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神具の印  作者: 零
第1章 一級霊跋師「我来斂徒」
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第4話 人型の霊

人型の霊というのは極めて危険だ。

死霊級以上の霊に稀に見られ、三級以上の霊跋師でも対応を誤ると十分死に至る可能性を持つ。

強くそして賢い霊なので、非常に厄介であり対処を急がれる存在だ。

基本的に二、三級以上の霊跋師が五~六人で組んで倒すことを推奨され、同じ階級でも人型かそうじゃないかで戦闘力は大きく変わってくる。



少なくとも死霊級以上と確定している霊が目の前にいる状況では簡単に次の行動を決められやしない。

巨木の根本には、少女が見える。助けてやりたいが、そうすれば目の前の霊に隙を晒す。

こちら側から奇襲でも出来れば良いが、霊はこっちを認識している。隙なんてのものあるわけがない。

タイムリミットは近い。早急な対処が必要だ。救援なんぞ見込めない。

選択肢は一つだ。

隙をつくる。鍵は輝橋。俺が霊と戦って、彼に救助を頼むしか道は残されていない。


「れ、斂徒さん。アイツは?」

「死霊級以上の霊としか言えない。あいつは俺が対処する」

「…俺はいいのか?」

「いらん、むしろ邪魔だ。正直、他を見る暇がなくなる。だから真っ先にあの子を助けろ。いいな?」

「分かった」

「お前は左から出ろ。あの霊が俺に向かって跳んだら、すぐ走れ。保護できたら先に脱出をしろ」


そう言って飛門の札を彼に渡した。

輝橋にはこの役目ですら重いだろう。もう気絶していても無理はない。

でもやろうとしている。なら、俺は前しか向けない。


「…わかった。なあ」

「なんだ?」


顔を向ければ思い詰めたような、決意が固まったような表情で俺を見た。


「アイツは強いのは目に見えてるし、斂徒さんも負けるかも知れない。だからこの札を渡したんだろ?とても危険なのは百も承知だ。だけど俺にできることは何もない。それでも俺はみんなを助けたい。馬鹿と言われようが、無謀と言われようが助けたい。そこには斂徒さんも入ってるんだ。斂徒さんは頼まれただけ。普通ならここで諦めようと促す。でもそれはしなかった。俺だけじゃなくて、みんなの命の恩人なんだよ。だから俺にできることをするから死なないで」


彼はまっすぐとした目で俺を見て、札を返してきた。

普通ならここで馬鹿と一蹴するべきだ。頭ではわかっている。

だが、受け取るべきだと思った。

ただの我儘じゃない。自己中ではない。これは意思だ。

輝橋光迅という一人の人間の生き方を示されたように感じた。

ここで受け取らないのは、失礼に値すると、何故かそう思った。


「お前馬鹿だな」

「すまん。でもいいんだ」

「わかったよ、了解だ。誰一人欠けさせず、この任務完遂させてみせよう」

「ああ!ありがとう!!」


圧倒的に不利な状況。あんなのと戦う準備なんざできていない。

だが、諦めてはならない。

何故なら、それが我来斂徒の生き方だからだ。



身体の中にある()()を最大限に身に纏う。視線には()()()()霊に殺気をぶつける。

見た。瞬間、先ほどとは比べものにはならないプレッシャーを身に受ける。これが開戦の合図。

人型の霊が飛び降りると同時に俺も駆ける。


「行けっ!」


輝橋が木の影から飛び出る。

霊の方は彼に見向きもしない。完全に俺を敵と判断したらしい。ならば僥倖。

今できる最大限で迎え撃つ。

右腕に、紅光を放つ籠手を構える。


———(おに)籠手(こて)

   鬼族により作られた籠手。この籠手には、鬼の鬼血が込められていると言う。

   その鬼血を使える鬼であれば、籠手のみで鬼血を使うことができるだろう。


鶯と紅は、対単体近接戦闘には向かない。

この場で最高かつ最速の一手を出すための最適解。

籠手以外には何も使わない。捌いて殴る。

己の全神経を戦闘に集中させる。


「勝負だ」



俺が先制で霊に攻撃を与えることで始まった。

霊はそれを防御。ダメージはおそらく入ったが、微々たるものだろう。

反撃の隙を与えず二手、三手と間髪入れずに叩き込む。

少々苛立ってきたのか、霊が半ば無理矢理反撃にでる。

それをミリ単位で回避。顔面に右ストレート。少しは響いて欲しかったが、相も変わらずのご様子だ。

黒い拳が右から迫る。屈んで回避。そのまま蹴り上げられ、思わず防御。五メートルばかり吹っ飛ぶ。霊の追撃が飛ぶ。弾系統の術だ。身を捻って避けるが、霊の猛攻は止まらない。


(まだだ)


前傾姿勢で霊へと駆ける。弾幕なんて気にしない。

勢いをつけ腹部に掌底。若干体勢が崩れたところを突き、回し蹴りを入れる。

すかさず、籠手のついた右をお見舞いする。

ようやく膝をついてくれたみたいだな。

だが、休憩させるつもりは一切無い。

霊が起き上がると同時に顔面に膝を入れ込む。息をつく間もなく、人で言う肩、腰、首の関節を殴る蹴る。

最後に右腕に全力を込め、あのでかい体を二メートルほど飛ばした。


(一度距離をとろう)


二十歩ほど下がったとき、霊は異質な(こえ)をあげて起き上がった。おそらく怒っている。その瞬間、霊が一瞬で目の前に迫る。

怒らせることは判断力を鈍らせるため、有効な手段の一つだが…


(むしろパワーが上がったか?)


眼前の右拳を左手で受け流し、右で顎にアッパーを打ち込む。

それを、霊は難なく耐える。びくともしなくなった。

それでも拳を振り続ける。


「チッ」


思わず舌打ちが漏れる。

本気になった。なってしまった。

攻撃は全て避け何度も反撃をしているが、こちらの集中力はいつ切れるかわからない。

相手には防御があるが、俺は受け流すまでが限界だ。一度受けたら終わり。

劣勢になれば、その瞬間押し負ける。そしたら後は、敗北の一途を辿るのみ。

そんなことを考えている間にも攻防は続く。

右頬を拳が掠める。血が出た感覚がする。


(まずいな…)


集中力が切れてきている。今、死の足音は目前で響いている。

時間がない。

らしくはないが、賭けにでよう。


俺はわざと霊の攻撃に合わせて攻撃し、相殺した。

力の相殺。それは、ほぼ同等な力を真逆の向きからぶつけること。

それをすると、力の進行が一瞬だけ止まる。つまり…

この瞬間、互いに間隔(ラグ)ができる。


戦場に刹那の静けさが訪れた。

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