするものの良くて重傷、最悪は命を落とす。

ならば飛門の札で出ればいいと考えるのが普通だが、境界自体が消えかけているので通路を作ろうにも作れない状況になっている。

そこで『扉』だ。扉は単に扉の形をしている訳ではない。この業界で空間同士が最も近い場所を指す言葉だ。

そこならば飛門の札を使うことが可能なのでそれが消える前に探そうということだ。

なので、今俺たちは扉を探して森を駆け回っている。

捉えられていた少女こと愛美は寝ているので、俺が背負うこととなった。

輝橋が心配してきたが「大丈夫だ」とだけ言っておいた。


「こう聞くのはなんだけど、簡単に見つかるものなのか?その扉は」

「知らん。これは経験と知識と勘でどうにかするしかない。先に出ない選択をしたのはお前だ」

「それは覚悟してたからいいんだ。ただ少し心配で聞いただけ」

「そうか」

「ああでも、あの戦いを見れたのは得かも」

「見ていて面白いものでもない」

「面白いとかじゃあないけど、何というか為になるというか」

「真似はするなよ。あんなのはギャンブルと変わらん」

「ギャンブルって、まあ危なっかしい感じがしないでもなかったけど、それでもすごいと思ったよ」

「…」

「あーっと、なんか変だったか?」

「まあなんでもいいが、お前には危機感が足りないな。先行くぞ」

「あっちょっと、待ってくれよ!」


しばらく進むと、ふと違和感を感じた。

うっすらとだけ神社の広場が見える。

少し前に見た景色だが、随分見ていないように感じるのは疲れのせいかな。

これでようやく落ち着けるものだな。


「あった」

「これが扉?」

「ああ。実際には扉の形をしているという話もある」

「そうなのか?」

「まあな、真偽はわからんが」


輝橋は物珍しそうに扉を見ているが、背中で寝てる子の状態も知りたいし、時間もないのでさっさと出よう。

飛門の札を扉に投げれば向こうの景色がはっきりとしたものになった。


「出るぞ」

「わかった」



――――――



異空間から出た後、先に戻った少年二人組に泣きながら感謝されたり、桃さんと依頼した子が来てたり、そう思ったら寝ていた少女が目を覚ましたりと何かと忙しかった。

それでも、ああやってまた笑顔になれたのなら、この仕事をしている甲斐があるものだと思う。

その後の任務完了届けや異常現象などの報告を済まし、長い一日が幕を閉じた。

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